魔法武士・種子島時堯

克全

第220話想定外の出来事

1545年1月

「どうしたものでじゃるかな?」

九条禅定太閤殿下がホトホト困ったと言うように聞いて来るが、俺だって困っているんだから聞かないで欲しい。

「畿内はほぼ平定出来ています、播磨は調略途中でございますが、近江・若狭・丹波を平定いしておりますから、直接京に敵が攻め込む恐れもございません」

「それは権大納言殿が直接出雲に参ると言う事でおじゃるか?」

「戦を止めるにしても、大内家の手伝いをするにしても、京にいては何もできません」

「それはそうでおじゃるが、権大納言殿が京を離れるとなると、御上も公家たちも不安に思うでおじゃるよ」

「しかしながら、万が一にも大内家が負けるような事があってはなりません」

「この状況で大内が負けるような事があるのかな?」

准三宮・鷹司兼輔殿下は大内家が勝つと信じておられるようだが、吉田郡山城の戦いから月山富田城の戦いに至る流れを知り、大内晴持の溺死と言う結末を知っている俺には楽観的な考えは出来ない。

1540年に尼子経久が死去したが、俺が尼子家の領地を活用して日本海側の交易を行っていた事と、大内家と婚姻を結び大内領の湊を活用し瀬戸内海の交易を行う事で、両家の仲裁をして吉田郡山城の戦いも月山富田城の戦いも起こらなかった。

だからこそ安心して畿内と九州・台湾に勢力を注ぎ、中国四国の事は放置していたのだが、もう少し注意を払っておくべきだった!

だが忍者を多数放っておいた御蔭で、最悪の状態になる前に事の次第を知る事が出来た。

「どうも私が畿内を次々と切り取った事が、大内家の武闘派家臣団と尼子詮久を刺激してしまったようです。互いに中国地方を統一せんと、一気に合戦に発展してしまったようでございます」

「だがな権大納言殿、大内はともかく尼子が仲裁を断ったのは愚かとしか言いようがない。大内は跡継ぎが一条家の血を引いておるし、権大納言殿とも縁戚になっておる。少々の我儘(わがまま)を言っても交易を止められることはないだろうが、尼子家ではそうはいかぬ。その程度の判断が出来ないような尼子家に、大内家を討ち破る力があるとは思えないのだが?」

鷹司関白殿下の考えはもっともなのだが、今度の一件に毛利元就が絡んでいると忍者が調べあげてくれたから、放置しておけない一大事になったのだ。だが俺と違って、どれほど口で説明しても御三人に毛利元就の恐ろしさは理解出来ないだろう。

「禅定太閤殿下、准三宮殿下、関白殿下、大内家が1度や2度負ける事は大したことではございません。ですが流れ矢の1つ、暗殺者の1人が大内晴持殿を殺す事が恐ろしいでございます。万が一そのような事が起これば、一条家と大内家の仲が割かれてしまいます」

「どういうことでおじゃるか?」

「おさいの方が懐妊しております、義隆殿が実子に家督を譲りたくて、晴持殿を敵に殺されたと見せかけて暗殺したと言う噂が流れたらどうなると思われますか?!」

「それは! 天下の大乱が起こる可能性があるでおじゃるよ!」

「ここは何としても戦を止めるか、晴持殿を護るべく手配りせねばならないのです!」

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