転生 徳川慶勝 日露開戦 日米開戦

克全

第29話一八二五年、奥羽からの欠落

三年間やるべき事をやった事で、少しは土台が築けた。
特に反射高炉が稼働出来た事で、西洋列強に近い大砲を量産できるようになった。
アームストロング砲は完全に無理だし、後装式のライフル砲も今の技術では厳しいが、職人を鍛える事で生産できるようにしたい。
だから今は、無駄に見えようとも、沿岸防衛用の旧式青銅長砲身砲と、艦載用の青銅短砲身カロネード砲を量産するしかない。

ドライゼ銃の量産も軌道に乗ってきた。
俺が強く命じたこともあり、鉄砲鍛冶が多くの弟子を抱えてくれて、人材育成ができてきている。
それは刀鍛冶や野鍛冶も同じで、多くの有望な職人が優先的に蝦夷樺太に送られているが、どうしても軍資金稼ぎの交易を優先してしまう。

ようやく穢多と非人が独力で船を雇い、全移民を蝦夷樺太に渡してくれた。
日本中の富裕層も、独力で船を雇い小作人を蝦夷樺太に渡してくれた。
完全に目標を達成してくれたら、千四百万石の蔵入り地が手に入るが、今はまだ伐採した材木を商品にするのと、根株の残った土地で雑穀を育てるだけだ。

その雑穀を蒸留酒にできれば商品になるのだが、今は蝦夷樺太の渡った者達の食料に使うだけしかない。
だがその陰で、俺の交易艦隊は食糧を運ぶ量を減らすことだ出来た。
そうでなければ、アイヌに商品として売る玄米以外に、三十万人分の玄米を蝦夷樺太に運ばなければいけなかった。

だが、想定外の事も起こってしまっていた。
富裕層が、江戸から元無宿人の野非人を蝦夷樺太開拓に送るのではなく、奥羽の貧民を蝦夷樺太開拓に送る現象が起こっていたが、それだけではなく、奥羽の貧民が欠落して蝦夷樺太に渡ってきてしまっているそうだ。

彼らは小さな漁船に乗せてもらい、家族揃って蝦夷樺太に渡ってくる。
日本人の漁船だけではなく、アイヌの丸太船に乗ってでも蝦夷樺太に渡ってくる。
俺が現地の代官に、追い返したり罰したりせずに、食事だけ与えて労働力として活用するように命じているから、先に蝦夷に渡った者達の噂を聞いて、餓死するよりもよほどましだと、安心して蝦夷に渡れるようになったのだろう。

奥羽諸藩の手前、大っぴらに諸藩の領民を勧誘する事はできないが、天保の飢饉を知っている俺は、できるだけ貧民を蝦夷樺太に渡らせたかったのだ。
最低の待遇で労働力を確保したいという非人道的な考えもある。
前世の友人知人からは、このやり方は罵詈雑言を浴びせられるだろうが、俺の力で出来る事など限られているのだ。

十万人の人間を一年間喰わしていくには、十万石の玄米が必要だ。
その費用十万両を使ってしまったら、黒船をはじめとした西洋列強を迎え討つ準備が、十万両分遅れたり、整えられなくなったりする。

何よりも、十万石分の食糧がどこかで不足してそこの貧民が餓える事になる。
奥羽の玄米や以前の蝦夷の俵物と同じだ。
安く買い叩けるところが、食糧が余っていて豊かだとは限らないのだ。
俺が何かやる事で、どこかに大きな歪みが出ているかもしれない。
そう思うと、怖くて動けなくなってしまう。

コメント

コメントを書く

「歴史」の人気作品

書籍化作品