立見家武芸帖
第87話家臣10
「実際に人を斬ったことがなければ、仇討ちの場でも斬れぬ。
生きた人を斬らせるわけにはいかぬから、この死骸を斬れ。
まずは我が手本を見せてやる」
我はそう言って、四人の死骸を重ねた所に刀を振り下ろした。
これが刀剣の鑑定書を書くために必要な試し斬りだ。
余の中には色々の試し斬りがあるが、一番権威があるのは山田浅右衛門殿が決められた、死骸を斬って試す方法だ。
だから我もそれに従って、四つ胴の試し斬りをしている。
山田浅右衛門殿は、死骸から薬を作っているので、自分の屋敷に死骸を集めて試し斬りをしているが、我にはそこまではできない。
試し斬りは平気だが、死骸を材料に薬など作れない。
だから死骸は、よい関係が築けた車殿の新吉原裏にある屋敷の置いてもらい、そこで試し斬りをしているが、古くなった死骸は山田浅右衛門殿に売っているようだ。
我は二十日間連続で試し斬りを行った。
それだけ試し斬りを頼まれていた刀剣があったのだ。
今迄は死骸が手に入らず、試し斬りができなかったのだが、車殿とよい関係が築けたお陰で、多くの死骸が手に入るようになった。
それだけで二千両近い鑑定書代が手に入ったが、それはついでに過ぎない。
我の本当の目的は、重太郎に死骸を斬らせる事だ。
初めて死骸を斬った日は、飯が喰えなかったようだ。
無理矢理に喰っても、嘔吐していた。
だがこれは絶対に慣れてもらわねばならない。
実戦流派を名乗る我の道場で代稽古を務めてもらうために、何よりも仇討ちの場で気後れしないようにするためにも、人を斬り慣れてもらわねばならない。
二十日間、何百回も死骸を斬ったことで、重太郎はひと回り大きくなった。
道場で打ち合っても、躊躇うことなく必殺の打ち込みができるようになった。
人を傷つける事が、多少平気になっている。
太平の世には無用の慣れかもしれないが、敵討ちをしなければいけない重太郎には、どうしても必要な慣れだった。
二十日の間に、敵である鮫島全次郎久堅の居場所を、車殿は配下を駆使して見事に探し当ててくれていた。
我が主になって敵討ちをするのなら、重太郎を鍛える必要などない。
重太郎が箸にも棒にも掛からぬ弱さなら、我が先に鮫島全次郎を叩きのめして無力化し、重太郎に討たせればいい。
だが重太郎はなかなかの腕前だ。
鮫島全次郎が並の腕前ならば、独りで敵討ちができるだけの腕前だ。
だが、鮫島全次郎が我に匹敵するほどの強者の可能性もある。
その可能性が少しでもある限り、最善の準備をしなければならぬ。
その間に我が鮫島全次郎の腕前を確かめる。
孫子の兵法にもあるように、彼を知り己を知れば百戦殆からず、なのだ。
生きた人を斬らせるわけにはいかぬから、この死骸を斬れ。
まずは我が手本を見せてやる」
我はそう言って、四人の死骸を重ねた所に刀を振り下ろした。
これが刀剣の鑑定書を書くために必要な試し斬りだ。
余の中には色々の試し斬りがあるが、一番権威があるのは山田浅右衛門殿が決められた、死骸を斬って試す方法だ。
だから我もそれに従って、四つ胴の試し斬りをしている。
山田浅右衛門殿は、死骸から薬を作っているので、自分の屋敷に死骸を集めて試し斬りをしているが、我にはそこまではできない。
試し斬りは平気だが、死骸を材料に薬など作れない。
だから死骸は、よい関係が築けた車殿の新吉原裏にある屋敷の置いてもらい、そこで試し斬りをしているが、古くなった死骸は山田浅右衛門殿に売っているようだ。
我は二十日間連続で試し斬りを行った。
それだけ試し斬りを頼まれていた刀剣があったのだ。
今迄は死骸が手に入らず、試し斬りができなかったのだが、車殿とよい関係が築けたお陰で、多くの死骸が手に入るようになった。
それだけで二千両近い鑑定書代が手に入ったが、それはついでに過ぎない。
我の本当の目的は、重太郎に死骸を斬らせる事だ。
初めて死骸を斬った日は、飯が喰えなかったようだ。
無理矢理に喰っても、嘔吐していた。
だがこれは絶対に慣れてもらわねばならない。
実戦流派を名乗る我の道場で代稽古を務めてもらうために、何よりも仇討ちの場で気後れしないようにするためにも、人を斬り慣れてもらわねばならない。
二十日間、何百回も死骸を斬ったことで、重太郎はひと回り大きくなった。
道場で打ち合っても、躊躇うことなく必殺の打ち込みができるようになった。
人を傷つける事が、多少平気になっている。
太平の世には無用の慣れかもしれないが、敵討ちをしなければいけない重太郎には、どうしても必要な慣れだった。
二十日の間に、敵である鮫島全次郎久堅の居場所を、車殿は配下を駆使して見事に探し当ててくれていた。
我が主になって敵討ちをするのなら、重太郎を鍛える必要などない。
重太郎が箸にも棒にも掛からぬ弱さなら、我が先に鮫島全次郎を叩きのめして無力化し、重太郎に討たせればいい。
だが重太郎はなかなかの腕前だ。
鮫島全次郎が並の腕前ならば、独りで敵討ちができるだけの腕前だ。
だが、鮫島全次郎が我に匹敵するほどの強者の可能性もある。
その可能性が少しでもある限り、最善の準備をしなければならぬ。
その間に我が鮫島全次郎の腕前を確かめる。
孫子の兵法にもあるように、彼を知り己を知れば百戦殆からず、なのだ。
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