「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第3話

この家から逃げだすために、私は寝食を忘れて自分を鍛えることにしました。
ですがやれることは限られています。
私は侯爵家の令嬢なのです。
深窓の令嬢なのです。
武芸の武の字も知りませんから、今から直接的な戦闘力を鍛えようと思っても無理がありますので、せめて基礎体力だけでもつけることにしました。

私に残された可能性は、魔力と神力です。
先天的な魔力は才能のみで決まります。
魔力の効率的な使い方や、その場に必要な的確な魔術の判断は、経験を積み上げなければいけませんが、いまさら経験のなさを嘆いても仕方がありません。
才能が一番大切だという事にかけるしかありません。

神力も同じです。
神に愛されているかが一番大切です。
教会は信仰力が大切だと説教しますが、嘘だと思います。
信仰が一番大切なら、長年教会で修業している者をさしおいて、生まれたばかりの赤子が聖者や聖女に選ばれるはずがないのです。

庶民ならば、何をおいても魔力と神力の有無を調べます。
それが人生を逆転させる最善の方法だからです。
量によって違いはありますが、少なくとも最低限の魔力か神力があるだけで、教会か領主に召し抱えてもらえます。

飼い殺しという表現をする者もいますが、極貧の家に生まれたとしても、少なくとも飢えて死ぬ事だけはなくなるのです。
ある程度豊かな家に魔力と神力を持って生まれていれば、教会や領主から逃れて冒険者になって荒稼ぎすることも、王家の直臣となって貴族位を目指すことも可能なのです。

ですが、豊かな高位貴族の家に生まれることができれば、しかも夫の子供さえ生めばいい女なら、魔力や神力を持っていても無意味です。
これが争いの激しい時代に生まれていれば別ですが、今の大陸は平和協調路線が主流で、国家間の争いも貴族間の争いも少ないのです。
そんな争いに力を注ぐくらいならば、魔境やダンジョンで狩りをする方がよほど豊かな生活ができるのです。

だから私は魔力と神力を調べたことがありませんでした。
父上も母上も私の魔力と神力について話されたことはありません。
だがら、期待を込めて密かに調べてみました。
子供が生まれた時に必要になるから、問題がないか事前に確認しておきたいと言って、公爵家の宝物殿から、魔力と神力を調べる魔道具を持ってきてもらいました。

私は賭けに勝ちました!
私には魔力と神力がありました。
しかもそれは信じられないほど莫大な量でした。
これを上手く使えるようになったら、子供を連れて公爵家から逃げられるかもしれません。
私は密かに魔力と神力を鍛えました。

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