私が「彼女」であった頃

椋畏泪

マサちゃんと出会ったのは、私が二十歳を迎えた時の飲み会でだった。友人数人で成人式の二次会へ行った時に、偶然隣のグループにいたマサちゃんと酔った勢いで会話が弾み、意気投合したことが始まりだ。その時にお酒の勢いで連絡先を交換して、翌日二日酔いで目覚めて携帯を確認して、彼からまた食事でも行きたいと言うメールが届いていたことから交流が始まった。これが、私の人生で最も長い恋人づきあいになると、その時は思っていなかったが、振り返ってみると自分でもよく続いたほうだと思う。
私たちは、数回のデートや食事を重ねて、恋人関係となった。別段、彼のどこに惹かれたかと言うのは今となってはよく覚えていないが、二人でいて居心地が良かったのは確かだ。彼はいつも、私に好きだと言ってくれたし、私も彼のそんなところに安心感を感じていたのだと思う。そこは今の旦那とは違うところなので、マサちゃんはマサちゃんで、今頃幸せな家庭を築いていることだろう。食事の時には必ず「いただきます」や「ごちそうさまでした」と言う様子が可愛らしかったのは、今でも鮮明に覚えている。一緒に行った遊園地で買ったポップコーンにも「いただきます」と言っていた様子を見て、私が思わず吹き出してしまうと、彼はバツが悪そうに「癖なんだよ」と照れ笑いを浮かべていたことも、付随して思い出す。そういえば、夫とは遊園地へ行ったことはない。息子が今よりも幼かった時にも、水族館や動物園へ行ったのがせいぜいなので、もしかすると夫は遊園地という場所が好きではないのかもしれない。真面目で、知的な夫は、結婚生活を重ねてもその様子が崩れるようなことはないが、唯一映画を観た後に私と感想を話す時の子供のような嬉しそうな表情を見ると、この世界にたった二人しかいないのではないかと言う錯覚に陥るほどに引き込まれることがある。マサちゃんに対しては恋をしていたが、今の夫に対しては愛を抱いているのだと、なんとなく納得した。

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