転生 徳川慶勝 日露開戦 日米開戦

克全

第228話:一八四六年、イギリス戦準備

 俺の唯一の気がかりはイギリスの底力だった。
 スペインの無敵艦隊と戦った時も、ナポレオンと戦った時も、第一次大戦や第二次大戦でも、どれほど苦境になっても最後まであきらめずに戦って最後には勝つ。
 しかも勝つためにはどれほど悪辣非道な事も厭わない。
 俺も同じ外道にならなければ勝てないと思い、ここまでやってきたのだ。
 最後の最後で仏心を出して負けるわけにはいかない。

 ここ数年かけて戦力を整え訓練を重ねてきた北アメリカ方面軍を使う時が来た。
 日本の本国艦隊を、インド洋を通り喜望峰を越え赤道を跨いで大西洋を北上させるような、ロシアのバルチック艦隊を彷彿させる大遠征を強行するよりも、ずっと安全短期間にイギリス本島に到着して攻撃でがきる。
 かなり破壊されていたとはいえ、アメリカ合衆国当時の生産基盤もある。
 イギリス侵攻の拠点とするのは最適の場所だ。

 俺が気をつけなければいけないのは、徳川軍が北アメリカを拠点としてイギリス本島に攻め込もうとしている事を、イギリス首脳部に気付かせない事だった。
 俺の想像以上に損耗しているとはいえ相手はイギリスだ。
 特にイギリス海軍の底力を甘く見る事は絶対にできない。
 ヨーロッパ方面にイギリスの目を引き付けると同時に、イギリス本土艦隊を、いや、艦艇を動かす海軍将兵に損害を与え続けなければいけない。

 そう考えた俺は、一番イギリスから攻撃を受ける可能性が低い、内陸部に傀儡国家を建国させて、その国に私掠船免許を発行させることにした。
 一番古くから徳川家に、いや、松前松平家に協力してくれていた蒙古族。
 その中でも仏教や神道と相性の悪いイスラム系蒙古族に、外蒙古で傀儡のハン国を建国させたのだ。

 外蒙古に建国させたイスラム教を信じる蒙古族のハン国。
 イギリスが直接攻撃するのは不可能だ。
 やれるとすれば、外蒙古と隣接している友好国に攻撃してもらう事だが、シベリアを支配している俺が自分の傀儡国家を攻撃するはずがない。
 後は清国を脅迫して攻め込ませる事だが、これも東南アジアの拠点を全て徳川家に奪われたイギリスには不可能の事だ。

 この状態で欧州列強各国の艦艇を持つ商人に私掠免許を乱発させたのだ。
 欧州各国が酷い内乱で安心して住める場所が限られているのだ。
 武器や兵糧の販売で多くの利益を得ている商人の中には、更に大きな利益を目指す者もいれば、リスク分散のために私掠船に投資する者もいた。
 どの商人もいつ今本拠にしている場所が戦場になるか分からないのだ。
 比較的安全と言えるのは、オスマン帝国の本土と徳川家が支配している、アフリカ大陸の地中海沿岸部だけだ。

 ジブラルタル海峡を徳川家が支配下に置いているから、イギリス本土艦隊が地中海に入ってくる可能性も極端に低い。
 セウタやテトワンを拠点にしてイギリスの艦艇を襲えば、莫大な利益を得ることも不可能ではないのだ。

 徳川家としても、彼らが持ち込む略奪品を売買する事で莫大な利益を得ることができるし、港の使用料や艦艇修復料で利益を得ることができる。
 意外と大きな利益になるのが、私掠船の将兵が港に落とす遊興費だったりする。
 これによって徳川家は自身の艦艇や将兵を損耗する事無く、イギリスを疲弊させる事に成功した。

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