呪いで常識を失ったのでロリと旅に出る

こが

第281話 めぐ視点

「キス、してほしいの」

言っちゃった、言っちゃった。ついに言ってしまった。何を? 自分の欲望を言っちゃった。そんなつもり全くなかったのに何故か口に出さずにはいられなかった。なんでだろう。

急激に恥ずかしさに襲われる。自分はみんなの事を応援していなくちゃいけない立場なのに、自分のわがままを言って良い立場にいないのに何て事を言い始めてしまったのか。この体になってから楽しい以外の感情がわいてきて非常に困る。

「ええとごめん、聞き取れなかった」

「う、うんごめん」

絶対聞こえてる。きっとお兄ちゃんは信じられないんだろう。私がこんなことを言いだすなんて思いもしなかっただろうから。私だって自分がこんなことを言うなんて思いもしなかったのだからなおさら。

でもお兄ちゃんはロリコンだし私が求めてしまえばきっと軽く落ちてくれるだろう。私のためなら何でもしてくれるって言っていたし、流石にここまで言って私の気持ちに気付かないなんてことはないはず。

「めぐ、その、もっかい言ってもらっていいかな」

ほら、ちゃんと確認取って気持ちの整理をつけてくれるんだ。

「ん……キスしてほしい」

こっそり顔を覗いてみると思ったよりもびっくりしている様子。お兄ちゃんは私の事口説いてたけどそういうつもりじゃなさそうだったもんね。言い方が悪いけど壁を作っていたみたいなそんな感じ。辛い。

私はどうしてこんな気持ちになっているんだろうか。女神だった時にはこんな感情は持てなかった。人間の姿になったから感情とか欲望とかそういったものを持つようになったのだろうか。

「ど、どうしてか聞いても良いか?」

「ええっと、直接触れてる方が神気をもらえるかなって」

……? なんだろう。お兄ちゃんは私の事好きじゃないのかな。そんなことはないってわかってるのに漠然とした不安が襲い掛かってくる。

あれ、これ、私、どうしたんだろう。

胸が張り裂けそうになるくらい痛い。おかしいよなにこの感情。これが人間の感じる気持ちなの? どうやってみんなこの苦しい気持ちを処理しているの。なにこれ、自分がわかんなくなりそう。

「ご、ごめん。困らせたよね。私とじゃ嫌だよね。ごめんね」

「嫌なわけじゃ……」

咄嗟に出る逃げの言葉。お兄ちゃんは嫌なわけじゃないと言いつつ全く私に触れようとしてこない。いつもなら優しく髪を触って撫でてくれるのに何で今に限って何もしてきてくれないの。

なんで私はこんなめんどくさい子になっているの。

おかしい。人間になったといっても私は元女神。人間が生まれるところも死ぬところもたくさん見てきた。どうやって生きて、どうやって死んだか、その過程だって見守ることもあった。

時には力を与える事だってあったけどそれは全部義務や見返りとして与えてきたものだ。

でも今回のこの気持ちは……。女神としてじゃなく、人間として持ってしまった感情なのだろう。義務でもない、こちらから一方的に見返りが欲しいと思ってしまうこの自分本位の気持ち。

これが恋ってやつなのだろうか。

そして拒まれたこれが失恋ってやつなのだろうか。

わからない。人の気持ちをわかった気になって祝福とか色々与えてきたけど、私は何も、わかってなかったんじゃないだろうか。人の気持ちの強さというものを理解できていなかったんじゃないだろうか。

信仰心なんかよりも、お兄ちゃんに愛されたい。

そうじゃなきゃこの自分の中で処理できない気持ちが理解できない。見たり聞いたりするよりも、自分で体験して初めてわかる。

困ったな。私は女神としてお兄ちゃん達と一緒にいたかったのに。言うんじゃなかった。何で言ってしまったんだ私は。

「おやすみ、お兄ちゃん」

「あ、あぁ」

私も自分が女神だったころに戻りたいよ。自分で捨てたものだけど、まさかこんな気持ちをもらうことになるなんて予想外すぎるよ。最初は幸せなだけの気持ちだったのに辛くなるなんて思わなかった。

本当に言わなければ良かった。ずっと秘密にしておいてたまに構ってもらうだけで満足するべきだった。人の感情って不便すぎるよ。どうしよう。

お兄ちゃんは一人で考え事してるけど嫌われちゃったかな。明日からどうしようかな。目から涙が流れてくるしもうほんとやだ。こんなことなら教会で孤児として暮らしたほうがよかったのかもしれないや。

はー、もう。寝よ。

「めぐ」

「……」

お兄ちゃんが話しかけてきたけどここは返事をしない。何を言っていいかわからないし、拒まれたらきついしで何も返事が出来ないが正しいけど。私の気持ちを知ってか知らずかお兄ちゃんは話を始める。

「感謝してるよ、めぐ。もう一度この世界をやり直させてくれて。めぐと一緒に冒険出来て」

「……」

「女神様であるめぐにこんな感情を持つのはダメだって本当はわかってるんだけどさ、めぐのそんな辛そうな声聞きたくないし、もう後悔したくないんだ」

お兄ちゃんはさっきまでの迷いが嘘のように決意に満ちた声で続ける。自分自身を叱咤、もしくは激励するかのように、私に自分の意思を伝えるという意地を見せつけるように。

「神気を回復させたいから、そんな理由じゃなくて、好きだから、キスしていいか?」

心臓が壊れるかと思った。



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