「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第9話

「奥様戻りました」

子供たちが戻りました。
護衛の少年少女や、引率の元冒険者も一緒です。
下は五つ六つの幼子から、六十超えの老人まで、老若男女混成です。

「お帰りなさい。
井戸でよく手を洗ってきてください。
今から解体と料理を勉強をしてもらいますからね。
お願いしましたよ」

「お任せください、奥様」

頭格の障害を持った元冒険者が返事をしてくれます。
私はみんなから奥様と呼ばれるようになりました。
ルーカス様たちの誰が夫か分からなくても、赤ちゃんと乳母を連れているので、叙爵された亜竜退治の誰かの妻だと思われているのでしょう。

「ママ……」

「どうしたの、エマちゃん?
早く手を洗ってらっしゃい」

母親が恋しいのでしょうね。
双子は忌み嫌われているので、姉妹で捨てられてしまったのだろうと、ルーカス様が言っておられました。
なんと酷い親でしょう!

「ママ……」

「ミアちゃんも寂しいの?
でも我慢して働かないとダメよ。
働かない者食うべからずと言うのよ。
さあ、ミアちゃんもエマちゃんも手を洗ってきなさい。
お腹いっぱい食べさせてあげたいから、ちゃんと働いてきなさい」

「「はい」」

二人一緒にギュッと抱きしめてあげたら、うれしそうに、でも寂しそうに、井戸の方にトコトコと歩いていきました。
こんな小さい子でも、働けるようにしなければいけません。
私たちにだって、いつ何があるか分からないのです。
多くの名門貴族に恥をかかせたのです。
どんな報復を受けるか分からないのです。

ルーカス様たちが、護衛が安全に往復できる低階層のダンジョンで、獣や魔獣が全滅しそうな勢いで狩りをされます。
それこそ鼠であろうと蝙蝠であろうとスライムであろうと関係なしです。
湧き出てくるモノを片っ端から狩って、荷物持ちの子供たちが背負う籠に入れていくのです。

貧民以外は狩りもしなければ食べもしないモノを、邪竜退治の英雄達が狩り、子供たちの解体や料理の練習台にして、最終的には食材にするのです。
そのお陰で、子供たちの栄養状態は格段に改善しました。
ボロ雑巾のようだった衣服も、狩りの途中で集めた麻や葛や芭蕉の繊維から布を作ることで、荒いですが何とかみられる自作の衣服になりました。
しかも鼠や蝙蝠、蛇や鼬の毛皮で補強していますので、結構丈夫です。

そんな事を考えながら、猪肉の各部位を料理していきます。
団員全員の食事ですから、一度に大量に作れ料理。
目も手も離せる煮込み料理が中心になります。
猪肉と魔境で集めた根菜の煮込みは、全団員が大好きです。
コツはソースを別に作っておいて、炒めた猪肉や根菜と合わせて煮る事です。
一度に作ろうとすると、ソースがものたらない味になったり、肉や野菜の旨みが抜けてしまった料理になるのです。

残念ですが、見習や荷物持ちは食べることができません。
彼らは自分たちが運んだ食材しか使えないのです。
ですが、これも勉強なのです。
誰も食べたがらない鼠や蛇でも、丁寧に下ごしらえして、手間暇を惜しまないで料理すれば、美味しくなるのだと知って欲しいのです。
貧乏騎士家の生活の知恵です。



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