妹と幼馴染を寝取られた最弱の荷物運び、勇者の聖剣に貫かれたが目覚ますと最強になっていたので無双をします

英雄譚

第21話 「聖剣の勇者はエミリオを探す」

 


 リグレル王国。
 王都ナイテッド、高く聳える壮麗な王城。

 謁見の間で膝をつけながら、頭を垂れるユーリス達がいた。

 赤い絨毯が伸びる先には、貫禄のある白い髭を生やした老人が玉座に腰掛けている。

 片手には杖、頭には金色の派手な冠、赤いマントを羽織っている彼こそ、この国の支配者『国王』だった。

「《勇者の儀》に、ですか?」

「そうじゃ、勇者の儀じゃよ。ユーリス殿も勇者の称号を与えられる時にかつて参加したじゃろう?」

「ええ、勿論です」

 勇者の儀。
 『勇ましき炎』という勇者の可能性を秘めた加護を持つ候補者の中から、先代の『勇者』達によって次代の勇者が選考される重要な儀式。

 無論、ユーリスが『聖剣の勇者』の称号を与えられたのも、先代の勇者達に認められたからこそだ。

「そこでユーリス殿には開催場であるエレメント王国に向かってもらいたいのじゃ」

 そして、今度はユーリスが次代の勇者を決める役を担わなければならない。
 今回、それが理由で国王からの召集命令が出たのだ。

 面倒くさそうな顔でユーリスは溜息を漏らすが、よくよく考えてみると女の子も参加するかもしれない。

 小さな期待を胸に秘めながら、ユーリスは丁寧に頭を下げながら笑みを浮かべる。

「勇者である身ならば、断る理由もありませぬな。しっかりと義務を果たしに行ってまいります……!」

 ユーリスは心底、思ってもいないことを次々と口にしてみせた。

 するとゴホン、とワザとらしく咳払いしてから国王は嬉しそうに三人に告げた。

「おお、それはありがたい限りじゃ。だが開催は一ヶ月後、ここからエレメン王国までの道のりは一週間程度じゃから王城で是非くつろいでおくれ!」

 王城へと滞在を許可した国王に、二人の女子陣から笑顔が浮かぶ。
 嬉しいのはユーリスも同じだ。

 決して貧相ではないのだが、旅をしてからずっと一般の宿屋にばかりに泊まっていたため三人は贅沢に飢えていた。

 王城での生活はこれ以上ない報酬だ。

 以前もこんな事があったのだが、エミリオはたかが荷物運びのため王城の滞在を許されず街をブラブラと徘徊していた。

 国王は別にエミリオに対しては侮蔑とか、嫌ってはいなかったのだが関心は一切なかった為、覚えられてすらいない。

 ユーリスにとっては好都合である。
 なんせ自分が殺した張本人なので、バレれれば流石にお咎めは避けられないだろう。

 国王も自分に期待しているし、国民の信頼を裏切れば勇者の称号の剥奪で大半の国民が反乱を起こしかねない。
 そうなれば没落決定だ。

 とりあえずは他言しないようにと、ユーリスはリールとジュリアに厳しく注意した。

 二人は忠犬だ。
 ユーリスが不利になってしまう行いを働いたらしないだろう。

 特にエミリオの妹であるリールがユーリスに懐いていた。
 四六時中、ユーリスの傍にいてずっと張り付いている。

 まるで発情期が到来した獣人族のような感じだ。
 ユーリスの虜になった二人は非常に忠実なため、裏切ったりはまずしないだろうと彼は判断していた。

 周囲はそんな彼を羨ましがっていた。
 両手には花、毎晩を快楽で楽しみ、さらには歩けば女性が振り向く程の美貌をユーリスは持っていた。

 ただ、問題点として挙げられるのは性格の悪さである。
 まず、彼は人助けを面倒くさがっていた。

 他人のことより自分が一番大切な彼には、正義感という志しなど微塵もない。

 暗黙に潜んでいる皆無にも等しいほど、素の優しさなんて見せたことが一度もなかった。

 特に男には冷たく、女性には甘い声で囁く野郎である。

 そして今日も、彼は王城から見渡せる街へと出かけるのだった。






 ーーー







 王都の東方にある冒険者区。
 冒険者ギルドで、とある噂をユーリス達は耳にしてしまう。

「エレメント王国の南側にあるラシル村でさ。大討伐が行われたんだよ」

 冒険者ギルドの内部は酒場のような場所だった。
 依頼や仲間を求めてやってくる冒険者達が集い、ガヤガヤしている。

 非常に賑やかな場所だがムサイ男ばかりいるのでユーリスは嫌な顔をしていた。
 だけど、少数だが肉つきの良い女冒険者がチラホラと席について酒を飲みながら談笑している。

