第37話：下級魔族

「グッギャアアアアオオオオ」

下級魔族が吠えた。
ロバート王太子に召喚憑依した個体だった。

「「グッギャアアアアオオオオ」」

ジェラルド国王とマティルド王妃に召喚憑依した個体が応じた。
三魔が偵察役を狙うのを止めた。
今までは目の前に現れた偵察役の挑発に踊らされていたのがピタッと止まった。
偵察役達が次の動きで挑発する前に三魔が大きく跳んだ。
偵察役達の包囲網を突破して皇太子のいる方向に飛び跳ねて行った。

あれだけ人間を殺していた三魔が今は人間を襲うよりも移動を優先した。
ロバート王太子召喚憑依個体が皇太子とマチルダ嬢に拘ったせいかもしれない。
二人への恨み辛みが目の前の人間への殺戮衝動を抑えたのかもしれない。
ジェラルド国王とマティルド王妃の召喚憑依個体は、家族愛で協力しているのかもしれないが、真実は誰にも分からない。
ただ三魔が皇太子とマチルダ嬢に襲い向かった事実しかない。

「執念深い事だな、ロバート」

サーニン皇太子を爪で切り裂こうとしたロバート王太子召喚憑依個体だったが、人間離れした皇太子の動きに翻弄されて必殺の爪撃を外してしまった。
外しただけでなく、左肩から胸にかけて深々と斬られた。

「ギャッフ」

ロバート王太子召喚憑依個体が人間とは思えないような苦痛の声をあげた。
恨み重なるサーニン皇太子に返り討ちにされたのが悔しかったのかもしれない。
皇太子は追撃の突きを放とうしてた。
だがそれを防ごうと、ジェラルド国王とマティルド王妃の召喚憑依個体が、必殺の爪を振るって跳び込んできた。

「痴れ者が、死にさらせ」

守護騎士ラルフがいきり立って横から突っ込んできた。
ラルフはロバート王太子召喚憑依個体の時に一歩遅れたことを恥じていた。
自分が盾となるべきところなのに、皇太子自身に戦わせてしまった。
皇太子に後れを取ってしまった。
その悔恨がラルフの限界を突破させた。

だがそれはラルフだけの事ではなかった。
他の守護騎士や警備役の騎士も悔恨していた。
次こそは皇太子殿下よりも一歩早く動きてみせると決意させていた。
その決意が多くの騎士に限界を超えさせた。
皇太子殿下の追撃は阻まれてしまったが、続く攻撃は自分達で引き受けて、皇太子殿下にはマチルダ嬢の守護に専念してもらえた。

「任せたよ、みんな」

サーニン皇太子は剣を収めなかったが無理な追撃はしなかった。
三魔に対する迎撃はラルフ達に任せ、自分はマチルダ嬢を護る事を優先した。
また何か予想外の事が起こって、不意を突かれてマチルダ嬢が殺されてしまうかもしれないと思うと、皇太子はマチルダ嬢の側を離れられなくなったのだ。