妹と幼馴染を寝取られた最弱の荷物運び、勇者の聖剣に貫かれたが目覚ますと最強になっていたので無双をします

英雄譚

第11話 「結局は、分からずじまい」

 

 あの時、自分を支配していた力がなんだったのかは分からない。

 割れた筈の指輪は元どおり指にはまっているし、外傷は見当たらない。
 元々、両親は幼少期から何故かついていたんだと言っていたが、詳しいことを語ってくれたりはしなかった。

 だけど、とてつもない高度な封印魔術が指輪の宝石に施されているらしいけど、その理由は未だ分かっていない。

「はははっ!  流石は俺が見込んだ新人、エルダーオーガーを討伐しちまうなんてな!」

 酒場、烏合の衆で『大討伐』の依頼を受注していた冒険者たちが達成祝いで盛り上がっていた。

 ロードも同様、僕とノエルが座っている席で酒を泥酔する程たらふく飲んでいた。
 その隣にはロードの仲間である赤毛の女性もが同席している。

「そもそも、あんたが依頼なんて渡してさえいなければ二人は巻き込まれずに済んだのよ!  少しは反省しなさい!」

「うがっ!」

 呆れた様子で、みっともなく飲み続けるロードの頭を女性ははたいた。
 かなりの威力が炸裂して、想像以上の勢いでロードの頭がテーブルに叩きつけられてしまう。

「二度目になるけど、この馬鹿野郎のせいでごめんなさいね。根は良い奴なんだけど、後先を考えるような脳みそを持ち合わせていないから、次また話しかけられたら時には気をつけてね」

 申し訳なさそうに頰を豪奢な指で掻きながら、女性は苦笑いで謝罪と忠告をしてきた。

 別にロードに非があったから、エルダーオーガーと遭遇してしまったわけではない。
 罠にかかってしまったは僕の不注意が原因でもあるし、あんな事態を誰が予想できた?

「いえ……幸い僕もノエルも無事でしたしロードさん達があの時、駆けつけてこなければ迷宮から出ることは出来ませんでしたよ」

 ボス部屋にいたエルダーオーガーや統率されていた魔物を倒せたのはいものの、負傷したノエルを抱えながら地上へと脱出するとなると話は変わってくる。

 途中で魔物などに遭遇したり、罠にでもかかってしまったら迅速な対応は難しい。
 だからと言ってボス部屋にずっと留まれば、倒したエルダーオーガーから放たれる黒魔力が広間一帯に充満して、身体を侵食されて命を落としかねない。

 火元素での焼却を考えたのだけど、負傷した状態のノエルに魔術を無理に使わせることは出来なかった。

 途方に暮れる中、救いの手を差し伸べるように幸運にもロード達は迷宮のボス部屋まで駆けつけてくれていた。

 どうやら、初心者専用の迷宮を視野に入れるという僕の意見に賭けてやって来てくれたらしい。

 大討伐の依頼を受注していた冒険者らは、目を丸くさせながら屍になったエルダーオーガーを見ていたけど、ロードは冷静になりながら彼らに迷宮の脱出をすぐさま命令をした。

 迷宮は元々、魔力がなければ腐敗し崩落してしまうぐらい脆い場所だ。
 最深部、魔力の源となる魔物が倒されれば迷宮に流れる魔力は消滅。
 魔力の行き届かなくなった場所から崩落が開始するのだ。

「だからロードさんは何も悪いことはしていません。それに、初対面の時にもし僕らの前に彼が現れてなかったら、きっと明確な目標も見出せずに無理してでも次の街へと向かっていました」

 馬車に乗るために必要な費用すらない、完全な無一文状態で街道を使って街まで移動するとなると、きっと無事では済まされない。

 だから、ロードには返しても返しきれないほどの恩がある。

「なんだいあんた達、金が必要だったのかい?」

 女性は不思議がるように騒がしい酒場内を見回しながら言った。

「はい、ちょっと……自分のせいで金銭が減ってしまったようなので」

「ふーん、それじゃさ。どうして『大討伐』の標的をあんた一人が討伐したってのに、それをドンチャン騒ぎをするコイツらに譲っちゃったんだい?  勿体無いでしょ」

 確かに、酒場での冒険者らの祝いの費用はエルダーオーガーの討伐から出ている。
 ロードの飲んでいる酒も、店に並べられた食事も全部だ。

「別に深い理由があって、譲ったわけではありません」

「ん、もしかして顔を広めようとしているのかい?  一応冒険者の先輩として忠告するけど、その気ならやめときな。冒険者の大半ってのは仕事を失ったりしたゴロツキの集団だから、金を撒き散らすような事をしたら狙われるよ」

「姐さん酷いっすよ!  俺たちはそんなことしねぇっての!」
「そうだそうだ!  狙うなら大富豪の坊ちゃんぐらいだよ!」

 彼女の発言に対して、周囲からはふざけたようなバッシングが飛び交う。

「あん?  なんか言ったかい?」

 見せしめかのように額から血を流すロードの頭を持ち上げ、鬼の形相で拳を握りしめながら鬼のように女性は冒険者らに威嚇する。
 途端に周囲の冒険者らは背中を丸めながら、黙りこんでしまう。

