悪役令嬢をすくい散らかす、日本の高校生に転生した最強神!
29話 病的な高潔。
29話 病的な高潔。
「無邪気に、『純粋な今』を楽しむ覚悟を決めれば、少しはラクになれるというのに。貴様は、あまりにも、無駄なことを考えすぎる」
「……そうだな。その意見には反論の余地がない。しかし、反論できないだけで、反発できないワケではない。だから、俺は変わらない。何を言われたところで、ここに関しては、反省も改心もしない。俺は俺のままで在り続ける。しんどいけれど、それしか道はない」
「厄介な話だ」
「……本当になぁ……これまでの人生で、幾度となく思ってきたことだが……もっと普通の人間で生まれてきたかったよ。なんで、こんなウザすぎる性根を抱えて生きないといけないんだ。辛すぎる。ほんと、勘弁してほしい」
などと、つぶやいていると、
そこで、ガチャっと扉が開いて、
「……親衛隊の一人が、迷惑をかけてしまったこと、心からお詫びするわ」
そう言いながら、紅院が、センの隣まで近づいてきて、
「あなたに迷惑はかけないように、と通達は出しておいたのだけれど……」
心から申し訳なさそうな顔で、
そんなことを言ってくる彼女に、
センは、
「迷惑とは思ってねぇ。おかげで、少しだけとはいえ、独りの時間を確保できた。むしろ、感謝している」
「……彼の処遇に関しては、あなたに一任すると言われている。煮るなり焼くなり好きにしてくれていい」
「人の話聞いてた? 感謝してるっつってんだよ。お前は、感謝している相手を煮て焼いて食うか?」
「食事をするとき、私は、常に、糧となってくれた命に感謝しているわ」
「……良い子だな。褒めてあげよう。ただ、『まったくベクトルがことなる話をしている』ということを理解しようか」
タメ息まじりに、そうつぶやいてから、
「俺に一任すると決めたのなら、あいつには何もするな。もし、俺があいつと同じ立場になったら、きっと同じことを……あ、いや……流石に、出刃を振り回して暴れることはないと思うが……まあ、それはともかく、同じような感情を抱いて憤慨するはずだから、気持ちは分からないでもない。だから……許すって話でもないんだが……今回は、見逃すさ。あいつが、誰に対しても、出刃を振り回すサイコなら、緊急制圧逮捕からの速攻精神病院入院のコンボを決めないといけないが……俺に対する感情は、明らかに、ただの例外だからな」
センの言葉を受けて、
紅院は、感慨深そうに目を閉じ、
ほぉと、タメ息をついてから、
「あなたは、どうして、そこまで高潔でいられるの?」
と、そんな言葉を投げかけてきた。
それに対し、センは、しんどそうな顔で、
「唐突かつ支離滅裂すぎて意味がわからん。どこから、『高潔』なんて謎のワードが飛び出してきた? そういう、構築の段階から理解できそうにない『ぶっとび謎発言』をするのは、茶柱だけの特権に収めておいてくれ。そうでないと、さすがに気がもたん」
「……」
紅院は、数秒だけ、押し黙ってから、
「あなたに……」
とつとつと、ゆっくり、口を開く。
「幾度となく救われたことを……私は、憶えている」
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