引きこもり吸血姫に一目惚れ

克全

第29話:限界

さらに半年過ぎて、ルークはほとんどなにも食べなくなってしまった。
いや、何も食べられなくなってしまった。
徐々に細って来た身体に点滴を打ってもらい、延命させてきた。
だがもうこれ以上の延命は限界だった。
寝る時間も惜しんで一時間おきに寝返りをさせていたが、身体中に床ずれができてしまっている。

今ではルークだけではなく、クロスケも寝たきりになっている。
ルークだけでなくクロスケも寝返りをさせなければいけない状態だ。
最初は自転車に大きな荷台をつけてルークだけでなくクロスケを乗せ、獣医院を一日二往復していたが、ダンボまで倒れて限界になった。
三頭を交互に獣医院に連れて行くのは不可能だった。

ペーパードライバーだった俺が、一念発起して軽自動車を買った。
下手くそな運転で毎日獣医院に三頭を連れて行っている。
ダンボまで倒れては日本産トリュフの収穫販売は不可能だった。
今まで懇意にしてくれていた店に正直に話して取引を中止してもらった。
新たな犬を教育すればとも言われたが、ルークもクロスケもダンボもいい加減に手放す事など絶対にできない。

身体中に力が入ってしまうような下手くそな運転で獣医院に通う。
途中で誰か人をひいてしまうのではないかと、ドキドキビクビク運転した。
苦手で嫌いな運転をしなければいけなことがとても苦痛だった。
運転するたびに肩が凝り胃がシクシクと痛む。
犬達の看病で寝不足の為、獣医院の往復で眠らないように必死だった。

「クゥゥゥン、クゥゥゥン」

老齢で衰えて弱ってるはずのダンボが、俺を気遣ってくれる。
その優しさに思わず涙が流れてしまった。
自分の力なさに絶望を覚えてしまった。
もし俺に才能があったのなら、真祖ヴァンパイアに成れていたかもしれない。
そこまでは無理でも、若返りの魔術を使えるようになっていたかもしれない。

せめて病いを治す魔術や体力を回復させる魔術が覚えられていたら、ルークもクロスケもダンボも、ここまで弱る事はなかった。
わずか二年で魔術を覚えられない事は、少し勉強し始めた俺が誰より一番分かっていたが、それでもそんな風に思ってしまうくらい追い込まれていた。
もう正直体力的にも精神的にも限界だった。

「くぅうぅん、くぅうぅん、くぅうぅん」

ルークの鳴き声が幻聴として聞こえてくる。

「ワン、ワン、クゥゥゥン」

クロスケがルークを心配していた頃の鳴き声も幻聴になって聞こえてくる。
もう本当に決断しなければいけない時が来ていた。
寝不足と体力の限界から、居眠り運転で人をひくような事があってはいけない。
クロスケがルークの二頭ともか、それともルークだけにするのか、安楽死を選ばなければいけない時がきていた。

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