妹と幼馴染を寝取られた最弱の荷物運び、勇者の聖剣に貫かれたが目覚ますと最強になっていたので無双をします

英雄譚

第12話 「商人の街ヘンドラ」

 

「ヘンドラの街まで、護衛を……?」

 ちょうど村に訪れてきた行商人から、依頼を受けることになった。
 ロードも次の街まで同行するようなので、安全を最大限に考慮すると商人に契約を交わし報酬を増やしてもらった。

 ロードも商人の依頼を引き受けた後、同じ場所の荷台へと乗り込む。

「いやぁ、さすがは商人の街と言うべきか。見たことのない商品ばかりを仕入れているんだなぁ」

 ロードは物珍しそうに荷台に並べられた異国の物を眺めて、関心したような声を漏らす。

「国境付近にある大きな街ですから、見たことのない商品が並べれて当然ですよ。どれだけ売れるかが勝負ですから、中途半端な気持ちで商売するとなると他の商人にお客さんを取られちゃいますから」

 ロードのパーティの一人である、三つ編みの茶毛が特徴的な少女が興味津々に説明する。
 彼女の名前は『アストレア』、魔術師としてヘラと同じく遠距離での火力係らしい。

 特に火元素の魔術が得意で、前線のロードは何度も彼女の広範囲な炎魔法に巻き込まれているという。

 馬車に乗ってからはノエルとはすっかり仲良くなっていた。
 人一倍の魔力総量を秘めても尚、まだ魔術には不慣れなノエルに彼女は様々なアドバイスを与えていた。

 主にノエルは光元素の強化魔術を中心に使用しているので、付与するタイミングや攻撃方法などを教えている。

 それをロードと微笑ましく見守りながら、今度はロードさんからアドバイスを貰う。

「ノエルちゃんは後方での支援役だから、君はバックアップする彼女の盾となれ」

「盾、でしょうか?」

「別に守ることにだけ徹しろ、ということではない。前線で敵と直接剣を交えろということだ」

 剣術は基本的な型しか知らない。
 派生して新たな技を学ぶほど、上級者ではないし多少の不安がある。

 だけど同じ職業と役割でパーティを組むのは、かなり危険なことらしい。
 なんせ重要なのは、役割だからだ。

 傷を受けた者がいれば、癒し。
 敵に遠距離の攻撃が通じなければ、近距離で斬る。
 標的が対岸にいれば、遠距離から狙う。

 魔術、剣術しか通じない魔物も存在している。
 そこでどう使い分けるか、職業の異なる者同士でどう対処するかで戦局が大きく左右されるらしい。

「そういえば、生まれたら加護を与えられるんだよな。魔道士なら『魔法の加護』とか剣士なら『戦士の加護』とか。エミリオ、君の場合はなんの加護を与えられたんだ?」

 と、問われたので恥ずかしながら答える。

「……自分は、生まれつき加護なんてものは持っていなかったので」

「えぇ!?」

 驚くのも無理もない。
 この世界に人は誕生する時、加護を与えられる。
 加護に適応した能力しか持てなくなるけど、そのかわり加護の力は強力だ。

 僕の場合は、加護欄が空白だった。

 だけど、その代わりに何故だか制限されることなく剣術の能力や魔術の能力、幅広い能力の数を得ることができると勇者との同行で判明した。

 加護は力を与えるだけではなく、制限というものがかかってしまう。
 だけど僕には加護がなかったおかげで、制限されることがないらしい。

 特異体質なんだろうと、深追いはしなかったけど何かしらの理由があるのではないかと今でも思っている。

「すげぇよな、君って。エルダーオーガーを一人だけで倒したり、加護がないくせに実はそっちの方が便利だったり。君が羨ましいよ、エミリオ」

 改めて褒められると、とても恥ずかしく顔を覆ってしまう。

「……も、萌え」

 ロードとのやり取りをずっと黙って眺めていたヘラが、僕を見ながら唐突に奇妙な言葉を口にしたのだった。

 ……も、燃え?

