そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全

第19話:獅子奮迅

グレアムは勇猛果敢に戦っていた。
その勇戦ぶりは全身が返り血で真っ赤になっている事でも明らかだった。
モンスターに背後をとられないように、縦横無尽に戦っていた。
時には踏み込み時には引き、臨機応変に戦っていた。
その戦いぶりは鬼神も避けると思われるほどだった。

だがグレアムの目的はモンスターを斃す事ではない。
自分の武勇を世間に示す事でもない。
まして金儲けや立身出世の為でもない。
グレアムの目的は唯一つ、オードリー嬢を助ける事だった。
だから公爵邸のドアというドアを開いて内部を確認していた。

助け出すオードリー嬢探し出そうと必死だった。
斃したモンスターの数など気にもしていなかった。
だがモンスターを斃すたびに双剣には血脂がこびりつき切れ味が落ちる。
わずかずつ双剣に負担かかかり、消耗して金属疲労を蓄積する。
普通の人間を斬っても剣は消耗するのだ。
頑丈な鱗や皮で護られたモンスターを斬れば、双剣は著しく消耗してしまう。

グレアムは大きな声でオードリー嬢に呼びかけたかった。
助けに来たと呼びかけたかった。
それが一番早くオードリー嬢を見つける方法だった。
だがそんな事をすれば目的を悟られてしまう。
モンスターに知恵があればオードリー嬢の所に先回りされる。
最悪助けられないようにオードリー嬢を殺してしまう可能性さえあった。

だが救出が遅れればそれだけオードリー嬢が危険だった。
先程の地獄絵図がグレアムの頭から離れない。
オードリー嬢がモンスターに犯され喰われる。
そんな事だけは絶対にさせられない。
グレアムは両方の可能性を考えて急ぎ決断しなければいけなかった。

そんな迷いが油断になってしまったのだろうか。
グレアムの双剣に蜘蛛の糸が巻き付いてきた。
硬い鱗で護られたリザードマンと剣を交えている時に、少し離れた背後からスパイダーマンの糸が放たれたのだ。
いや、背後からだけではなく前方からも同じように蜘蛛の糸が放たれた。
それも一本ではなく三本同時だった。

グレアムは力尽くで糸を振り払おうとしたができなかった。
力任せにスパイダーマンを引き寄せようとしたがそれもできなかった。
このままでは双剣を奪われると判断したグレアムは、片手の剣を手放して素早く短剣に持ち替え、その短剣で残った剣に絡む蜘蛛の糸を切った。

これで双剣の一つを失い、短剣と蜘蛛の糸の絡まった剣だけになってしまった。
急いで奪われた剣を取り戻そうと斬り込んだが、蜘蛛の糸に絡まれた剣は完全に切れ味を失ってしまっていた。
グレアムはまた迷ってしまった。
剣を取り戻すべきか玄関ホール戻って槍を回収するか考えてしまったのだ。

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