魔法武士・種子島時堯

克全

第285話美濃侵攻準備

1548年6月:京・種子島屋敷

「それで次は美濃でおじゃるか? それとも越前でおじゃるか?」

「一応予定は美濃でございますが、越前国内で反乱などの不測の事態が起これば、第3軍が直ぐに侵攻出来るように、準備だけは怠りなくさせております」

「そうでおじゃるか、それで権大納言殿も忙しいのでおじゃるな。鷹司禅定太閤殿も、鷹司太政大臣公も、なかなか権大納言殿に会えないと言っておったでおじゃるよ」

「最近は京にいる時間も短くなりましたから、仕方ない事でございます」

ほとんど種子島屋敷で暮らしているのと変わらない、九条禅定太閤殿下のようには会えないよ。

「麿のようにここで暮らせばいいのでおじゃる、猶子扱いになったとは言え、鷹司家と権大納言殿は親子の縁を結んでいるでおじゃる」

「近衛家の介入があったとは言え、養嗣子として縁組したものを、猶子扱いに格下げしたのですから、鷹司家としても遠慮が有るのでしょう、仕方ない事でございます」

「ふん! 近衛の娘と権大納言殿の間に産まれた男子に、鷹司家の名跡を継がせるのでおじゃるから、そんな事は気にする事無いでおじゃる」

「その通りではございますが、なかなか割り切れないのが人の心でございますから」

「つまらないでおじゃる、どうせ飲むのなら鷹司禅定太閤殿と飲みたいでおじゃる」

「しかしこの時間では、御呼びするにも夜風が心配でございます」

「そうでおじゃるな、鷹司太政大臣公は、死病を権大納言殿に治してもらって日も経たないでおじゃるな」

「屋敷の者に、温めて美味しい薬酒を鷹司屋敷に届けさせましょう。離れた場所で同じ時間に、互いを思って酌み交わす酒も乙なものではございませんか?」

「そうでおじゃるな、それも乙なものでおじゃるな。それで酒の肴にして悪いが、美濃国攻略の段取りはどうなっておじゃるか?」

「土岐・六角連合もなかなか強かでございまして、織田信秀を美濃から追い払う為に、駿河の今川義元を利用しました」

「今川軍が西三河に集まっているのは、土岐と六角の画策であったでおじゃるか?」

「はい、更に越前の朝倉家も若狭との国境に兵を集め、我が第3軍が動けないように牽制しております」

「それも土岐・六角連合の画策でおじゃるか?」

「朝倉家も馬鹿ではございません、美濃が落ちれば次は越前と言う事は理解しておりましょう」

「ふむ、それもそうでおじゃるな、織田が尾張に引いた後の美濃はどうなっておじゃるか?」

「土岐頼武・頼純親子と斎藤道三が連合して、土岐・六角連合と激しく争っております」

「そうでおじゃるか、だが権大納言殿は御上の下に国衆を統合する心算でおじゃたはず、土岐頼武・頼純親子と斎藤が力を残すのは本意ではないでおじゃろう?」

「はい、各勢力を潰し合わせた上で、適当な所で土岐・六角連合だけを滅亡させます。両勢力の旗下にある国衆・地侍に対しても、種子島家の直臣や六衛府直卒の武士になるよう調略しております。どの勢力も配下を引き抜かれて、軍勢としての力は失う事になります」

「そうでおじゃったか、それならば安心でおじゃるが、織田には多少手心を加えてやって欲しいでおじゃる」

「昔からなにくれとなく、御上や朝廷に献金献納していたからでありますか?」

「そうでおじゃる、ほとんどの大名・国衆が、僅かな献金献納で官職を要求したのもかかわらず、織田は珍しく自分から官職を要求しなかったでおじゃる。権大納言殿以外では、織田だけでおじゃる」

「分かりました、現状の本領を全て認めましょう。ただし、既に失った西三河は種子島家の直轄地といたしますし、御領所や公家の荘園は種子島家の代官が管理させていただきます」

