呪いで常識を失ったのでロリと旅に出る

こが

第66話 事情

「どこでだ……」

体の中からどす黒い感情が発生しているのがわかる。こんな暗い鬱屈とした感情が自分の中に存在したことに驚く。

「イリス! フラフィーはどこでさらわれた!」

「こっち、来て!」

「私も行くわ」

立ち上がり外にそのままかけだしたくなったが、俺は収納から金貨を取り出しティティに投げて渡す。今はそれどころじゃないが店に迷惑をかけるのはだめだと理性がささやく。

「キミヒトさん! おつりは!」

「好きにしろ!」

ティティの声に叫び返してイリスとクロエと外に駆け出していく。走っていくこと数分、宿屋からそれなりの距離があり人もほとんどいない場所だった。

「イリス、説明してくれ。俺は探しながら聞く」

俺は透視を全開にして集中する。どこだ、どこにいるんだ。まだ近くにいてくれ。頼む、見つかってくれ。

「フラフィーは、私の代わりに連れて行かれた……ごめんなさい」

「謝るのはいい、理由はわかるのか?」

興奮が収まらず、かなりの広範囲にかけて透視を行っているが見つかる気配すらない。そもそも俺の透視の精度はそこまで高くないと言うのはあるが、それでも結構な距離を見渡せる。

「あいつ……たぶん魔族」

「イリス、それって……」

「うん、たぶんまた」

俺の透視ではどうやっても見つけられそうにない。フラフィーを無力化し、イリスにダメージを負わせるような手練れが近くに潜むわけもない。

恐ろしいほどの怒りはまだ残っているが、少し冷静さが戻ってきていた。

「またっていうのはどういうことだ」

「うん、話す」

見つからない焦りを抱えながらその場に突っ立っていても仕方がない。みんなに聞きまわってから一度落ち着けるために宿屋に戻ろうという話になった。

しかしここで何もできず帰るというのは辛い。なにか情報はないだろうか。それも広範囲で人の行動を知ることが出来るような。

怪しい人影をみたとかそういう情報が欲しい。この辺りには人はいないためどこかに移動したときに見られていてもおかしくない。

何か……あ。

「あかねがいる」

そうだ、あかねなら街中から声を拾えるって言っていた。今はたしかダンジョンの中にロンドのメンバーと共にいるはずだ。すまないが呼び出しをさせてもらおう。

俺は魔石を取り出しあかねを呼び出す。数秒の明滅のあとあかねの声が聴こえてくる。

「どったのキミヒト君。私がいなくなって寂しい?」

ああ寂しいよ。おかげでフラフィーの手掛かりを探す時間が増えてしまうほどだ。あかねを引き留めていればよかったと本気で思う。

「フラフィーがさらわれた。探すのを手伝ってくれ」

「え? あの猫の? わかったすぐ行くけどちょっと時間かかるかもしれない。あの宿屋だよね? 待ってて。みんなー」

というところであかねの通信は終わった。どうやら協力してくれるようだ。良かった。あかねの力があればこの広い街の中でも情報を手に入れるのは簡単だろう。

あかねが戻ってくる前にギルドや鍛冶屋を回りフラフィーがさらわれたことを伝えていく。俺たちは結構知られていたためみんな快く協力してくれることになった。

「それじゃあ、聞こうか」

宿屋に戻り二人から心当たりを聞くことにした。二人は深刻そうな顔で、クロエが魔法をぶっぱなした時のような雰囲気だった。

「私の親がヴァンパイアだって話はしたわよね」

「ああ、エルフとヴァンパイアが親だって聞いたな。それが関係あるのか」

そしてクロエはぽつぽつとその事情を語り始めた。

魔王は今人間を支配するために力をつけようとしていること。それによりいくつかの人間の街を襲い手中に収めていること。

そのため人間たちは、主に王城の連中や大きな街、このケイブロットも含めて魔族に対抗するために力を蓄えている。

これは今まで知っていたことだが、そこからさらに話は進んで行った。

「魔王も一枚岩じゃないの」

魔王の手勢は数多くの魔族たちで、基本的には人道的な行いはせず残虐非道な者が多い。そのため人間たちも魔族に対し一切容赦をしないように訴えている。

獣人差別やエルフの差別はこのあたりからきているようで、人間至上主義からは人として認められず、魔族たちからは人間に寄り添う裏切り者とされている。

しかし魔族の中にも無暗に人を傷つけるだけじゃなく、対話が可能な個体もいる。それは知性が高く、平和を愛してもいるようだった。そのため魔王とは対立し、魔族から命を狙われていた。

