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克全

第178話:一八三九年、ボルガ戦線・黒田斉温視点

「家斉子息軍」
福岡黒田家の黒田斉温(十九男)五十二万三千余石・七千八百兵
津山松平家の松平斉民(二十男)十万石・千五百兵
徳島蜂須賀家の蜂須賀斉裕(二十三男)二十五万七千石・三千八百兵
川越松平家の松平斉省(二十五男)十七万石・二千六百兵

最年長の余が頑張らなければならない。
父と祖父が犯した拭い難い不義不忠を、少しでも償わなければいけない。
まだ幼い弟達に負担はかけられない。
ここで勝てば少しは汚名を挽回できるかもしれない。
少なくとも武名を高める事は可能だ。

再前線では韃靼傭兵達が激しく戦っている。
彼らの勇猛さは寒気がするほど恐ろしい。
だが恐怖を顔に表す事はできない。
武人として堂々と振舞わなければいけない。
そうでなければ将兵がついてこない。

「若殿、戦目付殿がおいででございます」

十三代様が付けてくださった戦目付け。
元江戸幕府幕臣の松前藩士と元黒田藩士の松前藩士達。
いや、今では松前藩士こそが本当の幕臣なのだ。
余と黒田家の者達に安心させるために付けられた者達。
同時に我らを見張り死地に向かわせる者達。
弟達の津山松平家、徳島蜂須賀家、川越松平家にも送られている。

「御尊顔を拝し奉り恐悦至極でございます」

「うむ、だがもう挨拶は不要じゃ。
一刻一秒を争う戦場じゃ。
急ぐと思う時は挨拶はなしでよいぞ」

「有難きことでございます。
敵はそろそろ崩れると思われます。
黒田家におかれましては躊躇うことなく追撃をお願いします」

「うむ、あい分かった」

この者達には敵が何時崩れるか分かるというのか。
どれほどの戦場を渡り歩けば、そういう事が分かるようになるのだ。
ロシア軍は十万を超える軍勢だ。
我らも同数とはいえ、その中には全く戦場経験のない我らのような者達もいる。
長き行軍を供にしたからこそ分かる、諸藩の兵士に中には憶病者が多い
少しでも不利になれば逃げ出す者が数多くいるのだ。
絶対に不利な状況にできない厳しい戦場だ。

「「「「「ダーン」」」」」

この銃声はドライゼ銃だな。

「「「「「ダーン」」」」」

間断なく撃ち込んで敵を圧倒するのだな。
戦目付はこの攻撃を事前に知っていたのだろう。
欲しい、黒田家にもドライゼ銃が欲しい。
ドライゼ銃さえあれば憶病者でも十分戦えるだろう。

だが今の黒田家にあるのは戦国以来の火縄銃だけだ。
もし父や祖父の悪業がなければ、徳川宗家の命令でドライゼ銃を松前藩に献上されることができただろう。
余が養子に入った黒田家にも下賜されただろう。

駄目だ、そのような事を考えてもどうにもならない。
今ある武器で戦うしかない。
それにこの戦は勝ち戦なのだ。
父の子である我らだけが武功を立てられなければ、それこそ国中の笑い者だ。
それでなくても不義不忠の子と黒田家の家臣達からさえ陰口を言われているのだ。

「「「「「ダーン」」」」」

「敵が崩れましたぞ、今でございます」

「かかれ、全軍命を捨ててかかれ」

余が、余が先頭に立って突撃せねばならん。

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