魔法武士・種子島時堯

克全

第126話氷室開き

1540年6月1日『京・種子島屋敷』種子島権中納言時堯・12歳

「権中納言殿、このアイスクリームと言うものは美味しいでおじゃるな!」

「お口に合いましたのなら、作った甲斐がございます」

「合うどころではないでおじゃるな! 暑気払いにこのように冷たく美味しいものを食べられるなど、とても幸せでおじゃる」

九条禅定太閤殿下が手放しでアイスクリームをほめてくれる。今日は水無月(6月)の1日で、昔から宮中で氷室(ひむろ)から氷を取り寄せ、暑さをしのぐ行事が行われていた。他にも茅の輪くぐりで穢れを祓う行事も行われていたのだが、長引く戦乱と貧困によってそのような行事を続けることが出来なくなっていた。

だが種子島家の献金献納で資金的な余裕が出来た朝廷は、各種行事を徐々に復活させていった。そこで俺もそれに協力することにして、暑気払い用に伯耆国大山に氷室を作って蓄えていた巨大な氷を献納する事にしたのだ。

もちろんそれだけでは無く、果汁・果肉・牛乳・砂糖を混ぜ合わせて乳脂肪分が4%~8%のジェラートと、8%以上のアイスクリームを作って御上に献上することにしたのだ。もちろんブリオッシュも焼きあげて、皿では無くブリオッシュに挟んで食べれるようにもした。

この献納に御上と公家衆はとても喜ばれたが、特に女官や婦女子には歓喜を持って迎えられた。巨大な氷は御所内を涼しくしただけでは無く、他にも各種料理用に作って献上していた。例えば、外郎(ういろう)にふっくらと炊いた小豆を乗せた和菓子、水無月(みなづき)を冷やすことにも使われた。

「そうでおじゃるな、氷で冷やした焼酎を飲みながら食べる氷室饅頭も絶品でおじゃるな!」

隣で冷えた焼酎片手に氷室饅頭を食べておられる、鷹司忠冬義父上さまがしみじみとつぶやかれた。確かに酒好きには、夏の昼日中から氷で冷やした酒を飲むのは無上の喜びなのだろう。

本来なら宮中に参内して、御上主催の行事に出るべきなのかも知れないが、誰気兼ねなく自分の屋敷で酒を飲む方が御二人には幸せなのだろう。まあ自分の屋敷では無く種子島屋敷なのは、ありとあらゆる酒が蔵一杯に納められ、海鼠腸や醍醐に海鼠や鱶鰭など、ありとあらゆる美味珍味が山のようにあるからだろう。

「権中納言殿、葡萄酒が欲しいのだが」

「赤葡萄酒と白葡萄酒を持って参れ」

鷹司忠冬義父上さまに願いを受けて、俺は侍女として新たに屋敷に仕える事になった公家縁の女に酒の追加を命じた。

そうそう、俺は細川晴元軍を取り押さえて御所を御守りした事を評価され、御所内に屋敷地を賜ったうえに権中納言に任官された。鷹司家の養嗣子の地位も御上直々に認めて頂き、例え鷹司忠冬義父上さまに実子がお生まれになられても、俺が鷹司家を継ぐ事が決定した。

外郎(ういろう)
米粉の穀粉に砂糖と湯水を練り合わせ型に注いで蒸籠で蒸して作る

水無月(みなづき)
外郎(ういろう)生地にふっくらと炊いた小豆を乗せ三角形に包丁されたお菓子

氷室饅頭(ひむろまんじゅう)
こし餡の入った白、赤(桃色)緑の3色丸型の酒饅頭(麦饅頭)

コメント

コメントを書く

「歴史」の人気作品

書籍化作品