呪いで常識を失ったのでロリと旅に出る

こが

第154話 出来上がったのは

俺はフラフィーをおんぶして運んでいた。スキルを乗せるためにはこのぐらいの密着が必要ということなのでどうしようもない。場合が場合なのでロマンチックの欠片もないのが悲しい所だ。

というかマジで役に立つレベルのスキルじゃないな『効果範囲増』は。密着っていくらなんでも狭すぎるだろ。効果範囲微増に改名しろ。

ステルスで見えなくして気配を消しているとはいえ敵の数はかなり多い。出来る限り息を殺し会話もせずに黙々と街の中心部へと向かっていく。途中で戦っている冒険者たちもいるがどこも劣勢。

たまに優勢で戦っている所もあるが他の所に助けに行くほど余裕がある感じでもない。

このままではまもなくこの街は落ちるだろう。

「くそ……勇者パーティはどこ行っちまったんだよ!」

「いなくなった途端にこの大惨事だ、逃げたというよりも居なくなったところを狙われたんじゃねえのか!?」

いつか見た魚人の人たちもここで戦っていた。てっきり漁師か何かだと思っていたが冒険者だったのか。その槍さばきは見事なもので、この二人は魔物相手に引けを取っていなかった。

「助けたいのはわかるが、今はだめだ。行くぞ」

「……はい」

引けを取ってはいないと言っても多勢に無勢、今いる魔物を片付けてもきっとあとから押し寄せてくるだろう。ここに来るまでにやられている冒険者たちの分も合わせるととてもじゃないが間に合わない。

クロエはどうやってここを突っ切っていったのだろうか。

そんなことを考えていると上から何かが降ってきて俺たちの横を通り過ぎていく。民家の壁にぶつかったそれはそのまま壁を破壊し瓦礫の山を築きあげる。

「うぅ……まだ、まだやれる」

ガラガラと音を立てて瓦礫の中から立ち上がってそれはイリスだった。その姿は先ほど見た時より明らかに疲弊していて、髪がぼさぼさになり色は赤に変化していた。

「イリス! その怪我……ちょっと待ってろ」

俺はフラフィーを降ろしイリスに駆け寄りながら収納から回復ポーションを渡す。何もないところから現れたように見える俺達にイリスはちょっと驚いたようにしていたが、何かを悟ったように弱弱しくうなずいた。

「ありがとうキミヒト。あと……ごめん、お姉ちゃん、捕まった」

フラフィーがイリスに肩を貸して何とか立ち上がらせると、イリスはクロエの居場所を教えてくれた。その場所は俺たちの望んだものではなかったが。

「捕まった……?」

クロエを捕まえようとしている者。それはどういう存在だったか。

「弱いな、精霊人」

俺たちが話していると空から明らかに人外であり魔人か何かですという風貌の人物がやってきた。鑑定がはじかれるところを見ると明らかに格上、そしてその体から放たれる圧力は立ち向かおうという気力すら奪ってくる。

実際に俺はそいつから目が離せないし、フラフィーはイリスに肩を貸したまま固まっている。

「うるさい。お姉ちゃんを返せ」

イリスは表情に怒りを表しその魔人をにらみつける。どうやらこの魔人とやらがクロエをさらった人物、もしくはかかわりのある人物なのだろう。

クロエを捕まえようとしていたのは魔王。もしくはリーベンの奴隷商だが流石にそれは無理がある。それならこいつは魔王の関係者か何かなのだろう。これが手下だったら魔王本人はどれだけやばいのか。

「ふん、威勢がいいな。だがそれもどこまで持つか。……邪魔だ人間」

「ぐはっ!」

イリスをかばうように立ちはだかってはみたものの一撃で吹き飛ばされる。そのまま壁を壊して家の外まで飛ばされてしまった。

「……最近の敵つええ」

ショウもユウキもこいつも、どいつもこいつもやたらと強い。圧倒的なステータスの差がここまでだと正直絶望感しか感じない。

だからと言ってここで逃げる選択肢はない。

魔人はこっちを見向きもせずイリスとフラフィーに襲い掛かろうとしている。ボロボロになっている体をなんとか起こし、ステルスと気配遮断を使い魔人との距離を一気に詰める。

「ほう、まだ生きていたか。中々頑丈な人間だな」

魔人は見えず気配もほとんどない俺の方を向いて少し関心したような声を出してくる。不意打ちを仕掛けようとしたがそれはどうやら出来ないようだ。俺の気配遮断が完璧じゃないか、こいつの勘が良すぎるかのどっちかだがその辺りはもうどうしようもない。

「耐久だけが売りなんで」

だがここまでくれば俺の間合い、剣を取りだし思い切り振るう。相手にとって受けやすく、かなりのろまな攻撃に見えるだろう。しかし俺の透過であれば意表を突くことは出来るはず。

少し警戒してくれれば逃げる算段もつけられるはずだ。

俺の思惑通り魔人は攻撃を受けようとしていたが、途端に一気に距離を放す。

感づかれた?

「妙な魔法を使うな人間。……いや、その黒髪と黒目、まさか異世界の勇者か? ……にしては弱い。強い相手と戦えると思って期待していたんだがな」

一瞬嬉しそうな顔をしたがすぐに真顔に戻り愚痴をこぼし、俺に失望したかのような視線を向けてゆっくりと歩き出す。そして姿が消えたかのように錯覚するほどの超スピードでの移動。

相手の体がぶれたと感じた瞬間、俺は透過を発動させる。一瞬だけ見えた攻撃モーションは下からねじり上げるようなアッパースイング。

完全に捉えたと確信していた魔人は手ごたえのなさに一瞬動きが止まる。その体の位置に剣を重ね剣だけ透過を解除する。確実に魔人の身体を捉えた剣はしかし、思った結果にはならなかった。

「なっ!?」

「なるほど、面白い芸当だな。だがそんな程度ではわざわざ食らってやるほどの物でもなかったな」

二つのものを合わせて透過させた場合、基本的には硬いほうは原型を留め負けたほうは壊れる。魔人と言えど内臓なら鉄よりは柔らかいと思ったがそんなことはなく剣の方が砕け散った。

中に残ったであろう剣すらも気にした様子もない。無敵かよ。イリスを圧倒しているところと言いこの世界の住人では太刀打ちできなさそうな予感しかない。

勇者の力ならこいつに匹敵するのだろうか。凄く嫌な感じだが、こいつとユウキならもしかしたらいい勝負をしたのかもしれない。

「だが透過とは鬱陶しいな。ならばこちらの二人から片付けるか」

「やめろ!」

魔人は俺から視線を外しイリスとフラフィーを見る。そしてまた体がぶれたと思うと俺の叫びも空しくイリスもフラフィーもまとめて吹き飛ばされる。

フラフィーには盾を返していたが、その盾の防御を文字通り突き破っていた。この世界で二番目に硬いと言われるアダマンタイトを貫くそのパワー。そんな力で殴られたらどうなるか。

出来上がったのは、ぐったりと動かなくなった二人の少女だった。

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