「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第1話

「君はとてもきれいだよ。
顔も身体もカチュアとは比べモノにならないよ」

「まあ、そんな事を言っていいの?
邪竜退治の間、ずっと支えてきてくれた恋女房でしょ。
幼い頃から兄妹のように育った、相思相愛の関係だと聞いていたわよ。
だから私を誘ってくれた時は驚いたわ」

「はん!
あんな奴はお情けで結婚してやっただけさ。
邪竜を退治した英雄が、叙爵されたからと婚約を解消できないからね。
本当なら向こうから遠慮すべきなんだよ。
相手はたかが騎士の家柄だぜ。
伯爵となった俺様と釣り合いがとれるないだろ。
それをいつまでも縋りつきやがって。
それにあんなソバカスだらけの顔ではその気にならない。
身体だって鶏ガラみたいに骨ばかりだ。
エイヴァの豊満な抱き心地のいい身体とは比べものにならなよ」

「まあ、褒めてくれてうれしいわ。
だったらもう一戦する?」

「ああ、一戦どころか気絶するまで抱いてやるよ。
なんたった俺の聖剣は竜だって殺しちまうからな!」

眼の前が、真っ暗になりました。
このまま、ここで死んでしまいたい。
もし、身体の子供が宿っていなければ、自害していました。
子供を道ずれにして死を選ぶ事はできません。
伯爵邸や道で倒れるわけにはいきません。
なんとしてでも実家に戻らなければ。

ずっと、愛しあっていると思っていました。
あんな風に厭われているとは思っていませんでした。
騎士だったころの彼は、優しい人でした。
誰でも分け隔てなく接する人でした。
私の事も愛してくれていました。
もしかしたら、あの頃は諦めていただけなのかもしれません。
騎士の家柄では、私程度の人間で我慢するしかないと思っていたのかも?

いけない!
心を強く持って、実家までたどり着くのです!
もう臨月でしたから、いつでも出産できるように準備していました。
母の言う通り戻らなければよかった。
エイデンが心配で戻ってしまったから、浮気現場を見てしまったのです。

悔しい!
命懸けでエイデンの子を産もうとしているときに、事もあろうに屋敷に女を引き入れて浮気するなんて!
エイヴァと呼ばれていた女。
聞き覚えのある名前です。
確かホワイト伯爵夫人だったはずです。

どこのパーティーで会っても、士族でしかな騎士家の出身の私を、蔑んだ目で見ていた人です。
私を貶め傷つけるためにエイデンの誘いを受けたのかもしれません。
エイヴァが初めてではないはずです。
今までも幾度も浮気していたのでしょう。
私を蔑みバカにした目で見ていた夫人や令嬢は、エイデンと浮気していたのです。
何も知らなかったのは私だけだったのです!


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