呪いで常識を失ったのでロリと旅に出る

こが

第170話 恨み入ってる

外は特に問題なさそうだったので召喚の広間というか牢獄みたいなところに戻る。そこではやはりまだ記憶の書き換えの術式を発動している最中だった。

勇者たちはみんなうつろな表情でぼーっと立っているが、ここで助けに行くわけにはいかない。せめて一般的な戦い方を叩き込まれないとこれからの生存率がぐっと下がってしまう。

魔王討伐のためには必ず必要な儀式だ。この洗脳術式が数時間続いた後にステータスのチェックが行われグループで管理されるようになる。第二グループのはずれ組は前の世界の時そこで経験値としてリタイアさせられたが今回は違う。

第二グループの能力が鑑定されるときに俺の虚偽のスキルで情報をかく乱して、第一グループ以外の連中を全部第三グループに混ぜてしまおうと言う作戦だ。わからないものは全て第三グループに入れていたからそれでいけるはず。

第三グループで人がいなくなるのは魔物討伐の時だから、ここからさらに時間がかかる。拷問みたいなスキルチェックの前に助けたいとは思うが……戦い方の記憶を入れられるのはその後だ。

俺以外はそこまでひどいことをされていなかったから大丈夫だとは思うが本当にすまん。戦う記憶もらったらすぐに助けるから許してほしい。死人が出そうなら助けるからそれまで辛抱していてくれ。

また壁際によって術者や勇者たちの様子を透視で観察する。時間が経つにつれてこの部屋の魔力の濃度が上がっていき、それが勇者たちを中心に渦巻き始めているのが観察できる。

勇者たちはそれを受けてさらに無反応になっていく。

……おかしいな。俺の目がおかしくなったかな。

なんか他の勇者たちが段々と目から光が失われているんだけど、まともに受けてない奴がいる気がする。

具体的には術者からばれないようにこっそり周りにちらちらと視線を飛ばしている。どう考えても呪いの影響を受けているようには見えない。

なんでだろうか? あの魔法陣の上に立っている以上確実に影響圏に入っているはずだ。だからこそ周りの兵士は影響を受けていないし、俺たちは呪いを完全に受けてしまうことになった。

それなのにどうしてあいつは無事なのか。

そういえば女神様『次の転生からはそういう呪いをはじくように女神の加護を付与しちゃうよ』って……。

だから俺はこっちの世界に飛ばされた後影響が完全にリセットされたのだと思う。前の世界では召喚直後に声だせなかったけどこっちなら普通にだせるし。行動も制限されていたはずなのにこうやって移動も隠れも出来ている。

これが召喚直後の呪いを弾いた女神の祝福の影響なのだと思う。

そしてその加護をもらったのって俺だけじゃない。

あかねもその一人。

え、もしかしてこれあかねも記憶あるか? いやそれなら動かずそのまま呪いを受ける場所にいるっていうのもおかしい気がする。

しかしあかねが呪いの影響を受けないと言うのはかなり嬉しい誤算だ。本来だったらステータスチェックを偽装して全員を第三グループに突っ込んだ後急いでケイブロットの屑鉄のダンジョンまで行こうと思っていた。

あそこの解呪のメモがないと完全に呪いを除去できないから時間的に厳しくなると踏んでいたんだが、あかねがこれならもっと早くに行動できる。そして他にやりたかったことも出来そうだ。

……にしてもあかね動かねえな。視線を飛ばして何かを探しているようにも見えるけどなんか……。

とか色々考えているとあかねと目が合う。完全に目があった。俺は気配を消しているし姿も見えなくなっているはずなのに。これは、意思疎通で俺の考えを読んだ、のか?

たしかにあかねの意思疎通なら姿が見えなくて気配もなくても考えを読むことはできるだろう。だが確か最初の時、能力は部屋一つくらいとかいっていたからここまで届くのはおかしい。

となると、あかねもスキルをそのまま持ち越しているんじゃないか? まじで? 聴こえてたら前髪いじってみてくれよ。ああいじったわ。まじかよ。

……泣きそう。あのままのあかねなの? 本当に? ああ転生したからか。女神様ガチのチートやん。いや存在がそもそもチートを超えているようなもんだけど半端なく嬉しい。

感動のあまり走り出して思いっきり抱きしめたくなるわ。それくらいの衝撃。愛おしすぎるこの感情をどうにかして発散させたいんだけど今動くわけにはいかない。あかね照れてるわ。すまん。

シオリ無視してよかったわほんと。

しかしあかねが無事だと言うなら問題が発生するな。流石にあかねに拷問を受けさせようとは思わない。この百人近くいる兵士と術師の目を盗んでどうにかあかねだけ俺のスキル範囲内に収めたい。

この人数の目をどこかにくぎ付けにするなんてそうそう無理な話だが。また王女様でも来れば別だが残念ながら来ることは無いだろう。そうなると……俺が姿を一度表して場を乱すくらいしか方法はない。

それをすると今後王都での活動も支障が出るし勇者の呪いを解いた時の説得が結構ややこしくなるからやりたくはないが、あかねを助けるためにはやるしかない。

ふぅ、さて心の準備をしておこう……あ、あかねがなんかしてる。ん? ちょっと待て? 私に任せろ? え、なに? 何するのあかねさん。ねぇちょっと。

あかねが不穏な空気を発する中、俺にはあかねの考えを読むことが出来ない。だが待てと言うなら待ってやろうじゃないか。あいつはやるときはやる……ような気がしないでもないようなやつだからな。

特に自分が面倒に巻き込まれそうなら率先してその場から撤退しているタイプだ。ことが起こる前に脱出するなど容易いことよとか平然と言う。そんなやつだからきっとどうにかして全員の視線を外すことが出来るだろう。

やり方はわからんがもうどうにでもしてくれ。すごい嫌な予感もするけど。

術者の詠唱が終わりあかね以外全員が完全に洗脳された状態になった。

「さてまずはスキルのチェックからだ一番、こっちにこ……い?」

一番のユウキが兵士に呼ばれると、おもむろに服を脱ぎ始める。なんでだよ。

「おい、誰だこいつに脱ぐように命令したのは」

「え、私ではありません。こういう行為はするなと厳命されているので」

「その通りだ。王命に逆らうことは許されん。だがこうして目の前で脱いでいるではないか。正直に出てこい」

兵士たちの間で会話が行われ、次第にそのざわめきは大きくなっていく。誰もその指示を出していないしユウキはどんどん服を脱いで行きパンツ一枚になっていくという惨状のためだ。

召喚されて肉体的にとても健康になり、骨の形も整えられているユウキの姿は端的に言って絵のように作り物めいている。現実感が無いような美しさ、それに筋肉をアピールするような立ち姿。

なんだっけ、横向きになって腕を後ろに回して上半身をアピールする感じのポージング。なんでだよ。あとなんでブーメランパンツ穿いてんだよユウキ。

「僕は! 勇者になる男だ! この肉体美を持って魔王を打倒することをここに誓います! 小さいころから勇者に憧れていましたよろしくおねがいしまあああす!」

全員ドン引き、視線釘づけ。あかねばかかよ。絶対恨み入ってんだろこれ。

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