悪役令嬢をすくい散らかす、日本の高校生に転生した最強神!

閃幽零×祝@自作したセンエースの漫画版(12話以降)をBOOTHで販売中

31話 お前はお前のままでいいんだ。


 31話 お前はお前のままでいいんだ。

「他人に、オールを任せるな! 頼むからぁああ! この通りだからぁあああ!」

「大いなる力には大いなる責任が伴う。私は契約を遵守する。それこそ、私が私であるための責務」

「違う。違うんだよ、ヨグ。お前はお前のままでいいんだ。特に何もしなくとも、お前はお前であるというだけで、すでに、大きな責任を果たしているんだ。だから、もう大丈夫。さあ、右手をおろして。大丈夫、怖くない、大丈夫だから」

 必死になだめようとするものの、
 焦っているせいか、すべての言葉が薄っぺらくなっているセン。

 部分部分にフォーカスをあてれば、
 それなりに、質量のあるセンテンスたちだが、
 しかし、状況しだいでは、すさまじい軽さになってしまう。

 それが『言葉の重み』という概念の本当の意味。


「ヨグ、お前は目覚めた。くだらない運命を拒絶して、さあ、家に帰ろう。お前には、お前にふさわしい世界がある。そして、それは、こんな醜い世界じゃない」

 必死の説得を続けるセンに、
 ヨグは、

「説得で止まる絶望など存在しない。そんなものを絶望とは呼ばない。――私を止めたければ、私を殺せ。それ以外に道はない」

 あくまでも頑ななヨグの態度を受けて、
 言葉ではどうにもならないと、完全理解したセンは、
 心底からしんどそうな顔で、天を仰ぎ、


「……い、いやぁ……」


 心の痛みを口からこぼす。
 膨れ上がる絶望を全身でしめす。

「……か、勝てねぇよ……」

 ただの本音をこぼす。
 アリがガ〇ダムに勝てるわけがない。
 そんな未来を描けるほど、この世界は、『質量という概念』をシカトしない。

「あんたは強すぎる……俺では無理だ」

「ならば、世界は終わるしかない」

 そう宣言しながら、
 ヨグシャドーは、
 おごそかに、武を構えて、

「私を止めてみせろ、センエース」

 静かな構え。
 すべてのノイズが排除されていた。

 一つ一つが、驚くほど美しい。
 そんなヨグシャドーの前で、
 センは、

「……あんたを止める以外に……バッドエンドを回避する手段は……本当にないのか?」


「ない。あえて、もう一度断言しよう。ない」


「はぁ……俺の人生って、ほんと、終わってんなぁ……」

 たっぷりの諦観を込めて、
 ボソリとそうつぶやくと、
 センは、

「すぅ……はぁ……」

 一度、ゆっくりとした深呼吸をはさんで、

「仕方ねぇ」

 諦めて、覚悟を口にする。

 『なにかしらの救い』という『希望』にすがるのを『諦めて』、
 ただひたすらに、愚直に、獰猛に、自分自身の覚悟に没頭する。

「勝てるとは思ってねぇ。けど、勝てなきゃ終わるっていうなら……勝つしかねぇ。これから俺は、俺の全部で、お前を殺す。それが可能かどうかはどうでもいい。ただ、やる。最後の最後まで。選択肢を失った地獄の前で、最後の最後までもがき続けてやる」

 深呼吸に呼応して、
 センの全てが充実していく。

「降りてやらねぇ……絶対に……」

 自分自身の深部に、
 自分自身の覚悟を刻んでいく。

 冗談で場をいなしたり、
 ファントムトークでお茶を濁したり、
 そういう、緩やかな時間を置き去りにして、

 センは、

「……いくぞ、ヨグシャドー。殺してやる」

 あえて、もう一度宣言する。

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