魔法武士・種子島時堯

克全

第107話献上品

1539年12月『京・御所』種子島大弐時堯・11歳

次の日に創り出した空き地に紀伊国の沖合で狩ったマッコウクジラを運んできた。マッコウクジラを担ぎ上げて紀州国から御所まで空を飛んで駆けてくる姿は、それはそれは威容でありその威圧効果は、全ての武家公家に対して圧倒的だった。

俺は直接御上(天皇陛下)に謁見できないから、九条禅定太閤殿下の助言に従い、そうそうに御所を後にして九条屋敷で手料理を作りながら、身体内で駆虫薬・予防薬を創り出してすごした。

禅定太閤殿下はクジラを俺から御上への献上品だと説明した上で、クジラを御上から京で困窮する貧民を下賜なされるように助言された。応仁の乱以降、京では戦で焼け出されて野宿生活をし、その日の食事にも事欠く貧民が多くいた。そんな貧民にとって50トンを超えるマッコウクジラは、飢えを満たし今日1日を生き延びる最高の贈り物になる。

そんな献策を受けた御上は、即座に貧民たちにクジラ下賜する詔を出されたが、流石に御所内に貧民を入れる訳にもいかず、禅定太閤殿下から種子島家家臣で六衛府で番長を任されている者が、九条屋敷にいる俺の元に使いにやって来た。

そこで俺は再度クジラを担ぎ上げて、下京の貧民街までクジラを空を翔けて移動させた。だがマッコウクジラは高級石鹸・高級シャンプー・高級蝋燭の原料となる油が大量に採れるし、龍涎香を腹に持っている可能性もある。

何よりも問題なのはマッコウクジラの体内に含まれる微量の水銀に注意する必要があるのだ。マッコウクジラは妊婦が摂食量を注意すべき魚介類の1つであり、1回に食べる量を約80gとした場合、摂食は週に1回まで(1週間当たり80g程度)が適量なのだ。それに例え男であっても油抜きをしないで大量に食べると下痢をする恐れがある。だから妊婦の為に、マッコウクジラ以外に大型の鮫を狩って運んできた。まあ鮫も高級食品で漢方薬としても使える肝油が採れるから、全部を貧民に振る舞う訳ではなかったが。

マッコウクジラの警備は六衛府に出仕している種子島家家臣が交代で務め、解体と製品化・食料品化は九州から連れて来た職人と、摂津・和泉・紀伊・伊勢・丹後・若狭・越前から連れて来たクジラ解体経験者にやらせた。

もちろん御上や公家の方々のもクジラの肉は振る舞われ、尾の身・鹿の子、脂スノ子の刺身・鯨のベーコン・尾の身のステーキ・大和煮・おでん(関東煮)に入れる、サエズリ(舌)・コロ(油抜きをした皮)・百畳(胃袋)・スジ肉が食卓をにぎわすことになった。

もちろん食卓などないから、食膳に盛られて供されるのだが、同時に種子島家から各種の酒も献上され、珍味酒肴として百畳(胃袋)・百尋(小腸)・アバ(カルビ肉の塩ゆで)・豆ワタ(腎臓)・姫ワタ(食道)・白ワタ(膵臓)・睾丸・歯茎(じゃばら)・たけり/珍宝(クジラの男根)も配られ久し振りに豊かな食事を食べることができたのだった。

但し雄しか狩らないので、ふけり(クジラの子宮)はありません。

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