呪いで常識を失ったのでロリと旅に出る

こが

第163話 張本人

「キミヒトさん、誰かこっちに近づいてきます」

食堂を出て、最後にちょっとだけ教会を覗いて宿屋に戻ろうとすると俺達に向かって誰かが近づいてくる。暗いため男か女かも良くわからないが、俺達と同じように深めのフードで顔を隠している。

「敵意は無いみたいだが……あいつが呼び出したやつかな?」

「でも、それならわざわざこんな時間まで待つ必要あります?」

その通りだ。もし俺を呼び出したのならこんな時間まで待ってわざわざ怪しまれるように近づいてくる道理がない。普通におかみさんみたいに話しかけてくれればそれでよかったはずだ。

それをしなかった理由、俺達に顔を見られるのがまずい。もしくはお尋ね者だから簡単に姿を現すのがまずい。

フラフィーを後ろに下げて臨戦態勢を取る。いつでも収納から剣を取り出せる態勢になって近づいてくる人物を思いっきり警戒していると、その人物はようやくフードを取った。

「久しぶりかな、もう来てくれるなんてだいぶ早かったね」

「ショウか」

第一グループの勇者でケイブロットで出会った人物。俺が腕を斬り飛ばしてしまったが、その腕はしっかりと生えて元通りになっていた。何かしらの薬の作用か、優秀なスキル持ちが治したんだろうな。

しかしショウに会って安心した。俺にかけられたあの衝動的な呪いの効果が発動しなかったからだ。どうやらあかねの解放はしっかりとショウの呪いを解き、俺達にとって害のない存在にしてくれていたようだった。

この時間まで待っていた理由も、王城で色々暴れた勇者が関係しているのかもしれない。

「連絡入れたらすぐ向かうから教会で待っててくれるかな?」

「こんな時間だが良いのか?」

「うん、むしろ教会閉まってからの方がいいからね。裏口があるからそこで勇者だっていえば入れてくれるから」

そう言ってショウはどこかへ向かってしまった。手には通信機を持っていたから呼び出しながら迎えに行ったのだろう。迎えが必要なほどの人物でもいるのだろうか。

旅疲れが結構あるが仕方ないのでもう一度教会へ向かう。たらいまわしというか行ったり来たりばっかりがすぎるな。しかし裏口なんてあったのか教会に。

それに教会が勇者を中に入れて何をしているのかも非常に気になるところではある。いろんな人に平等に接していた教会が何故に勇者を裏口から入れてくれるのか。ちょっと怪しい感じある。

教会に着き裏口を探すとあっさりと見つかった。扉を数回ノックし自分が勇者の一人であることを告げると本当に扉があいて中に招かれる。

「ようこそ、勇者様」

今日来た時に見たシスターと同じ格好をした人物がそこにはいた。見た目が統一されているせいで聖水を渡していた本人かどうかはわからないが、これが教会のシスターの制服なのだろう。

ゆったりとした制服は落ち着いた雰囲気を感じさせるので、この制服もきっとあの店に行けばあるだろうなという感想を抱かせる。結局買うだけ買いまくった服のほとんどが俺の収納で眠ったままになってしまったな。

今度行くときはフラフィーのだけになるのはちょっとさみしいかもしれん。いや、そもそもケイブロット残ってるかもわからないのか。魔王の進行が唐突すぎて殺伐として来てるぜ。

「呼ばれてきたんですが、どこで待ってればいいですかね?」

「シオリ様が到着するまでこちらでお待ちください」

宿直室みたいなところに案内され俺とフラフィーはそこで待機する。シスターはお茶っぽい飲み物を俺達にだしそのまま姿を消してしまった。

「キミヒトさん、シオリさんって誰ですか?」

「わからん、名前的に日本人っぽいけど……あ、お茶飲むのちょっと待て」

一応鑑定をかける。問題なし。

「毒は入ってない。大丈夫だ」

「最近ずっと鑑定つかってますね? そんなに心配しなくてもいいのに」

「何があるかわからないからな。俺は毒とか平気だけどフラフィーはそうじゃないだろ? フラフィーは俺の大切な人だからな!」

「……もう!」

フラフィーの言うように最近は少し神経質になっている。理由はフラフィーに何かあったら嫌だからというただそれだけの理由だ。食べるものも買っておいたものも全部ひたすらに鑑定をかけて問題ないことを確認している。