 ユーリスは構わずナンパしてしまうが、それに嫉妬したリールとジュリアは彼を女冒険者の座っている席から引き剥がした。

 ここを訪れたのは女を漁りにきたからではない。

 これからの活動資金のためである。
 王国から支給される場合もあるが、三人は金遣いが荒いためすぐ底が尽きてしまう。

 リールとジュリアも欲しい物はすぐ購入していた。
 もしエミリオが今でも同行していたら、勿体無いと注意されて怒られてしまうだろう。

 それはさておき、話の続きだ。
 ユーリス達は席につき食事をしていた。

 隣の席には駆け出しだろう数人の冒険者達が噂話をしている最中だ。
 噂話はやはり聞いてなんぼのユーリスは、ジョッキを持ちながら耳を傾ける。

「討伐対象はエルダーオーガー、人の言葉を話せるだけではなく魔物を統括するヤベェ奴なんだよ」

 エルダーオーガーといえば、和の大国に生息する上位種だ。
 一度も遭遇をしたことのないユーリスは、頭の中でフォルムをイメージする。

 老いた鬼。
 魔物、魔族というのは長年生きる生物だ。

 だけどその分、魔力が衰えるので長年生きている魔物は弱体化している。
 だけど鬼は別だ。

 日々、強くなるための鍛錬を怠ったりはしないし、魔物のくせに剣だって使用する。
 そのため弱体化どころか強化していた。

 奴らは年長ほど強い、それだけは知っているユーリスだった。

「腕に自慢のある命知らずの冒険者がそれでも、そんな化け物を探すんだよなあ。報酬のためによ」

「ああ、そういえば見つかったの?」

「そりゃ、見つけた時はもう遅かったらしいぜ」

「……どういうことだよソレ?」

 噂話を聞くのに飽き始めたユーリスは、ジョッキに注がれた酒を飲み込む。

「意外にエルダーオーガーは初心者用の迷宮にこもっていたんだよ。発見した時は辺りは騒然、なんせソロで倒されちゃったからよ!」

「え、マジでか!?」

(ふーん)

 ユーリスは特に反応をしたりはしなかった。
 単に他人の功績には興味はないといったものだ。
 世界中には、そのぐらいの猛者がいても何の不思議ではないだろうという軽いノリだ。

「それ誰だよ!」

「それがさ、詳細不明なんだけど『エミリオ』って名前の奴らしいぜ……」

「ぶぅぅぅぅ!!?」

 衝撃的な名前の登場に、ユーリスは酒を吹きだしてしまう。
 彼だけではない、元婚約者と妹も同様である。

「お、おい……アンタ大丈夫かよ?」

 噂話をしていた男達が吹きだした勇者の方へと振り返った。
 そんな勇者は、男一人の胸ぐらを掴んだ。

 顔を近づけ、信じられないといった表情をしながら怒鳴りに似た声で男に聞いた。

「……いまテメェ、なんて言った?」

 勇者の鋭い眼光をむけられた男は恐怖で身震いしてしまう。

「え、エルダーオーガーがソロで……」

「その後だ!  誰が殺ったのかを聞いてんだよ!」

「ひ、ひぃぃ!  え、エミリオという男です!  それだけしか聞いておりません!」

 震える男の胸ぐらを離し、男はそのまま床に尻餅をついてしまう。
 男は這いずるようにユーリスから逃げていっていってしまうが、衝撃的な名前が再生されているユーリスは気にも止めなかった。

 そんな彼にジュリア達が心配そうに言う。

「べ、別に気にすることなんてありませんわユーリス様。エミリオぐらい、世界にありふれるぐらい珍しくない名前ですよ?」

「……偶然、偶然」

 同調するリール。
 動揺を露わにするユーリスは、宥める二人の言葉になんとか冷静さを取り戻した。

 (まさか、エミリオの名前が出ただけで動揺するだなんてよ……ああ、ムカつく)

 実際、世の中には同名の者なんて数えきれない程いる。
 ユーリスという名前の人だって、そこらを散歩すれば会えるだろう。

 そう言い聞かせながら、ユーリスは自身の胸に渦巻いている苛つきを何とか掻き消そうとする。

 だけど意識をすればする程、そわそわが止まらない。
 あの日、エミリオを陥れた時に抱いた優越感は、声には出せないぐらい素晴らしいものだった。

 ユーリスは自分より幸福な人を毛嫌いする習性を持っており、次第にそれを壊すのが趣味になっていた。

 だけどユーリスの欠点は、後先を考えずに実行してしまうところ。
 欲望に忠実なため、全てそれらを終えるまで、自身に起こってしまうかもしれない危うさを、あまり考えたりはしない。

「ああ、面倒くせぇ!  ジュリア、リール行くぞ!」

 ジョッキをテーブルに叩きつけ、機嫌の悪い声で怒鳴った。
 強い圧に二人は肩をビクらせてしまうが、あまりにも気まぐれだったため、ジュリアはユーリスに尋ねる。

「何処にですか?」
「決まっているだろ、エレメント王国にだよ!」
「しかし……まだ、お時間があるのでは?」
「そんなの関係ねぇよ!  行きたくねぇなら置いていくぞ!」

 ジュリアとリールは慌てだしてしまう。
 まさか《エミリオ》という名の人物が耳に入ってきただけで、こんなにも過剰な反応を示すだなんてと、流石の二人も驚いていた。

「い、いやだ……ユーリス様といる」

 おとなしいリールも子犬のようだ。
 普段のユーリスなら、あまりの可愛さにムラっときてジュリアもろとも寝室に連れこむところだが、今はその気には到底なれない状態だ。

 歩幅を大きく、早足で旅支度のために王城へと向かう。

 ユーリスは焦っていた。
 たとえ自分の知っているエミリオではなかろうと、いつ自分の首が飛んでしまうのかが心配で仕方なかった。

 でももし、それがエミリオであればユーリスはどうするか。

 そんなの決まっている。
 自身にとって都合の悪い存在を、世間から排除するだけだ。

 エミリオの大切な存在であるジュリアとリールを垂らしこんで奪ってやった時と同様、絶望の淵に陥れてから胸に聖剣を突き刺して、今度こそ確実に殺す。



 ーーそれが、ユーリス唯一の願望だった。

コメント

  • ノベルバユーザー385074

    続きがとても楽しみ

    0
コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品