呪いで常識を失ったのでロリと旅に出る

こが

第189話 守護の光

ある日唐突にフラフィーは村を出ようとしたらしい。村人たちはそんなフラフィーを無理やりとどめ、外がいかに恐ろしいか、人間がいかに残酷かを語って聞かせたそうだ。

フラフィーもその辺はしっかりと理解しているが、それでも俺に会うためにはこの村を出て王都に向かう必要があると頑として村を出る事を譲らなかったそう。

困ったティモルフは、それなら実力を最低限付けて行けと稽古をつける事にしたそうだ。具体的には守りじゃなく攻撃方面においての戦闘術。フラフィーはいつも女子供を守るため守りしかやる必要がなかった。

村の戦士達が来るまでの時間稼ぎさえできれば充分だったからだ。しかし村の外ではそうはいかない。そう言われてしまっては狼に囲まれた経験、俺と共に無力を感じた事もあるため言う事を聞いて特訓を始めた。

「ふふふ、私もこう見えてちゃんと戦えるようになったんですよ! 狂獣化の力を抑え込んでコントロールできるようになりました!」

「俺達それ見た事ないけどな」

フラフィーの攻撃手段なんて包丁を俺に突きつけるくらい。あれは確かに狂った獣だったが流石に違うだろう。いつ取り出したのかもわからない早業、料理においての手さばきを見るに絶対にヤバイのはわかっている。それがついに攻撃に活かされる時がきたのか。

狂獣化で危機を脱した時、盗賊の死体がつぶれていたからあの力をコントロールできるようになったのならとてつもない戦力アップが見込めるだろう。

「でもごめんなさい、実はもうちょっとかかりそうなんです……」

「すまんなお客人、フラフィーには最終試練が残ってるんだ」

「面白そうな響きですね」

どうやら成人した獣人、それも戦闘に参加する意志を持っているならば全員受ける必要があるらしい。本当に戦えないのは子どもだけで女の獣人も戦えるとの事。村にいる全員が戦う意志を持っている。

守るために戦う、それが獣人の本来の姿。

フラフィーの特訓は想像以上に速く進んではいたが、この最終試練をせずに勝手に村から出ていく事は許されないそうだ。前回の世界では村が解体したこともありそれをやる暇がなかったっぽい。

「本来フラフィーにはまだ早いが……どこでこんなに実力を付けていたのか」

「前世でキミヒトさんと一緒に……えへへ」

隙あらば惚気ようとするのであとでお仕置きしておかなくてはならない。めぐとあかねは出されたお茶請け、何かの干し肉をおいしそうに頬張っていた。こいつら二人とも放っておいたらひどいことになりそうだな……。

平和な世界だったらフラフィーが面倒見るの二人になりそうまである。いやそれはだめだな。めぐの面倒は俺が見させてもらう! あかねは任せた。

「それでその試練って何やるんですか?」

「村の一番の戦士とタイマン張って認められることだ」

「わかりやすいですね」

まさに村の掟って感じだな。しかしあの屈強な戦士達にフラフィーが勝てるのだろうか。守りに関してならそうそう引けを取らないだろうが、流石に攻撃をしないで認められるなんてことはないだろう。

世界がループしてから十日程度しか経っていないが、どれほどフラフィーが成長したのか見せてもらおう。

どうやらその最終試練を行う直前だったようでこれから獣人同士の戦いが始まる。俺達も特別に見学して良いと許可が出た。女神様の神気の前には村長も何も言えなくなる。

うちのパーティはサボリ癖ある連中に便利な能力を与えすぎだと思うんだ。いや与えた張本人が目の前にいるけども。

「フラフィー、お前に外はまだ早い。言っておくがいつもの試練とはわけが違うぞ。村を守る最低限なら俺に一撃で合格だ。だが外に行くなら俺を倒すくらいは出来ないとだめだ。つまりお前に合格を出す気はない」

筋骨隆々の獣人、黄色と黒の縞々だからたぶん虎の獣人がフラフィーと対峙する。軽いウォーミングアップで体を動かしているが、がっしりした体格の中にしなやかな動きが見える。あの人仲間に欲しい。

「いいえお父さん。私はこの村を出ます。今まで守ってくれた事にはお礼を言いますが、愛する人と一緒になる事を認めてもらいます」

「貴様ぁ……!」

両陣営から殺気と生暖かい視線が飛んでくる。おい飛び火やめろよ。っていうか村一番の戦士はフラフィーの父親かい。仲間にしたら信じられないくらい問題が起きそうだからやっぱりいいです。

あとフラフィーは外堀から埋めていこうとするのまじでびびるからもうちょっと自重してほしい。

「でははじめぇ!」

ティモルフの掛け声で戦闘はいきなり開始される。お互いに武器を持たずにステゴロ勝負なのは、獣人はどんな時でも戦える精神を持つべきとかそんな感じらしい。フラフィーは盾をメイン武器にしていたが大丈夫なのか?