「ガァァァァァ!!」

 街道の先で立ち塞がる魔物の集団と何度か遭遇してしまう。
 従者や商人はパニックになりながらも、依頼した護衛である僕達を呼びに荷台まで駆けつける。

 ロード達はいち早く荷台から飛び降り、さっそうと魔物の集団と交戦した。
 数は三十匹、上級の巨大な魔物も混ざっている。

 ベテランの風格を漂わせながら、ロード達は恐れなどを一切見せることなく余裕な表情をしていた。

「上流超え剣術なんだがエミリオ、よく見てな」

 背負っていた大剣を鞘から抜きとり、見た目の重量感に不釣り合いなほどロードは軽々しく片手で持ち上げていた。

「これは古から西の大国で受け継がれてきた、万象の『虚空真剣流』。
 万物に秘められし虚無から無数もの斬撃が放たれ、敵となる者の天命を求めて傍若無人の如くに斬り刻む」

 地を踏みしめ、ロードが振り絞ると同時に周辺の大気が反応するように乱れだし始める。

 剣身は風切り音を発することなく、輝きを放ちながら空間をただ切り裂くように、振り下ろされた。

 何も起こってはいない、剣は地へと下されただけ。
 訳の分からない錯覚が一瞬だけ生じたのだったが、静寂に包まれた空間から突如と無数もの斬撃と衝撃波が発生する。

 それは、凄まじい勢いで魔物を飲み込むように襲いかかった。

 繰り返される斬撃音と衝撃音が魔物を容赦なく包み込み、絶命した途端に斬撃は時を止められたかのように鳴り止んだ。

「どうだ、カッコイイだろ?」

 三十もいた魔物がすべてが細かく切り刻まれた状態で、街道などで無造作に散乱していた。
 魔物の死体は感染病に繋がるので、アストレアは炎魔法で後片付けをする。

 ロードの剣術。
 参考には絶対ならないぐらい、凄まじい技だった。

 このまま鍛錬すれば、彼のように派手なあの剣術を習得できるだろうか。
 いや、常人では到底登りつめられない程の剣術を、素振りしかしてこなかった人間に出来る筈がない。

 ーー直感的にそう思うのだった。

 次元が違いすぎて、とてもじゃないけどロードの実力に到達するイメージが浮かんでこない。
 非力な自分の掌を見つめながら、一生叶うことのないであろう力に嫉妬を覚えていた。





