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克全

第230話:一八四六年、ジブラルタル海峡海戦

 イギリスは焦ったのだと思う。
 もしかしたら権力者の内部闘争があったのかもしれない。
 王族内での争いがあったのかもしれない。
 理由は分からないが、大きな失敗を犯したのは確かだ。
 イギリスは本土艦隊にジブラルタル海峡を突破させようとしたのだ。

 イギリス海軍にジブラルタル海峡を通過させない事、これは徳川家の地中海方面軍の命運を握るくらい重大な事だ。
 強力な戦闘力を誇るイギリス海軍が、徳川家の地中海拠点を神出鬼没に襲撃できるようになったら、大陸内部の覇権は揺るがないが、アフリカ大陸地中海沿岸部に得た領地は大損害を受けることになる。

 だからジブラルタル海峡のスペイン側とモロッコ側には最大砲力を配置している。
 艦艇には搭載不可能な七十二ポンド以上の大型カノン砲を、大量配備している。
 その大型カノン砲にはライフリングを施して命中率と射程を向上させている。
 もちろん敵艦艇を炎上させるために、砲弾を焼く設備も整えている。
 まあ、砲弾を焼くよりも大型火箭を使った方が火災は起こさせやすい。
 だから後世のロケット弾に匹敵する大型火箭も大量配備していた。

 もしかしたら、最初はジブラルタル海峡を突破する気はなかったのかもしれない。
 地中海に拠点を持つ私掠船を封じ込める作戦だったのかもしれない。
 過去の大陸との戦争と同じように、海上封鎖をする心算だけだったのかもしれないが、結果として私掠船団を追ってジブラルタル海峡を強行突破しようとした。

 安全にジブラルタル海峡を封鎖するのなら、私掠船団を犠牲にする心算で最初から全力で砲撃を行い、イギリス海軍の侵入を阻んだだろう。
 だが現地司令官はとても強かだった。
 徳川軍が私掠船団を巻き込むのを恐れて、砲撃を躊躇っているように見せかけた。
 それに誘われてしまったのか、イギリス本土艦隊が続々と海峡突破を図った。

 イギリス海軍が強力な機関を積んだ三十ノットで進める鋼鉄の艦艇ならば、強行突破できたのかもしれない。
 だが、まだこの時代のイギリス本土艦隊は主力が帆走の木造船だ。
 吃水線の下は銅張りされているが、とても火災に弱いのだ。
 イギリス本土艦隊の半数がジブラルタル海峡の最も狭い場所に差し掛かった時、海峡の両側から激烈な砲撃が始まった。

 私掠船団を追撃していたイギリス本土艦隊の尖兵は狭隘部を突破していたが、彼らを待ち受けていたのは徳川海軍地中海艦隊だった。
 イギリス本土艦隊の尖兵は速力のある三十門前後のフリゲート艦だったが、迎え討つ徳川海軍地中海艦隊は五十二門フリゲート艦と三十六門フリゲート艦だった。
 両側と前方か激烈な攻撃を受けたイギリス本土艦隊は壊滅に近い損害を受けた。
 追い風で進んでいたイギリス本土艦隊は反転して逃げることができなかったのだ。

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