引きこもり吸血姫に一目惚れ

克全

第28話:悲嘆

「くぅうぅん、くぅうぅん、くぅうぅん」

ルークは徐々に立ち上がる事もできなくなり、哀しい事だが、予測通り一年でほぼ寝たきりになった。
まだ鳴く事はできるし食べる事もできるが、凄く痩せてしまった。
毎日何度も寝返りを打たせて床ずれが起こらないようにしている。
今の所は見た目に傷はないが、どこか痛いのだろう、時々哀しそうに鳴く。

痛みがあるのなら、極力楽になるように鎮痛剤を飲ませるか、獣医院に連れて行って痛み止めを打ってもらうべきだ。
だがそれでは心臓に負担がかかってしまい、寿命を縮めてしまうかもしれない。
癌などで痛みに苦しんでいるのなら、寿命が短くなっても痛み止めを打つべきだ。
欧米なら安楽死をさせるかもしれない。

だが、寿命と短くしてでも痛み止めを打つべきだと思っている俺が、今回ばかりは痛み止めを打つ気になれない。
何故ならカーミラの復活を心から信じているからだ。
カーミラさえ復活してくれたら、ルークは若く元気な姿に戻れる。
カーミラの復活を信じていれば、寿命を縮める痛み止めは打てない。

「ワン、ワン、クゥゥゥン」

ルークの兄弟犬クロスケが心配そうに鳴いた。
俺がルークに寝返りをうたす時には、必ず一緒についてくる。
クロスケも随分と弱っていて、足元がフラフラしている。
兄弟だから弱る時が同じくらいというわけではないだろう。
純粋に老齢で弱っているだけだと思う。

あの時はカーミラに助けさせる前提で老犬を引き取ったが失敗だったのか。
もっと若い犬を引き取っていたら、こんなに焦らなくてすんだのか。
今さらどうしようもない事をウジウジと考えてしまう。
本当にヴァンパイアハンターが襲撃してくるとは考えていなかったのだ。
不安だ心配だと言いながら、心の奥底では楽観していたのだ。
本当に危機感を持っていたら、一頭は若い子を引き取っていたはずだ。

「クゥゥゥン、クゥゥゥン」

ダンボがウジウジと考えている俺に身体をすり寄せて鳴いてくれる。
落ち込んでいる俺を慰めてくれている。
ダンボも凄く弱っているのに、俺を気遣い慰めてくれる。
弱った身体に鞭打って、毎日日本産トリュフを探してくれる。
そのお陰で毎日収入があり、獣医院費用や生活費を使った上で、わずかとはいえ貯金までできている。

「ごめんよ、ダンボ、お前には負担をかけてしまっているな」

「クゥゥゥン、クゥゥゥン」

もしダンボいてくれなかったら、俺はもっと落ち込んでいただろう。
ルークが生きているうちにカーミラに復活して欲しい気持ちに間違いはない。
だが、せめてダンボが生きてるうちに復活して欲しいとも思ってしまう。
差別や比較をするわけではないが、ルークよりもダンボを想ってしまう。
もう死期が近いルークの事を内心では諦めているのかもしれない。

本来は日本犬の方が好きなはずなのに、少しでも長く一緒にいたことによる情なのだろうか、それともずっと一緒に日本産トリュフを探していたからだろうか。
甲斐犬のルークとクロスケよりも、ダンボの方を大切に想ってしまう。
カーミラ、どうか、どうか一日でも早く復活してくれ。

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