呪いで常識を失ったのでロリと旅に出る

こが

第156話 一度はふっきれた

このままアジトに引きこもっていても仕方がないので俺達は徒歩でケイブロットの街に戻ることにした。足取りは非常に重く、二人での会話は全くなかった。それにケイブロットでは俺達に良くしてくれた人たちも多い。

どんな顔してロンドの連中に会えばいいのか。宿屋兼食堂の看板娘のティティも俺たちの事を気にかけてくれていた。ほんの半月程度しか経っていないというのにこの変化は相当驚かせてしまうだろう。

ちょっと冒険してくるわ、と言ったらこの体たらく。

馬車で小一時間の距離だったが俺達の重い足取りでは数時間かかった。昼過ぎからもう夕方を超えて夜に差し掛かっている時間だが、街の襲撃はどうなっただろうか。

無事なわけないよな。考えるのはよそう。

時間的に食堂も宿屋も混んでいる時間、とりあえず前に使っていた宿屋に向かう。ティティの父親と思われるおっさんに挨拶をすると驚かれた。

「これはこれは幼女好きのお客さん、お久しぶりです。戻ってこられたのですか?」

「ああ。二人部屋で頼む」

「二人……? いえ、詮索はしません。ごゆっくりどうぞ」

前回は四人部屋と一人部屋を借りていた事、パーティメンバーが五人以上いたことを教えている。それなのに二人部屋。俺とフラフィーの表情から何かを察したのかそれ以上の詮索はされなかった。

きっと冒険者や探索者が死ぬのを見るのは日常茶飯事なのだろう。宿屋には最初人数分で部屋を取り、気づいたらどんどん減っていくなんてありふれた事だろうから。

「どうしましょうか……これから」

「どうしような……」

部屋に入ると俺達はどちらともなくこれからどうするかを考え始めていた。正直もう無理だ。勇者の呪いを解くことも出来ない、あんな魔王軍と戦う強さも無ければ前衛職の二人だけ。

「とりあえず、ギルドに行ってモンペリエであったことを話してくるよ。フラフィーも一緒に行こう」

「は、はい」

自然にフラフィーに手を伸ばし一緒に宿屋を出る。そう言えばこの街を歩くときはいつもクロエとイリスと手をつないでいたなとか思い出すと目頭が熱くなる。だめだな、今は目的の事だけを考えないと。

先に向かったのは冒険者ギルドだ。探索者ギルドはダンジョン特化な感じになっているため他の街の報告をするなら冒険者ギルドの方が適切だろうという判断だ。

「こんにちは、半月ほど前護衛依頼を受けてモンペリエまでいった者です」

「冒険者ギルドへようこそ。ええと、キミヒト様ですね。どういった御用でしょうか?」

各街での連携が取れていないのか、こちらまではまだ連絡が来ていないようだ。それもそうか、襲われたのは今日、数時間前とはいえついさっきだ。

「モンペリエまで行ったんですが、そこが今魔物討伐で活発になってる話は知っていますか?」

「はい、聞いております。魔王が活動を始めたらしく大陸に向かってくる魔物、大陸にいる魔物が人々の町を襲い始めている現象が起きています。それが何かありましたか?」

そうか、そこまでの話は来ているのか。つまり兆候としてはかなり前からあったとみて間違いないだろう。だからこそユウキがあの街に向かったのだろうし多くの冒険者がいた。

この街から向かうものはほとんどいなかったみたいだし、俺達が向かったのもかなりの偶然が重なった結果だ。他にも戦いに行く冒険者がいたのなら俺達と一緒に行っただろうからな。

ということで俺はモンペリエがほぼ陥落状態になった事をギルドの人に伝える。

「なるほど。それが本当であればかなりの事態になりますね……。わかりました、情報提供ありがとうございます。これから確認を取って周知させていただきます」

ギルドの人はそのまま奥へ引っ込んでどこかに連絡を取り始めたので俺達はギルドを後にする。今度は探索者ギルドに向かう事にしたのだが、そこでロンドの連中に出会ってしまう。

「おおキミヒトじゃないか」

「元気してたか? 俺達は一個ダンジョン攻略してきたぜ?」

「男の子は一人じゃ済まないが」

三人はいつものように楽しげに話しかけてくるが、どうもその冗談に付き合う気持ちになることは出来ない。全く冗談でもなんでもないし事実だとは思うがこいつらはようわからん。

ただ一つ言えることはあかねの死をしっかりと伝えておかなければならないという点だ。せっかく仲良くなって同じ志を持つ珍しい相手だったというのに、俺は本当にこいつらに会わせる顔がない。

