立見家武芸帖

克全

第29話仇討ち1

御老中達が宴席を設けてくださってから七日後、山名の殿様と立ち合った。
家川念流の奥義を極められた殿様には、剣では勝てなかった。
だが殿様の御所望で槍でも立ち合うことになり、それは我が勝った。
一勝一敗で勝負を分けるのが、遺恨を残さない最善であろう。

「いや、誠見事であった。
多くの立ち合いを見てきたが、これほど迫力のある立ち合いは初めてだった。
どちらかが死ぬかと思ったぞ」

我は江戸町方十手捕縄術の他にも色々と学び、自己流となっていたが、剣のみに頼ると山名の殿様には及ばない。
柳生新陰流を今一度学び直し、更なる精進が大切であろう。
まあ、御老中も白河公も喜んでくれているし、今はこれでよかろう。

「侍従殿は藤七郎を剣術指南役にしていたのでしたな」

白河公が御老中を公式な呼び方をした。
これは何かあるな。

「左様でございます、越中守殿」

「三十人扶持と聞くが、それで間違いないですか」

「間違いございません」

「では白河藩で知行三百石の槍術指南役として召し抱えてもよろしかな」

我を無視して話し合われているが、それは困る。
我の性格で城勤めは無理なのだ。
ほぼ間違いなく古参家臣と問題を起こす。
城勤めの不始末で腹を切るなど、真っ平御免なのだ。

「御老中、越中守殿、そう藤七郎を虐めてはいけません。
藤七郎は武芸者ですぞ、城勤めなどさせては可哀想です。
今まで通り藩邸に招いて武芸を披露させるのが、藤七郎のためです。
それに御老中は、藤七郎に御様御用を与えるように動いてやると、申されたのではありませんか。
御様御用は浪人である事が幕府の決まりではありませんか」

「確かに衛門尉殿の申される通りであった。
だがそうなると、田沼家も扶持を与えられなくなるな。
まあ、金の問題は出稽古の手当てを弾めば済む事だが、それでは後ろ盾になってやることができなくなるのう。
どう思われますかな、白河公」

やれ、やれ、山名の殿様のお陰で助かった。
御老中も白河公と呼ぶことで、私的な問題に戻そうとされている。
問題は白河公がそれを受けてくださるかどうかだが。

「ふっふっふっふっ。
手に取るなやはり野に置け蓮華草であったか。
恩ある者に無理を言うわけにもいかぬか。
ならば我が家の江戸藩邸にも四日に一度出稽古に来てもらおうかのう」

助かった。
これで腹を切らなくても済む。
だがこのままでは、山名の殿様まで我を出稽古に呼んでくださるかもしれない。
御老中や十一万石の白河藩と同じ出稽古料を、無役の山名家に出してもらうわけにはいかんな。

「山名のお殿様、これからも我に険を御指南願いたいのですが、お願いできますでしょうか」



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