「そういや、私のことを紹介していなかったね。私の名前は『ヘラ』、職業は弓手。ロードのパーティでは遠距離や索敵の担当をさせてもらっている。よろしくね」

 彼女に告げられた名前。
 うっすらと脳裏に違和感を覚えたけど、あまり気にせずに僕も名乗ることにした。

「エミリオです。冒険者としては駆け出しですけど、会えて光栄です」

「ノエルと申します。わざわざ気にかけてくださり、ありがとうございます」

 首筋から包帯をのぞかせるノエルも、どこか嬉しそうにヘラと握手を交わす。

「え、ちょっと待って!  君、アイリンちゃんじゃないの!?」

 テーブルに伏していたロードが突如、衝撃的事実を目の当たりにしたかのように復活してノエルに詰め寄る。
 それを制するヘラ。

「誰があんたなんかに実名を明かすか。名前を覚えられて付け回されたら、ノエルさんのような子じゃたまったもんじゃないよ」

「べた褒めした俺が恥ずかしいんだよ!」

 自業自得のような気もするけど、言われてみれば男性にとっては恥ずかしい。

 隣でノエルが顔を赤く染めながら、ロードと同様に物凄く恥ずかしそうにしていた。

「こんな馬鹿はさておき話が変わるんだけど、エルダーオーガーの件について話してもいいかい?」

「……詳しくは自分の口からでも話せない部分があるんですけど、よろしければ」

 改めてといった様子で神妙な顔で尋ねてくるヘラ。
 彼女だけではなく、冒険者の皆も困惑してる筈だ。

 大討伐の対象は本来、百人態勢で挑むものであり一人だけで受けるような依頼ではない。
 死者もでるような特務を、命を落とすことなくたった一人で討伐した者は今に至るまで居ない。

 勇者がいれば討伐の効率が格段に上がるけど、ユーリスが真面目に敵と対峙したことはなかったので死者は変わらずに出てしまう。

「あんたのようなナイーブで気弱そうな男の子が、あんな大物をたった一人で討伐したと話されても、普通なら信じられないだろう」

「はい……正直、自分もそう思っています。剣術や魔術の鍛錬を何度かした事があるんですけど、特別なにかを会得できたわけではない凡人なままでした。そんな自分なんかがエルダーオーガーなんか倒せるわけがないことは、自分が一番わかっていることです」

「なら、どうしてあの場でエルダーオーガーが倒れていて、あんたとノエルが無事だったのか。辻褄が合わなくなってしまうね。なにか理由があるんだろう?  無理とは言わないけど話してもらえると、こちらとしてはありがたい」

 断る理由もないし、とにかく話してみることにした。
 あの場所で、エルダーオーガーに殺されかけた時に起きた不可解な出来事を事細かくヘラに伝える。
  
 指輪が突如と割れて、大剣が出現して、受けた傷が自動的に治癒したことも含めてだ。

 ヘラとロードは黙り込みながら最後まで聞いてくれたけど、ピンとこないのか二人は困ったように考えていた。

「まっ、難しい話は置いといてさ。今夜は楽しもうぜ、エミリオのおかげでタダ酒を飲めるんだし、万々歳じゃね?」

 相変わらず、空気の「く」をすら読めないロードが話を中断した。
 酒はあまり得意な方ではないので万々歳かは分からないけど、彼の言うとおり難しい事ばかりでは駄目だ。

 死に遭遇するのは、これで二度目になる。
 一度目はノエルに救われたけど、今回は自分自身でなんとか回避することが出来たんだ。

 この先、数多もの危機に再び陥るかもしれない。
 避けられずに死んでしまうかもしれないし、また助かってしまうかもしれない。
 結局は、分からないことだらけだ。

 けれど、たったそれだけで自身で決めた目的を途中で止めるわけにはいかない。
 リールとジュリア、ユーリスと話がしたい。
 ただ、それだけでいい。

 怖いことかもしれない、また殺されるかもしれない、一人だけなら恐怖で足がすくんでいた。
 だけど、自分が一人ではないことを今なら実感できる。

 これから先で起こる出来事が明白ではないのなら、まずは確認するために一歩ずつ彼女と共に進んでいこう。

「うわっ、ちょっと……!」

 隣で強引に他の女冒険者に酒を飲まされながら、ちょっぴり楽しそうなノエルを横目で見つめながら一人で思うのだった。



 明日から、村を出発して次の街『ヘンドラ』へと移動する予定だ。

 どうやら国境を越えるためには、その町で馬車に乗り換えなければならないらしい。
 交易によって栄えた商業街だとは聞いたことあるけど、そこではロードはかなりの有名人って立ち位置なんだと自慢された。

 冒険者ギルドもあるので、稼ぎたいのなら打ってつけの場所だという。

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