第80話　王都に戻ってきました

そこからも、馬車は順調に進んで行く。
次の街が近くなってきた為か、道は舗装されたものに戻っていた。

日が傾き始め、辺りが暗くなりかけていた頃、行きは通り過ぎたケーテンの街に到着していた。
今日は、この街に一泊することになりそうである。

「アリーセ様、街に入ります」

いつも通りに、貴族用の門から街へと入る。
この時、辺りはすっかり暗くなってきていた。
街の明かりが点々とつき始める。

馬車は、そのまま中央街と思われる所にある、宿屋の前で停車した。
今日の宿は既に決定しているらしい。
流石は、準備がいいといった所である。

「今日は、こちらの宿に部屋を取ってありますので、ゆっくりとお休み下さい」

アリーセは、エーリヒの手を借り、馬車を降りる。

「ありがとうございますわ」

そう言うと、アリーセは宿屋の中に入り、チェックインの手続きを済ませると、鍵を受け取り、部屋を確認すると階段を上がった。
気づかないうちに疲労も溜まっていたのだろうか。
アリーセはベッドに倒れ込むと、やがて意識を手放した。


♢


翌朝、部屋の扉をノックする音で目が覚めた。
時刻は朝の8時といった所であろう。

「アリーセ様、お時間になりました」
「ありがとうございますわ」

エーリヒが扉越しに言った。
昨日、出発の時刻に起こして欲しいと伝えてあった。

「おはようございます」

いつものロングコートに袖を通すと、アリーセは部屋を出た。
そして、朝食も早々に済ませると、チェックアウトの手続きを終わらせ、宿屋を後にした。

「では、行きましょうか」
「かしこまりました」

宿屋を出ると、そこには馬車が停車していた。
エーリヒの手を借り、馬車へと乗りこむ。
ここからなら、後半日もかからないであろう。

「出発します」

エーリヒが言うと、馬車はゆっくりと進み始めた。
貴族用の門から街を出ると、どんとん進んで行く。
これなら、少し早く王都に戻れるかもしれない。


♢


そこから、3時間ほど馬車を走らせただろうか。
王都が見える位置にまで近づいていた。

「アリーセ様、もうすぐ王都に到着いたします」
「分かりましたわ」

少し走ると、馬車はゆっくりと停車した。
流石は王都に入る列である。
貴族用の門にも行列ができていた。

「これですと、少しかかるかもしれません」

エーリヒが御者台の方から声を掛けてきた。

「そうですわね」

いくら、上級貴族の後ろ盾があろうと、こればっかりはどうしようもない。
王都も、入るには身分証に提示が求められる様子であった。

並ぶこと10分と少しが経過した頃、アリーセたちの順番が回ってきた。

「失礼致します。その家紋はメールス王国侯爵家の家紋とお見受け致しますが、念のため身分証の提示をお願い致します」

門番が、御者台に座るエーリヒに向かって言った。