「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第4話

「よかったわね。
これで王都から逃げ出すことができるわね」

母上がとても喜んでくれています。
母上も忸怩たる思いがあったのでしょう。
我が家が貧しいために、私を支援できない。
それは母親としてとても辛い事でしょう。
私も母になって理解できるようになりました。

「だが少し心配だ。
逃げる先が魔都というのはな。
親としては心配になってしまう」

確かに父上の心配ももっともです。
宗教都市の教都は、教会の総本部があり、敬虔な修道者が多いところです。
エイデンの浮気から逃げ出したと知れば、助けてくれる可能性もあります。
ですが修道者が基本の教都で、私が自活することは難しいのです。

一方商都は商売の都市です。
自活するために商売を始めるのに障害はありません。
ですが生き馬の目を抜くと言われるほど競争が激しいところです。
騎士家の娘として育った私が、商売で勝ち抜けるような場所とは思えません。

ですが新たに行くと決めた魔都は、大魔境と大ダンジョンによって繁栄する、冒険者のための都市です。
莫大な富が大魔境と大ダンジョンからもたらせるので、冒険者の財布のひもがゆるく、素人でも商売を始めやすいという噂です。
ただ問題は、圧倒的に男性比率が高く、女性が襲われる確率が高いという噂があることです。

「まあ、ルーカス閣下たちが助けてくれるという事だから、私の心配など杞憂だとは思うが、父親の老婆心と笑ってくれ」

自嘲めいた笑いをされる父上に、胸が締め付けられます。
同時にあたたかな喜びが胸を満たします。
私への愛情がひしひしと感じられます。
本気で心配してくださっているのです。
信じていたエイデンに裏切られたので、父上も人を信用できなくなっているのですが、そんな心配はいりません。

ルーカス様たちはエイデンとは根本的に違うのです。
そのことは、邪竜退治の間お世話させていただいた私が、誰よりも知っています。
ルーカス様たちは、虚栄心の強いエイデンとは違うのです。
王家や国から差別的な扱いを受けても、王族や貴族のために邪竜を斃したんじゃない、世の中のため人のために斃したんだと、豪快に笑える人たちなのです。
叙爵された今も、魔境やダンジョンに行って収入を得るような方々なのです。

「大丈夫でございます。
ルーカス様たちのお世話をする事で、生活の面倒を見てもらえることになっていますから、邪竜退治の時と同じです。
余裕があれば、食堂を開いて将来のために資金稼ぎもできます。
それが少し楽しみでもあるのですよ」

私の言葉を聞いて、父上も母上も少し安心してくれたようです。
ようやく心からの笑みを浮かべてくれました。


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