 ーーー







 一日が経過し、街『ヘンドラ』へと辿り着いた。
 流石は商業の街と言うべきか周辺を囲う壁を通過すると、眼前に広がったのは数え切れないほど並ぶ露店だった。

 街の中央にまで伸びる大通りを行き来する人々は皆、まるで祭りにでも来ているかのように楽しんでいる様子だ。

「たくさん、人がいるんですね」

 少し緊張した声でノエルは言った。
 あまり慣れていないのだろうか、門を通過する時も出入りしている冒険者や観光客、商人たちをキョロキョロ見回していたし。

「この町でしか手に入れられない物も沢山あるし、ある意味この国では一番人気のある場所なんだよなぁ。珍しい質の武器も売ってるしさ」

「商人ギルドだけではなく、冒険者ギルドもあるしね」

 腕を組みながら、自慢気に説明をするロードとヘラ。
 だけど、突然なにかを思い出したのかロードは「はっ」という情けない声を漏らしてしまう。

 困ったような視線を向け、ロードは言う。

「そういえば俺たち、これから用事があるんだった。エミリオ、悪いけど俺たちはここで一旦失礼させてもらうぜ」

「え、冒険者ギルドには行かないんですか?」

「この街で有名な俺たちにしか頼めない、重要な依頼なんだよ。ここに来たのも、それが目的だったしな」

「そうなんですか、残念です……」

 もう少し教えてほしい事が色々あったけど、そこまで重要なら仕方がない。
 後は自分たちで何とかするしかないようだ。

「大丈夫ですよノエル。たとえ魔術が上手くいかなくても、貴女を守ってくれる大切な人がすぐ側にいる。だから少しずつでいい、決して焦らないでくださいね」

「……はい」

 アストレアは緊張をするノエルに穏やかな視線を当てながら頭を優しく撫でた。
 ロード達との別れが辛いのだろうか、ノエルの目元には微かに潤んでいる。

 たった一日ぐらいの付き合いだけど、彼らはユーリス達のような悪い人達ではない。
 誰であろうと快く受け入れる彼らと一緒にいて楽しかった。

 だから正直、僕も別れることを辛いと思っている。

「それじゃ、また会えることを楽しみにしているぜ。じゃあな! エミリオ、アイリンちゃん!」

「奴隷商人のいるような町だから、気をつけてくださいね!」

 冒険者ギルドのある中央とは違う方向へと歩いていくロード達を見届ける。
 そんなロードの頭をヘラが殴っていた。

「うごっ!」
「ノエルだよ、間違えんな」

 いつもの、愉快なやり取りを最後に三人の後ろ姿が消える。
 まさか、こうもあっさり別れるとは思わなかった。

 だけど、この先また会えるかもしれない。
 根拠もないのに、何故だかそんな気がした。

「確かエミリオさんって、冒険者ギルドでの登録がまだだったんですよね?」

「うん、まぁ荷物運びだったし必要ないと思って……」

「でしたら先に冒険者ギルドに行きましょう!    まだお昼ですし、初心者用の依頼を受けてみるのも良いかもしれませんよ」

 エルダーオーガーを討伐した時に得た報酬は、一割程度しかないけど少し上品な宿に半月は泊まれるぐらいの金は持っている。

 だけど、この先リグレル王国に辿り着くための旅費を計算してみたけど、十分なぐらい足りなかった。
 ならば旅をしながら冒険者ギルドでコツコツと稼いだ報酬を貯めていくしかない。

 まずは冒険者ギルドの受付で冒険者登録をして、経験のために依頼を受注する。
 今日はその流れだけでいって、終わったら宿でも探して休もう。



 あまりにも人が多く、移動に時間を費やすかもしれないので人気のない裏路地を通ることにした。

 まずは冒険者ギルドへと早速向かうのが目的である。
 だけどその前に、何故だか先程から彼女から僕は違和感を感じていた。
 些細なことだけれど、一応聞いてみる。

「あのさ、ノエル」

「はい、どうかしたのですか?」

「また敬語に戻っているんだけど、別に気安い感じで話かけてきてもいいんだよ?  たとえばロードさんとヘラさんのように」

「敬語?  ああ、そういえば、ずっと使っていましたね。すみません、どうやらエミリオさんにはどうしても気軽に話しかけられないようで……お気に召さなかったですか?」

 無意識だったのか自分の口調に気がつくとノエルは恥ずかしそうに、小さくはにかみ笑った。
 健気な彼女の仕草に、心が打たれるような感覚を覚えるが誤魔化すように顔をそらす。

「いや、その方がやっぱりノエルらしい……かな。僕もなんていうか、そういうノエルの方が好き、かもしれない」

 川があったら飛び込みたいほど、心の中の恥ずかしさが限界突破していた。
 リールやジュリア以外、他人に対して好きなところを言ってやったり、褒めたりしたことがあまりない。

「え、すっ……好き……って」

 大きく見開いた瞳のまま、ノエルは放心状態にでもなったかのようにボンヤリと僕を見上げた。
 だけど徐々に顔色が赤へと変化していっている。

 何を考えているかは分からない。
 不思議そうに彼女を見ながら、復活するのを待つ。

 瞬間、嫌な予感が背筋を駆け巡る。
 そして突然、それは襲いかかったのだった。



「……エミリオさん!」

 支配から逃れたかのように、突如と意識を覚醒させたノエルが大きな声で叫んだ。

 ゴン!!

 思わず背後へと振り向こうとしたのだが、叩かれたかのような強い衝撃が頭を襲う。

 そのまま、地面に倒れてしまった。
 見ていた視界が途切れ、目の前が暗闇に塗りつぶされる。


 ノエ………ル。


 頭上から流れてくる自身の温かな血を感じながら、彼女の名を呼んで意識を消滅させるのだった。

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