クロエの父親のヴァンパイアはそんな一人だったらしい。人間とも協力出来ない彼は、森で魔物に襲われているエルフの女性を気まぐれに助けたら惚れられ、子どもが出来るほど二人は愛し合うことになった。

二人はエルフにも魔族にもばれないように暮らしていたが、いつしかばれてしまい父親に魔族の追手が来るようになった。そして父親は母親とクロエを里に返し、自分は魔族と戦って敵を遠ざけることにしたらしい。

そして父親は非常に強かった。知性が高いため魔法の威力も強く、並みの魔族では太刀打ちできないほど強力だった。

そこで魔王は考えた。これほど強いなら手中に収めて侵略を手伝わせようと。そして手綱を握るなら人質を使えばいいと。

父親がいなくなっている間、クロエの母親は里の精霊に見初められ、新たな生命をその身に宿していた。エルフは閉鎖的だったが、母親の誰でも愛する姿勢に精霊は惹かれたらしい。そしてイリスが生まれた。

しかし精霊に気に入られその力を体に宿した影響で母親はほどなくして亡くなった。そして二人はなんとか生き続けていたが、里がなくなり逃げているところを魔族に補足され狙われるようになった。

人間からも魔族からも襲われるようになったらそら魅了の力でごりおす選択肢しかなくなるわな。強いの来たらぶっぱするしかないだろうし。

「狙われているって言うのはそういうことか」

「ええ、こんなに早く追手が来るとは思わなかったの。フラフィーがさらわれたのは私のせいでもある。ごめんなさい」

クロエが頭を下げてくるがクロエのせいじゃないだろう。魔族が思った以上に腐っているというかそれが正しい姿なのだろうが、本物の悪だわ。

魔王が魔王らしくて逆にビビるわ。

しかしこの話を聞くと王城はそこまでひどい連中じゃない可能性もあるな。自分たちの国を守るっていう立場からするとだが。

召喚された俺達をゴミのように扱っていたのは兵士達だけだった。そもそも王女しか見てないし、すぐさまどこかに行ってしまった。責任を果たさないと言う点ではだめだろうが、民を想う気持ちはあるのかもしれない。

じゃなきゃあんなに王都が平和なわけないもんな。

魔王へのヘイトが高すぎて王都を擁護してしまうぜ。擁護する必要なんて全くないと言うのにだ。

いや待て。クロエとイリスを捕まえるために勇者を派遣していたな? 大悪党じゃねえか。王城は魔王とつながりが……? いやでも勇者で魔王絶対殺すという気持ちは確かにあった。

つながりがあったとは思えない。もしそうなら俺達にも何かしらそういう情報を埋め込むだろう。じゃなければ本当に討伐した場合報復があるだろうし。

いや今はそんなことどうでもいいか。今はフラフィーを助けることを考えるんだ。

「じゃあイリス、どうしてフラフィーはさらわれた?」

「私を、かばって……」

「そうなるよな……」

フラフィーの事だ。イリスがさらわれそうになった時に身代わりにでもなったんだろうな。いつしかイリスが冗談で言っていたことが現実になってしまったな。

しかしフラフィーが目当てでないならクロエ達をおびき出すエサにでもするつもりか? わからん。

「私、謝らなきゃ……」

「そうだな。だが今は準備だ」

状況はだいぶ飲みこめた。フラフィーを助ける。そして魔王の手下どもをぶち殺す。

俺は決意を固め準備を始めた。

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