引きこもり吸血姫に一目惚れ

克全

第23話:不機嫌

カーミラが少し不機嫌だった。
俺はやり過ぎたことを反省していた。
今回引き取ったルークとクロスケの兄弟犬の件だ。
流石にルークほど足腰が弱った子を引き取るのは露骨すぎた。
カーミラに早く眷属に加えろと言っているも同然だった。
俺はそれがカーミラを不機嫌にさせているのだと思っていた。

「おい、老犬用の食べ物を買ってくるのじゃ。
ヒュウガとヤムチャが狩ってきた獲物では、ルークとクロスケには硬い。
もっと食べ易い缶詰にするのじゃ。
それくらいの収入は、ヒュウガとヤムチャとダンボが確保しておるじゃろ」

老犬の譲渡を受けた事で不機嫌なのではなかった。
ルークとクロスケにもっと柔らかい食べ物を用意しろという事らしい。
やはりカーミラは心優しい乙女だ。
何が何でも護らなければいけない。
一分一秒でも早く、真祖ヴァンパイアにならなければいけない。

「分かりました、以前に買って置いたいた分があります。
まずはそれを与えて見ましょう。
長期保存用の缶詰の買い置きもありますが、念のために明日買って帰ります」

他の人間にはカーミラの表情の違いなど分からないだろう。
だが俺には分かるのだ、カーミラがとても喜んでいる事を。
ルークとクロスケに美味しい食事を与えられる事を喜んでいる事を。
いや、俺だけではなく、ヒュウガとヤムチャとダンボも喜んでいる。
ルークとクロスケに美味しい食事を与えられる事ではない。
その事でカーミラが喜んでいる事を喜んでいるのだ。

カーミラが不機嫌なのは他にも理由がある。
むしろその理由の方が大きな原因だと思う。
カーミラがが不機嫌なのはヒュウガとヤムチャが原因だった。
ヒュウガとヤムチャは、カーミラに食事を献上するのだ。
自分達の食糧だけでなく、カーミラ用の食糧まで狩ってくるのだ。

しかもそれをカーミラ目の前の置いて、食べてくださいという目で見るのだ。
最初はカーミラも不機嫌な表情をして無視しようとしていた。
だがなかなか食べないカーミラに、哀しい仕草と表情を見せるのだ。
ヒュウガとヤムチャは強かな忠犬だ。
カーミラに力を取り戻させるために、平気で露骨な演技をする。

だからこそカーミラは不機嫌になったのだが、同時にうれしかったのだろう。
心深く誓った不食の禁を破って食べたのだ。
ヒュウガとヤムチャが狩って来た鳩や鴉を食べたのだ。
露骨な吸血はしなかったが、生肉を食べたら同時に血も摂取することになる。
まして猪肉を食べたら、結構な量の血を摂取することになる。

流石に狩って来たそのままの獲物を食べたりはしなかった。
俺に料理を命じた。
だからカーミラが力を取り戻すように、血抜きをせずに出した。
極力血が含まれている肝などを出すようにした。

自分にできない事をヒュウガとヤムチャがやった事で、俺も不機嫌だった。
だがカーミラが日に日に力を取り戻すのが分かるから、うれしくもあった。
本当に複雑な心境だったが、うれしさの方が強かった。
ヒュウガとヤムチャには感謝しかない。
これでヴァンパイアハンターを返り討ちにできるかもしれない。

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