悪役令嬢をすくい散らかす、日本の高校生に転生した最強神!

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72話 ここは幾億の夜を超えてたどり着いた場所。


 72話 ここは幾億の夜を超えてたどり着いた場所。

 ヒョロガリは、
 自分の胸に手をあてて、

「――悪鬼羅刹は表裏一体」

 脈絡なく、言葉を紡ぎ出す。
 一瞬、世界から音が消えた気がした。

 ポエマーとしての自分をさらけ出すヒョロガリ。
 ポエマリだしたのは、そのヒョロガリだけではない。
 この場にいる全員が、声をそろえて、

「「~「俺は独り、無間地獄に立ち尽くす」~」」

 言葉がビリビリとした質量を持つ。
 蒼く帯電する気血。
 充血するほどに碧く、冷徹なほど鋭く澄んでいく。

「「~「きっと、ここは幾億(いくおく)の夜を越えて辿り着いた場所」~」」

 周囲で、幾何(きか)が耀きだす。
 溢れ出る、超位のエナジー。
 その螺旋。

「「~「さぁ、詠おう、詠おうじゃないか」~」」

 超次元のジオメトリが、
 書き殴られた神字の鎖で繋がって、

「「~「歪な軌跡を残す廃人の詩を、たゆたう血に穢れた杯を献じながら」~」」

 高雅(こうが)に嗤(わら)う、非局所性のワルツ。
 再現性のない運命のイタズラ。
 おびただしい質量を伴う影だけが、
 今日も、明日と繋がっていく。

 命脈を保つ屁理屈だけが、
 世界の裏側に傷跡をのこす。

 両天秤の烙印(らくいん)。
 懇篤(こんとく)な運命の指導手。


 ―――そこで、ヒョロガリは、天を仰いで、


「……たった一つの希望……本当は、最初から分かっていた。けど、感情論の火加減は自力じゃどうしようもなかった……俺の死に花は、つぼみのままに枯れた。けど、だからこそできることもある。……失いたくなかったもの……無くしたくなかったもの……全部、まとめて、一つに出来る」

 言葉の一つ一つが形となって、命の全てを包み込む。


「――淡く輝く愛の結晶。いと美しき、月光の携帯ドラゴン、起動――」


 ホロホロと、ユラユラと、優しい粒子たちが、
 『ヒョロガリの想い』に寄り添っていく。

 どうしようもない鬱積(うっせき)が、
 『ヘドの出る醜さ』そのままに、
 形だけを変貌させていく。

 みっともなくて、無様で、
 けど、どこかで、確かに、
 美しいと思ってしまった。

 瀟洒ではなかった。
 絢爛でも、
 清楚でも、
 端麗でも、
 優美でもない。

 まるで、月の対比として有名な、泥の中をはい回る鈍重な亀みたい。
 だからこそ強く焦がれるのかもしれない、
 なんて、そんなことを思いながら。

「……きゅい」

 顕現した二頭身の小さな龍は、
 ヒョロガリのポエマーに視線を向ける。

 何か言いたそうな顔をしている龍に、
 ヒョロガリは、涼やかな視線を向けて、

「この男になら託せる。他のやつには、絶対に譲りたくないこの想いも……センエースになら……つなげることができる」

「きゅい」

「ずっと見てきた。だから、もう疑えない。凄い男だ。俺なら折れていた。ここにいる誰も、センエースには敵わない。異論はないはずだ」

 ゆっくりと、言葉を繋いでいく。
 そこにどんな意味があるのか、
 そんなことはどうでもよかった。

 センエースの中心に、
 ヒョロガリの言葉が、
 じんわりと滲んでいく。

 ヒョロガリは、
 センの胸に手をあてて、
 一度、ゆっくりと目を閉じてから、
 深呼吸を挟んで、


「――たくしたぞ」


 その言葉を最後に、
 この空間の全てが、
 センエースに注がれていく。

 一致していく。
 調和していく。


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