「どうしたキミヒト」

「何かあったみたいだな」

「話を聞いてやるぜ、酒は必要か?」

俺とフラフィー、たった二人だけの状況を見て察してくれたのだろう。いつもの近すぎる距離感ではなく気遣うような絶妙な距離感で俺達に優しく声をかけてくれる。

その気遣いだけで涙が出そうになるが我慢して告げる。

「酒は、いらない。お前たちにはしっかりとした状態で話したいからな」

「おう、場所変えるか」

「なら家にこいよ、二人くらい余裕だ」

「深刻そうだしな」

そういやこいつら家持ちだったな。あかねから聞いていたが結構大きい家らしい。それこそまさに男性冒険者の五人パーティくらいなら平気で呼べるくらいのサイズの。

なんでそんな大きな家を買ったのかは明らかにお察しだが、その話をしていた時のあかねはとても楽しそうだった。自分の趣味を全開にして問題ない、さらには役立てる事すら可能な良いパーティだったと。

これから俺はそこに呼ばれていくことになる。いやこう言うとなんかそういうことするみたいで嫌だけど。

十分程度歩くと家に着いた。

「ここだ、まあはいれや」

「キミヒトには世話になったからな、くつろいで行ってくれ」

「そういえば男の冒険者をそういう目的以外で呼んだのは初めてかもしれない」

いらない情報ありがとう。こいつら見てると深刻な悩みなのかどうか感覚が麻痺してくるからかなりやばい影響を受けてるな。だからこそあかねを預けても安心だったとも言えるが。

「みなさんのおうち広いですね」

「そうだろう? 俺たちの数年の冒険資金全部突っ込んだからな! と言っても一気に稼いだのは最近だが! 猫ちゃんも将来キミヒトと一緒に同じ家に住むだろうし良いとこ紹介するぜ?」

獣人のフラフィーは自分たちの村にいた時は大人数で住んでいたらしい。周囲の警戒や人間などに狙われる危険性もあり固まって行動することが常だったようで、個人的な家を持つことはあまり興味がなかったらしい。

個人の部屋としては宿屋を使うことには慣れていたが、こういった家を持つことに憧れを持つような生き方をしていなかったようだ。そのためロンドの提案に慌て始める。

「え!? いえ、あのー、その時はお願いします」

「そうだな、そん時は頼むわ」

「キミヒトさん!?」

俺はそれに便乗する。言われてみれば俺は家を買おうとしていたし今はもうたった二人しかいない。旅を続ける意味もないのならばどこかに腰を落ち着けてフラフィーと二人で一緒に暮らすのも悪くないかもしれない。

そんな気持ちを込めて言ってみたがなんかフラフィーは顔を赤くしている。そういう意味で言ったわけじゃ……いやそういう意味でも良いか。

「なんだキミヒト、まんざらでもない感じか」

「そうだな。俺にとってフラフィーは必要な存在だからな。ずっと一緒にいようって意味も込めて二人だけの家を持つのも悪くないと思ったわ」

「じゃあ今から行くか」

「行きません行きません!」

立ち上がりかけた俺達をフラフィーが静止する。静止したところでまじでそのうち行くけどな。たぶん。だって俺はもう戦うのなんか嫌だしフラフィーを失うのはもっと嫌だから。

探索者としてもう一度浅い階層で生計を立てたりこのロンドのパーティと一緒に冒険をしてみるのも悪くないかもしれない。バランス的に偏りがひどいからあまり好ましくはないかもしれないが。

そんな感じで雑談を交えながら現実逃避することしばし、俺はついにあかねが死んでしまったことをみんなに伝えた。

みんなの反応は驚くでもなく、俺を攻めるわけでもなく、ただ黙ってじっと俺の話を聞くだけだった。

「あかねは、俺達と一緒にいるときキミヒトの話ばっかりだったよ」

「応援してたんだけどな、俺達も。そうか、同志が減るのは悲しいものだな」

「キミヒトに看取られたんだ、行方不明でないなら最悪ではないだろう」

こんな感じでみんなは平然とあかねの死を受け入れた。こいつらも歴戦の探索者、人の死には慣れていたのかもしれない。一度はふっきれたものの、クロエとイリスも立て続けにいなくなったこの状況で俺はもう一度思い出してしまっていた。

やっぱ受け入れるなんて無理な話だったんだよ。死を乗り越えてそれでも戦い続けるって言うのは常人ではないんじゃないかと思ってしまう。強いよ、この世界の人間たちは。

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