「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第7話

私たちはエイデンを張り倒したその足で魔都に向かいました。
普通なら危険な旅です。
王侯貴族による悪政で国内は荒れているのです。
悪しき者が力に任せて弱き者から奪う世の中になっています。

でも弱き者も黙って奪われ続けませんでした。
弱き者たちで集まり、自衛の手段を取り始めているのです。
百人にも満たない村々も、武器を持ち防壁を作って自衛しています。
弱き者も、生きるための旅人を襲う盗賊に変じる事すらあるのです。
心ある者が末世と嘆くような状態です。

ですが、私はルーカス様たちと旅することができたので、なんの不安もなく魔都まで旅することができました。
旅の途中は自給自足です。
獣や魔獣を狩って食糧とし、食べないモノは素材として備蓄しました。
私の役目は料理です。
ルーカス様たちの身体と心が癒えるような、美味しい料理を作るのが役目です。

「いや~、久しぶりにカチュア殿の野営料理を食べたが、絶品だな!」

鍛冶師兼戦士のメイソンが私の料理をほめてくれます。
満面の笑みを浮かべてくれていますから、お世辞ではないと思います。
料理自体の完成度は、王都の実家で作った料理ほどではありません。
ですが食材が段違いです。
哀しい話ですが、実家で用意できる食材は安いモノばかりです。
夜営で使うのは、狩りで手に入れた一番の食材を使います。
どちらが美味しいかなんて、誰にでも分かります。

「おうよ!
どれだけこの料理を夢見たことか!
何度エイデン所に押しかけて料理を作ってもらおうかと思ったか。
だけど、エイデンのいけ好かない顔を見るのが嫌で思いとどまったよ!」

神官戦士のデービッドが、吐き捨てるように言います。
今さらですが、エイデンは嫌われていたのですね。
ルーカス様たちが屋敷に来なかった理由が、今ようやくわかりました。
特に神に仕えるデービッドには、神の教えに背くエイデンが許せず、忌み嫌っていたのでしょう。

「まあ、まあ、まあ。
エイデンの話は、せっかくの食事が不味くなるからやめましょう。
今はそれより料理を愉しみましょう。
ハーパーさんも食べてくれていますか?
遠慮なく食べてくださね」

「はい、ありがとうございます。
遠慮せず頂いております」

ルーカス様が乳母のハーパーにまで気を使ってくれます。
本当に優し方です。
彼が邪竜退治の時の実質的なリーダーです。
表向きは騎士のエイデンがリーダーでしたが、本当にパーティーをまとめ、エイデンと他のメンバーを喧嘩させることなく邪竜退治したのです。
本当に懐かしく心安らぐ時間です。
私はロディーにお乳を与えながら幸せな気分に浸っていました。


コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品