パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

第55話指名依頼ですか?

「指名依頼……ですか?」

 ハルトは思わず首をひねった。
 受注者が特定の冒険者を指名する依頼を、そのまんまに指名依頼と呼ぶことは知っていた。しかし、まさか自分たちに来るとは思ってもいなかったので、何かの間違いではないかと思ったが、どうやら本当に来ているらしい。
 指名依頼は通常よりも報酬が多くなる。もちろん、受けるか受けないかは指名された冒険者次第ではあるが、そもそも指名依頼など、ライズさんたちクラスにならない限り、滅多に入らない。

「はい。現在、ハルトさんのパーティーには王国より、直々に指名依頼が入っております」

「……王国って、それはもはや勅命じゃないですか! えっ、どうして……?」

「どうしてと言われましても……。でも、お気持ちはお察ししますが、流石に断れないですよねぇ」

 普段は公平を保っている職員の受付嬢も、この依頼者に関しては苦笑いだ。

「う、受けます……」

 どうしてこうなってしまったんだか。もはや、メンバーの意見を聞くことすら意味をなさない。断れば、反逆罪とかで牢獄行きだろう。

「それでは依頼内容の確認をご一緒にお願いします。依頼内容は、とある魔剣士の育成。冒険者の基礎から、魔物との戦い方など、となっております。ちなみにこの魔剣士の冒険者さん……? は、訳あって当日までは名前や素性の公表はできないようです」

「えっ、と。すごく怪しいんですけど……」

 素性が明かせない冒険者の育成? 何か、すごく裏があるような気がする。

「期間は約四週間。報酬は一千五百万ガロです」

「い、一千五百……!? A級クエスト並みじゃないですか!」

 一千五百万ガロなんて大金、正直目にしたこともないし、今後する予定もなかったのだが。非現実的すぎる金額に卒倒しそうになる。
 もはやだいぶ前の話になる、ドキッ! 真夏のスライム大繁殖で金色のスライムジェネラルを倒した時でさえ一千万ガロであった。それ以上となると、今度は本当に貴族レベルの屋敷が建てることができてしまう。

 ……建てないけどね。流石に。

 半分放心状態になりながら、後日例の魔剣士がこの街に到着する趣旨を聞き届け、ギルドを後にした。

 その晩、少し気分も落ち着いたところで三人に指名依頼のことを掻い摘んで話した。

「――報酬は一千五百万ガロらしい。……うん、みんなそうなるよね、わかる」

 マナツ、モミジ、ユキオは三人揃って仲良く口を半開きにしたまま固まった。

 沈黙を破り、一番最初に口を開いたのはユキオだった。

「や、やば、やば――」
「うん、やばいだよね。知ってる」

「しゅ、しゅご――」
「しゅごいはやめとけよ。なんか、こっちが恥ずかしい。っていうかデジャブだな、これ……」

 極度にテンパると、キャラが変わるのはどうにかならないのだろうか。

「落ち着きなよ、二人とも。問題は報酬なんかじゃない。私たちはお金には困っていないんだから。本当の問題は……」

 珍しくマナツが騒いでいない。マナツが大人になろうとしていることに大きな頼りがいと、嬉しさが込み上げて来る。

「問題は?」

「――イケメンか、どうか!」
「ちげーよ! 返せよ俺の純粋な心! つかお前、男嫌いだろ!」

「嫌いよ! どいつもこいつも、可愛い子とか大きな乳見れば鼻の下伸ばしちゃってさ! 真のイケメンはそんな野蛮な人種じゃないはずよ。たぶん」

 もうだめだ。意味がわからん。

 ひとまず、三人が落ち着くまで待ち、話題に入る。

「おそらく、この魔剣士は全くのど素人で、王国からすれば大金を積んででも強くした人物ってことだ」

「でも、魔剣士をわざわざ育てる? 言っちゃなんだけど、魔剣士は弱いじゃん」

 確かにマナツの疑問はもっともだ。王国が屈強な冒険者を育てるのであれば、不遇職である魔剣士はまず除外されるはずだ。それでも、なお大金を積んで来るということは、何か大きな裏があるようで気が収まらない。

「もしかして、貴族の人とか?」

「ユキオのそれも考えたけど、だとすれば王国が依頼主になることは考えづらい」

「もしかして、今噂になってる異世界人……とか?」

「えっ……。あ、それ……かも。っていうかそれだ!」

 そういえば一週間ほど前から、異世界人が召喚されたという情報がどこからか出回っていた。最初は皆、でまかせと決めつけていたが、情報は次から次へと出回り、今では有力な話とされている。

 ちなみに召喚された人数は四人。名前はユリウス、アビト、シェリー、ヌイ。職業に関する情報はたくさん出ており、いまだに確証を持ったネタはないようだ。異世界人は王から勇者の称号を与えられ、将来的には魔王を討ち倒すように育成をしていると聞く。

「確かに異世界人なら、王国が大事に扱うのも、基礎から教えてくれっていう依頼もわからなくないわね」

「い、異世界人って言葉通じるのかな……。僕、他の世界の言葉なんて話せないよ?」

「それはみんなそうだろ。誰も異世界なんて言ったことないんだから」

 確信はない。でも、もし異世界人に冒険者としての知識を教え込む依頼だとしたら、責任は重大だ。
 まずはノルマとして魔物と戦えるようにする必要がある。これに関しては魔剣士という不遇職を踏まえると、かなり難しい。そして、何よりどんなことがあっても護らなければいけない。将来的には魔王を倒してしまうかもしれない人物が、依頼先で命を落とした、もしくは重傷を負って使い物にならなくなりましたともなれば、これまた反逆罪になりかねない。

 金額に心を持って行かれたが、もしかしたら相当面倒なクエストになる予感がする。
 一度、不安の種が蒔かれると、種は一気に成長して大きくなる。

 その日、ハルトは眠れない夜を過ごすことになった。

 そして三日後、ついに異世界人がハルトたちの前に姿を表したのである。

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