幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
第5話:憂鬱・ニルラル公爵家騎士団長
とんでもない貧乏くじを引かされてしまった。
公爵家で実権を振るうビエンナに取り入り、ようやくニルラル公爵軍の騎士団長の地位を得たと思ったら、強力な魔獣が巣食う大魔境に行けと言う。
仮病を使って逃げようとしたが、ビエンナの氷のように非情な眼で見られたら、恐ろしくてとても病気だなどと口に出来なかった。
「死にたくなければ周囲の警戒を怠るな!」
不安と恐怖で及び腰の徒士を叱責して、気合を入れさせる。
魔獣をどれだけ早く発見できるかで、生きて帰れるかどうかがかかっている。
本当ならば適当の大魔境の浅いところを回って、見つからなかったと報告したいところだが、そんな嘘が通用するビエンナではない。
先代の奥方様と忠義の家臣達の殺され方、残された忠臣家族がどれほど残虐な眼にあわされたかを思い出せば、命懸けでカチュアを探すしかない。
「ギャァァァァ!」
「密集体形を取れ、愚か者!
一瞬の油断が命取りだと何度言えばわかる!」
最外周部を歩かせていた徒士の一人が、悲鳴と共に消えた。
何に襲われたのかは分からないが、魔獣に喰われたという事だけは確かだ。
油断をするなとは言ったが、誰も油断などしていない。
どれほど全身全霊で警戒しても、魔獣の襲撃を知覚する事など不可能だ。
生贄となった誰かの悲鳴の後で、ようやく襲撃された事を理解する。
「ウギャアア、この、この、この、この」
錯乱した従騎士の一人が、動きの遅い魔蟲にハルバートを叩きつけている。
強固な外殻で覆われた魔蟲は、柔らかい地面の上で叩いても斃せない。
盾の上にのせて奇麗に叩きつけるか、火で焼き殺すしかない。
そんな事はもう全員分かっているのだが、恐怖で叩かずにはおられないのだろう。
「よせ、もう止めろ、それよりも先に行くぞ。
こんな所で止まったら魔蟲に集り喰われてしまうぞ!」
「ギャァァァァ、嫌だ、いやだ、イヤダ、もういやだぁあああああ!」
「おい、よせ、やめろ、戻るんだ!」
精神の限界に達したのだろう、従騎士が泣き叫びながら隊列から離れて行った。
直ぐに魔獣に喰われて楽になるだろう。
だが俺達はまだこの苦しみから逃れなれない。
最初二百騎千人いた騎士団が、今では四百人を切っている。
本来なら最前線で戦うはずの騎士が、魔獣を恐れて徒士や従騎士を盾にして真ん中に集まり、命永らえている。
かくゆう団長の俺が、命惜しさに一番真ん中にいるのだから、栄光あるニルラル公爵家騎士団の名誉も地に落ちた。
先代の奥方や忠臣の方々が虐殺されるのを、見て見ぬふりをして地位の安泰を図り、ビエンナに媚び諂って地位を得た者達の末路には相応しい死に方だな。
「ウォオオオオオ!」
有名な大魔境魔狼の遠吠えだ。
彼らに捕捉されて生きて帰った者はいない。
死から免れられないと思い知らされて、ようやく欲から解放された。
これで楽になれる、恥多き一生もこれで終わりだ。
公爵家で実権を振るうビエンナに取り入り、ようやくニルラル公爵軍の騎士団長の地位を得たと思ったら、強力な魔獣が巣食う大魔境に行けと言う。
仮病を使って逃げようとしたが、ビエンナの氷のように非情な眼で見られたら、恐ろしくてとても病気だなどと口に出来なかった。
「死にたくなければ周囲の警戒を怠るな!」
不安と恐怖で及び腰の徒士を叱責して、気合を入れさせる。
魔獣をどれだけ早く発見できるかで、生きて帰れるかどうかがかかっている。
本当ならば適当の大魔境の浅いところを回って、見つからなかったと報告したいところだが、そんな嘘が通用するビエンナではない。
先代の奥方様と忠義の家臣達の殺され方、残された忠臣家族がどれほど残虐な眼にあわされたかを思い出せば、命懸けでカチュアを探すしかない。
「ギャァァァァ!」
「密集体形を取れ、愚か者!
一瞬の油断が命取りだと何度言えばわかる!」
最外周部を歩かせていた徒士の一人が、悲鳴と共に消えた。
何に襲われたのかは分からないが、魔獣に喰われたという事だけは確かだ。
油断をするなとは言ったが、誰も油断などしていない。
どれほど全身全霊で警戒しても、魔獣の襲撃を知覚する事など不可能だ。
生贄となった誰かの悲鳴の後で、ようやく襲撃された事を理解する。
「ウギャアア、この、この、この、この」
錯乱した従騎士の一人が、動きの遅い魔蟲にハルバートを叩きつけている。
強固な外殻で覆われた魔蟲は、柔らかい地面の上で叩いても斃せない。
盾の上にのせて奇麗に叩きつけるか、火で焼き殺すしかない。
そんな事はもう全員分かっているのだが、恐怖で叩かずにはおられないのだろう。
「よせ、もう止めろ、それよりも先に行くぞ。
こんな所で止まったら魔蟲に集り喰われてしまうぞ!」
「ギャァァァァ、嫌だ、いやだ、イヤダ、もういやだぁあああああ!」
「おい、よせ、やめろ、戻るんだ!」
精神の限界に達したのだろう、従騎士が泣き叫びながら隊列から離れて行った。
直ぐに魔獣に喰われて楽になるだろう。
だが俺達はまだこの苦しみから逃れなれない。
最初二百騎千人いた騎士団が、今では四百人を切っている。
本来なら最前線で戦うはずの騎士が、魔獣を恐れて徒士や従騎士を盾にして真ん中に集まり、命永らえている。
かくゆう団長の俺が、命惜しさに一番真ん中にいるのだから、栄光あるニルラル公爵家騎士団の名誉も地に落ちた。
先代の奥方や忠臣の方々が虐殺されるのを、見て見ぬふりをして地位の安泰を図り、ビエンナに媚び諂って地位を得た者達の末路には相応しい死に方だな。
「ウォオオオオオ!」
有名な大魔境魔狼の遠吠えだ。
彼らに捕捉されて生きて帰った者はいない。
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