先に攻撃に移ったのはお父さん。低姿勢から勢いに任せてタックルを放つ。瞬間的にあの速度が出せるのはまじで化け物クラスだが、その突進をフラフィーは正面から受ける。

受け止める直前フラフィーの体が一瞬輝いたように見えた。

「まじで?」

「あれは守護の光ですね。どうやら私の加護の力を放出して纏っているみたい。身体強化魔法の一種だよお兄ちゃん。神聖と相性の良い獣人で、さらに善性が高くないと出来ないから才能凄いよあの子」

「もう盾いらんやん」

めぐから解説が入る。つまり俺の防御みたいな感じで女神様の力を使っているのか。こういう所似てるんだよな俺達は。前回ぼろぼろにされてみんなを守りたいって気持ちが前面に出過ぎ。

こういうシンパシー感じるからフラフィーイジメたくなるしほっとけなくなるし可愛いと思っちゃうんだよな。正直ちょろさも似たようなもんだし相性良すぎよな。

「やるなフラフィー。普通の試練ならこれで合格だ」

「冗談。私はお父さんを倒してキミヒトさんと一緒に行く!」

「……! まだ言うか!」

お父さんは一度距離を取り地面を思い切り叩く。すると地面に亀裂が入り真っすぐ亀裂がフラフィーに向かっていく。おお、あのお父さん魔法も使えるのか。フラフィーはどうするつもりなのか。

フラフィーは避けるかと思っていたが、その地割れの上を滑るかのようにお父さんに向かって突撃していく。その姿はまさしく先ほどのお父さんのタックルと同じ。フラフィーの真後ろでは土魔法が炸裂していくがフラフィーの方が速い。

そしてもう一度父娘が激突する。

「流石お父さん……魔法撃った直後なのに防御が間に合うなんて」

「そっちこそ突っ込んでくるとはな。だがお前を鍛えたのは俺だ。そう簡単にやられはせん」

「それなら……こっそり特訓した狂獣化、見せてあげる! あああああ!」

フラフィーは叫ぶと周りにオーラのような物が噴き出す。さっきの一瞬の輝きとは違い、持続的にフラフィーの事を覆っている。

「ほう、本来ならば理性を失う狂獣化を女神の加護で無理やり押さえていますね。確かにあれなら狂獣化の力を引き出しつつ理性も保ったまま戦えます。考えましたね」

「ってかそれを何も使わず押さえてるフラフィーのお父さんやばない?」

めぐとあかねは対戦を見ながらそんな感想をこぼす。めぐにはどうやら戦闘の成り行きやなにが起こっているのかしっかりと見えている様子。人が纏っている魔法の力とか全部見抜くとかチート。

解説キャラとしても優秀過ぎるんじゃなかろうか。あと俺もあかねの意見に賛成だよ。お父さん肉体強化の魔法とかなんも使ってない。これなら押し切れそう。

「む……ぐ……」

「お父さん! 認めてもらうよ!」

その証拠にフラフィーが徐々に押し始める。タックルの姿勢だった二人だがいつのまにかがっちり手を組み合い力勝負になっていた。倍くらい身長差がありながら、大きいほうが押されている光景と言うのは中々に不思議だ。

「良いだろう。どうやら父さんも少し本気を見せる必要があるようだ。『身体強化』」

「え……!?」

お父さんは身体強化の魔法を唱え、その力はフラフィーと拮抗していく。いや明らかにお父さんの方が優勢になっていく。

「どうだ、まだ外に行くには早い。もう少しその力をしっかりと学んでからいけ」

「う、ぐぐぐ……」

「なあめぐ、身体強化ってあんなにやばいの?」

「ううん。狂獣化のほうが全然ランク上だし強化幅段違いだよ。でもあの人は元々の身体能力高すぎるからね。例えば猫娘の能力が百、そのお父さんの能力が千だったら、加護と狂獣化で十五倍、身体強化が二倍と考えてもお父さんの方が強いよねって感じ」

むしろ差が開く感じか。筋肉ってやばいんだな。

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