今俺達はヒールが使えないからかなりのダメージを負ったら治すまでに時間がかかる。看病スキルがあるとはいえ病気がどのくらいまで治せるかはわからないからな。唯一鑑定をかけない物と言ったらフラフィーが料理をしたものくらいじゃないだろうか。

お茶を飲みながらシオリとやらが来るのをひたすら待つ。ショウが呼びに行ったのがそうなのだろうか。だとしたらそんなに待つとは思えないけど暇だな。それにお茶だけだとちょっと小腹がすいてくるまである。

「なぁフラフィー、お菓子作ってくれないか」

「今ここでですか!? 緊張感は無いんですかキミヒトさん」

「いやあるよ。あるから今この瞬間に和んでおきたいんだよ。ほら、材料ならあるし竈もあるだろ?」

「いくらなんでもそんなガチな焼き菓子はどうかと思いますよ」

暇なのでお茶請けを作ってもらおうと画策する。クッキーとか作れたら最高だけど確かに煙とか出ちゃうし甘い匂いさせまくるのはやばいだろうか。かといって他にすぐ作れるお菓子ってホットケーキとかドーナツとかか?

ホットケーキならすぐできそうだな。こっちの世界で作れるものかどうかはわからんけど、小麦粉と卵と砂糖と牛乳はある。なんとかなるっしょ。重曹とか膨らませる系のはなくても別にいいだろう。

「いやあのですねキミヒトさん? 焼き菓子じゃなきゃ良いとは言ってないですよ」

材料と調理器具を取り出し準備万端とフラフィーを見つめていると、しぶしぶといった様子で作り始めてくれた。押しに弱い子って可愛くて好き。

時と場所を選ばないでこういう意味のわからない言動に付き合ってくれるしマジでいい子だわフラフィー。ぶっちゃけ半分くらい冗談だったんだけどまじでやってくれるとは思わなかったわ。好感度上がる。

そんな感じで時間をつぶして焼いて食べていると、扉が開きフードを被った人物が部屋に入ってきた。

「うわ……流石青野君。全く自重してない」

「お前がシオリか?」

日本語で話される声はしっかりと俺の名前を呼んでいた。間違いなくこいつが俺を呼び出した張本人。しかし今はフラフィーが焼いてくれたホットケーキを食べるので忙しい。

「そうだけど。え、私結構シリアス展開になると見越して気合い入れてきたんだけどどういう状況? また違う女の子連れてるし」

「は?」

それに反応するのはフラフィー。ご機嫌で俺のためにホットケーキを焼いてくれて一緒に食べていたのに、女の子の下りで握っていたナイフが包丁に変わっていた。久しぶり。っていうか日本語だったんだけど聞き取れたの? なんで?

「いやまてフラフィー。俺はクロエとイリスに誓って他の女の子を侍らせたことなどないと宣言する。ほら、フラフィーはずっと一緒にいたから知ってるだろ」

「結構のけ者にされてましたけどね」

俺の誓いに説得力を感じたのかフラフィーの包丁はナイフに戻っていた。もうそれ特殊能力の類だろ。いい加減武器として使って戦ってみて欲しいよほんと。

「それでシオリとやら、なんで俺の名前を知っているんだ?」

フラフィーも会話に混ざるべきなのでこっちの世界の言葉で問いかける。

「それは直接聞いたからだよ。君から」

シオリはそこでフードを取り俺達にはっきりと顔を見せてくる。黒い髪、長さは肩口より少し下まで伸びている。その人物の顔を忘れたことは一度もなかった。

一時期共に第三グループに所属しその特殊な能力で第一グループに入れられ、その後王都から出て討伐対象になっていたはずの十三番だった。

十三番の能力は全ての魔法を無効化するというもの。そしてクロエとイリスを捕まえた張本人でもある。

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