「それは当然でおじゃるな、それだけでおじゃるか?」

「熱田や津島の権益でございますが、伊勢にある御上の御領湊や伊勢神宮の神領湊を優遇いたしますと、衰退してしまい織田家が苦しむことになりますが、それでよろしゅうございますか?」

「それは仕方ない事でおじゃる、尊王の志が有るなら多少の不利益は甘んじて受けるべきでおじゃる。だが権大納言殿、織田が衰微しすぎる訳ではないでおじゃろうな?」

「その辺は、長島に築く種子島家の湊と合わせて調整たします。決して織田家を蔑ろにはいたしませんから、ご安心下さいませ」

「それはそうと、尾張で織田家と敵対している者どもはどうするでおじゃる?」

「そうですね、分かり易く味方の織田家を弾正忠家と呼びますが、守護の斯波家と守護代を務める大和守家と伊勢守家が連合を組み、弾正忠家と尾張を巡って争っております。彼らは徹底的に叩く所存でございます」

「ちょっと待つでおじゃる、それでは土岐・六角連合、朝倉、今川、斯波が組んでいるでおじゃるか? しかし斯波家と今川家は不倶戴天の敵同士でおじゃろう、朝倉も越前を斯波家から奪った裏切り者でおじゃろう」

「我が種子島家の侵攻を前にしては、過去の諍いは棚上げするしかないのでございましょう。それに今の斯波家は、隠居した斯波義達も現当主の義統も大和守家の傀儡に過ぎません」

「弾正忠家を滅ぼし、尾張の実権を握りたい大和守家に言い成りでおじゃるか」

「左様でございます」

九条禅定太閤殿下はこれで納得して下さったが、実際には他にも色々とあるのだ。弾正忠家が支配する津島・熱田の両湊にしても、元々支配していた国衆・地侍・社家の間で主導家争いがある。特に船を所有し、種子島家と交易関係が有る者達は、弾正忠家の支配を離れ種子島家と直結したいと申し込んで来ている。

更に美濃と尾張の国境で独立勢力のように振る舞っていた、川並衆と呼ばれる者達も種子島家に接触して来て、直接主従関係を結びたいと申し込んで来ている。

もっと言えば、今川家と織田家や松平家との争いの中で、両属するような立場であったり、離反と帰属を繰り返し生き残りを図っていた国衆・地侍も、種子島家に使者を送ってきている。万が一種子島家が侵攻してきた場合には、少しでも早く縁を結んでおいた方が生き残る確率が高いと、必死で動いているのだ。

特に沿岸線に領地を持ち、僅かでも船を持ち水軍衆を抱えている国衆や、一艘でも船を持っている地侍は、交易艦隊に繰り入れてもらえば一獲千金も夢ではない。いや、いっそ一族を武家と商家に分けて生き残りを図れば、武家としての栄達と商家としての一獲千金を同時に叶える事も夢ではないのだ。

実際問題、種子島家の九州統一戦争で武家としては滅んだ家が、商家としてよみがえり、莫大な財を築いているのだ。今川家は遠江の国衆・地侍には厳しいとの報告も受けているから、遠江・三河の国衆・地侍の中には、1日でも早く種子島家の侵攻を望む、苦境の国衆・地侍も多いのであろう。

それを考えた上で、建前上中立の立場にいる、御用商人や根来水軍衆を尾張・三河・遠江・駿河に差し向けて、交易と言う建前で接触し、種子島家への降伏臣従条件を話し合わせている。特に遠江今川家とも言われた堀越家は、花倉の乱と河東の乱で今川義元に敗れ、大きく勢力を失っているので、今川義元への反感は大きく、既に降伏臣従すると使者を送ってきているほどだ。

他にも南朝系の国衆である井伊家などは、度重なる今川家の家政介入に我慢の限度が越えたのだろう。降伏臣従の使者が、人質を送ってもいいと言ってくるほどだから、よほど今川家の政が酷いのだろう。

後は木曽の木曾義昌、飛騨の姉小路高綱が接触を図っている、はてさてどうしたものだろう。

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