魔法武士・種子島時堯

克全

第289話飛騨国始末1

1548年9月:京・種子島屋敷

「飛騨はどうするのでおじゃるか?」

「はてさて、少々迷っております」

「迷う事など無いでおじゃるよ。三木一族などは、ずっと将軍家や近衛家に媚びを売っていたでおじゃる、今更権大納言殿にすり寄ろうと、気にする事など無いでおじゃる」

やれやれ、九条禅定太閤殿下はおかんむりのようだが、今になって近衛家が形振り構わず俺に媚びを売るのが、気に喰わないのだろうか?

「そうだな、三木直頼は飛騨国司家の内紛に付け入り、嫡男に姉小路を名乗らせ飛騨を横領しようとしておった。権大納言殿が武家の棟梁となるのなら、このような男は排除すべきではないのか?」

鷹司太政大臣公も元気になられたな、自画自賛だが、魔法と薬酒の成果だな。

「そうなのではございますが、元々は姉小路一族が惰弱で、家政を預かっていた古川富氏を心服させれなかったことにあります」

「公家も武家も、家臣は忠義を示すのが本分であろうに、情けなき世になったものよ」

「鷹司禅定太閤殿下の申される通りでございますが、戦国乱世では仕方なき事でございます。ですからこそ、1日でも早く御上の御威光をもって日ノ本を統一しなければなりません」

「そうであればこそでおじゃる、御上の御威光に逆らう飛騨の国衆は、討伐してよいのではないでおじゃるか?」

「そうだな、極力殺さないようにしている権大納言殿の気持ちは分かっているが、何を迷っておられるのだ?」

鷹司太政大臣公は、俺の手製薬酒を片手で寛いでおられる。ガラス製の切子細工がいたく気に入ったようで、黒砂糖か蜂蜜を入れた薬酒を飲むときは、必ず赤の切子細工を使われる。

「向姉小路家の高綱殿は、一時は田向家の養子になっておられます」

「そうなのか? だがそれが何の問題になるのだ?」

「まて、田向家が庭田家の流れを汲んでいる事を気にしておるのか?」

「鷹司禅定太閤殿下の申される通りでございます」

「そうでおじゃったか、それならば迷いが出ても仕方ないでおじゃる」

「後花園天皇と伏見宮貞常親王の生母であられる敷政門院は、庭田家の出であられたな」

「そうでございましたな、父上」

後花園天皇は、後南朝勢力の両統迭立を抑え込み、北朝による皇統の独占を図る為、8親等以上離れたているのに皇位を継承された。

「飛騨の国衆を滅ぼすも、家臣の列に加えるも容易い事なのでございますが、田向家を断絶させたままでよいのか、少々迷っております」

「本家の庭田家には、先ごろ次男が産まれておじゃったな?」

「そうだった、だったら何も姉小路高綱などに気を配る必要もなかろう」

「では姉小路家はどうなのでございますか? 小一条流の流れを汲む、唯一残された公家だとお聞きしているのですか?」

「そうでおじゃるな、だが元々姉小路は南朝に味方しておじゃった、断絶させても問題無いでおじゃるよ」

「それではどうでございましょうか、本来の姉小路宗家は小島家と聞きおよんでおります。我が一門に姉小路の娘を迎え、姉小路を名乗らせて宜しいでしょうか?」

「麿は構わないでおじゃるよ、鷹司卿はどう思うでおじゃる?」

「姉小路家など、別にどうでもよいのではないか。それよりも庭田家は、権大納言殿に敵対する本願寺に娘を嫁がせておる。田向家を復活させるなど考えず、むしろ徹底的に潰してもよかろう」

「しかし父上様、御上にも田向家の血が流れておられます。早々無碍に扱う訳にもいきません」

「面倒なことよな」

「それでしたら、伏見宮家で養い切れない王子殿下を、寺社ではなく田向家に臣籍降下(しんせきこうか)して頂いてはどうでしょうか?」

「う~む、それはどうかの」

「そうでおじゃるな、伏見の宮家の体面もおじゃるのでな」

「家禄の方は、種子島家の方で御用意させていただきますが?」

「う~む、九条卿も御父上も迷われるのが当然なのだが、御上の子弟を直宮家を創設するに当たり、世襲宮家の臣籍降下も考えていいのではありませんか?」

「それは、流石に我らが切り出す訳にはいかんぞ」

「そうでおじゃるな」

「御上がどう思われておられるか、それが知りとうございます」

「ふむ、どう思われる九条卿」

「そうでおじゃるな、飛騨の話から大きく外れておじゃるが、これからの皇室を考えれば、避けて通れないでおじゃる」

「そうでございますとも、父上様も九条卿も、これからの日ノ本の仕組みを真剣に考えて頂きたい」

「そう猛るでない、我らがどう考えようとも、権大納言殿の協力なしには何も出来んのだぞ」

「そうれはそうでございますが」

「のう権大納言殿、1度臣籍に降下してしまえば、皇籍に復帰するのは難しい。皇統の継承を考えれば、臣籍降下ではなく、僧籍に入る方がいいのではないか?」

「しかしながら、門跡と成った寺社の横暴はなはだしく、門跡寺社に戦国乱世の責任の一端がございます。特に興福寺や比叡山の横暴は、許し難い物がございます」

「確かにそれは問題でおじゃるな」

「それに皇籍復帰は難しいと申されますが、最近の土御門入道親王殿下や大智院宮親王殿下のように、多くの方々が皇籍復帰されておられます」

「そうでございますよ、父上様、九条卿」

「確かにそうだが」

「そうでおじゃるがな」

「いっそ皇統を継ぐべき皇族の数を決めておきませんか?」

「ふむ、どう決めるのだ」

「皇統の継承に問題がないように、常に皇位継承権を定め、それを外れた方々に臣籍降下していただくのです。定数を切るような事があった場合は、臣籍降下した方に皇籍復帰していただくのです」

