魔法武士・種子島時堯

克全

第119話3月3日・初体験

1540年3月『筑前国・大宰府』種子島大弐時堯・12歳

「さあ、3人とも穢れを祓うために、形代とした人形を流しましょう」

「「「はい!」」」

さて、俺もいつもいつも合戦や内政、御上や九条禅定太閤殿下の接待をしているだけではない。毎日ちゃんと大宰府の屋敷に帰って3人の相手をしている。

3人といっても正妻や妾が1人増えたわけではない、義理の姪である九条初子殿がずっと大宰府の屋敷に残っているのだ。禅定太閤殿下は、大宰府のほうが安全で豊かな生活を送らせてやれると判断されているのだろう。

俺としてもその期待に応えるべく、出来る限りのことをしている。で、今日はその一環として、朝廷ではとうの昔に行う事が出来なくなった、「上巳の節句」や「曲水の宴」を、俺が主催してやることにしたのだ。

「上巳の節句」は京の貴族階級の子女が、天皇の御所を模した御殿や飾り付けで遊んで健康と厄除を願ったものと言われており、「曲水の宴」は、水の流れのある庭園などでその流れのふちに出席者が座り、流れてくる盃が自分の前を通り過ぎるまでに詩歌を読み、盃の酒を飲んで次へ流し、別の建物でその詩歌を披講するという雅なものだ。

今は穢れを祓う禊代わりに雛人形を流しているのだが、参加している公家子弟衆や侍女衆のはしゃぎ様が半端じゃない!

どうも、朝廷でも開催することができなくなった「曲水の宴」を自分たちが参加できることに、異様に興奮しているようで、正直ちょっとひいてしまう。比較的豊かな土佐一条家で育った於富殿や、幼くて訳が分からない初子殿はそれほど緊張も興奮もされていないが、貧乏暮らしが長く朝廷の衰微も理解している兼子殿は涙ぐむほど喜んでくれている。

九条兼子(15)・正妻
一条於富(13)・正妻
九条初子(8) ・義理の姪

興奮しすぎた参加者が詩歌を思いっきりとちったり、美味い酒を飲みすぎて泥酔してしまったりもしたが、おおむね皆愉しんでくれたようだ。

もちろん料理もそれなりに準備はしたが、参加希望者が多かったこともあるが、御上をお迎えする料理や正月に国衆・自侍を慰労する料理とは比べ物にはならない。それでもそれなりには時間も銭もかけて準備をして、雛祭りらしいメニューをそろえた。

三色菱餅
白酒または甘酒
魚:春告げ魚である鰆の塩焼き
煮染め:昆布巻きにしん・くわい(芽が出る)
和え物:タニシと浅葱の酢味噌和え
雛ちらし寿司:
椀:はまぐりの潮汁
お菓子:雛あられ

三色菱餅
赤:解毒作用のある山梔子の実で赤味をつけ健康を祝うため
白:菱の実を入れ血圧低下の効果を加え、清浄を表し残雪を模している
緑:増血効果がある蓬を使い、春先に芽吹く蓬の新芽によって穢れを祓い萌える若草に喩えた

雛ちらし寿司
酢海老・錦糸卵・干瓢煮しめ・椎茸煮しめ・鱈の桜デンブ・水煮筍・蒟蒻など

雛あられ
もち米を炒って作る爆米にたっぷりと砂糖をかけたものや、しょう油や塩味で味を調えたものもあるし、菱餅と一緒に作った三色のものもある。だが中には贅沢に菜種油で揚げたものも用意した。

この曲水の宴を機会に結婚するカップルが後でたくさん現れた。参加した公家の子弟が侍女に言い寄って想いを遂げたり振られたりということがあったそうだ。

俺も出産しても大丈夫になった九条兼子と、初めて床入りをした。

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