魔法武士・種子島時堯

克全

第58話九条卿とクジラ狩り

1537年4月『肥前国・五島列島付近海上』種子島右近衛権少将時堯・9歳

「凄いでおじゃる! 凄いでおじゃる! 凄いでおじゃる!」

俺に抱かれながら九条殿下は狂喜乱舞しそうな勢いで騒いでおられる。俺がマッコウクジラをパンチ1発で仕留めたのを見られて、その力と光景に衝撃を受けられたのだろう。まあ神話の話でもなければ、パンチでクジラを仕留めるなどありえない。それを実際見れば、それも自分を抱えて空を飛んでいる神仏も申し子と噂のある俺がやってのけて見せれば、興奮しない方がおかしいというものだろう。

俺としても、九条卿を抱えている状況でクジラ狩りなどしたくはなかった。だが何かと忙しく狩りができる時間が減ってきており、サメのように血を撒いておびき寄せることのできないクジラを探す時間が惜しいのだ。運よく1番金になるマッコウクジラと出会った機会を逃すわけにはいかなかったのだ!

「少将、このクジラをどうするのでおじゃるか?」

「殿下に少々海水にかけてしまうかもしれないのですが、このマッコウクジラは高価な龍涎香を腹に持っているかもしれませんし、何より莫大な肉や脂をとることができます。ここは湊まで押していきたいのですがよろしいでしょうか?」

「おもしろいでおじゃる! 見てみたいのでおじゃる!」

殿下の許可を受けて、俺は海上にプカプカ浮かんでいるマッコウクジラを運ぼうとしたが、さすがに殿下を片手に持って、もう片手でクジラを持ち上げるのは不可能だった。出来ないわけではないが、殿下がクジラに押し潰されるという弊害が出てしまう。

そこで直轄領に持ち帰るのをあきらめ、殿下を五島の江川城に一旦お戻しし、クジラも五島の湊に運ぶことにした。種子島家だけの利益を考えれば、時間をかけ無理をしても鷹尾湊あたりまで運ぶべきなのだが、時間がかかりすぎると海底に沈んでしまったり、サメやシャチに食い散らかされてしまうかもしれない。

それに五島の領民にクジラの解体料を払いクジラ関係の産業を振興させれば、五島の領民の心は完全に種子島家のものになるだろう。そうなれば五島の国衆・地侍も種子島家に逆らうことはできないし、心底忠誠を誓うようになるかもしれない。

仕方なく江川城に戻った俺と殿下に対して、宇久盛定は顔色を変えて必死の接待を行った。領内を息も切れんばかり駆け回り、手に入る限りの山海の美味珍味を集めようとした。

俺も龍涎香を確保する必要から、殿下を鷹尾城にお運びすることもできないし、殿下自身もクジラの解体に興味津々だった。まあ殿下には遣唐使の時代から続く五島手延べうどんを食べていただこう。地獄だきだけでも十分美味しいのだが、いりやき鍋・いか詰めうどんも美味しいし、手持ちの材料で作れるグラタンうどんなら、殿下も満足してくださるだろう!

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