「う~む」

「確かに好い方法に思えるでおじゃるが、御上に奏上するのは少々憚られるの」

「では私が奏上いたしましょう!」


「庭田家」
宇多源氏の流れを引く堂上家
家格:羽林家
極官:権大納言
支流:田向家(公家)
:佐々木野家(公家)
:大原家(羽林家)
:綾小路家(羽林家)
庭田幸子:後花園天皇と伏見宮貞常親王の生母
庭田重親の娘・顕能尼:浄土真宗本願寺派第11世宗主・顕如の母

「綾小路家」
家格:羽林家
極官:権中納言
1518年に断絶

「田向家」
宇多源氏の流れを引く堂上家
家格:羽林家
極官:権中納言
姉小路済継の次男・姉小路高綱が養子になるも、実家に戻り断絶

「姉小路家」
小一条流藤原師尹の子である藤原済時が、京の姉小路に居を構えた事から子孫が姉小路を称する
参議・姉小路高基が建武の新政で飛騨国司に任じられ下向し、以後代々飛騨国司家
「飛騨の乱」で室町幕府の派遣した守護京極氏に敗れ、一族も小島家(宗家)と古河家・向小島家(向家)に分裂。
分裂:小島家(宗家)・小島時秀
:古河家・姉小路高綱
:向小島家(向家)

「古河姉小路家」

姉小路済継
居城:田苅城主
家格:飛騨国司家・古河姉小路家
官位:参議

古河姉小路済俊(あねがこうじなりとし)
生没年:14??~1527
居城:田苅城主
家格:飛騨国司家・古河姉小路家
官位:左少将
父親:姉小路済継
:当代・姉小路済俊で断絶

古河姉小路秀綱
生没年:14??~1527
居城:田苅城主
家格:飛騨国司家・古河姉小路家
官位:左少将
父親:姉小路済俊
:夭折

「向姉小路家」

姉小路高綱(あねがこうしげつぐ)
別名:田向重継・小鷹利高綱
生没年:15??~1576
居城:小鷹利城
家格:飛騨国司姉小路家の庶家
父親:姉小路済継
養父:田向重治
子供:姉小路宣政
1535年:小鷹利高綱が病死すると、嫡男・右近宣政がまだ幼少であったため、家臣の牛丸又太郎重親が謀叛。小鷹利城を乗っ取った。以後は重頼、綱親と代を重ねたが、綱親の時に三木自綱、広瀬宗城らの攻撃を受けて落城。

姉小路宣政(あねこうじのぶまさ)
生没年:15??~1535
別名:小鷹利宣政
父親:姉小路高綱

「古河姉小路家臣団(あねがこうじけかしんだん)」
牛丸重親(うしまるしげちか)
生没年:15??~1583)
主君:姉小路済俊
1576年:姉小路高綱が死去すると、幼君になりかわり小鷹利城の政務を執る
:同僚・後藤重元と対立
1577年:後藤重元を打ち破り名実ともに小鷹利城主となった。


牛丸親綱(うしまるちかつな)
生没年:15??~15??
居城:吉城郡小鷹利城
父親:牛丸重親
通称:又右衛門
1583年:父・牛丸重綱の死去にともない家督を相続
:姉小路自綱に小鷹利城を奪われる
1585年:金森長近の飛騨侵攻に加わるも本領回復は出来なかった。

後藤重元(ごとうしげもと)
生没年:1516~1577)
主君:小鷹利姉小路家
通称:帯刀
1576年:姉小路高綱が死去すると、小鷹利城に入った牛丸重親と対立
:執政として小鷹利城に入った牛丸重親が幼君姉小路宣政を蔑ろにする
:幼君・宣政の命の危険を察し小鷹利城脱出を企図
:狩と偽って姉小路宣政を連れ出すが、牛丸重親はそれに気づいて追手を派遣「角川の戦い」で、奮戦空しく討死

渡部筑前守(わたなべちくぜんのかみ)
生没年:15??~15??
主君:姉小路済継

山賀新兵衛門(やまがへいえもん)
生没年:15??~15??
主君:姉小路済継


「小島姉小路家」

小島時秀
家格:飛騨国司家の分家
居城:吉城郡小島城

小島時親
家格:飛騨国司家の分家
居城:吉城郡小島城

小島雅秀(こじままさひで)
生没年:15??~15??
家格:飛騨国司家の分家
居城:吉城郡小島城

小島時光(こじまときみつ)
生没年:15??~1585
父親:小島雅秀
1582年:姉小路自綱と結んで、諏訪城主江馬輝盛を討ち、姉小路家の権力拡大に貢献
1585年:金森長近の侵攻の際、姉小路自綱に組したため攻撃を受けて落城して討死

参考参照
ウィキペディア
戦国武将録

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