悪役令嬢をすくい散らかす、日本の高校生に転生した最強神!
65話 全部をうしなって……
65話 全部をうしなって……
「……え……うそ……だろ……ぇ……あと……9950体も殺さないといけないの……?」
オメガ真眼蟲賢王・ウルトラインセクトを50回ほど殺したところで、
センは、自分の現実と向き合い、普通に絶望する。
「いやいや……無理だろ……」
『決意』ほど脆いものはない。
『覚悟』の維持費をナメてはいけない。
『もう無理だ』と心が立ち止まってしまうと、
再起動には、おそろしく時間がかかる。
走り続けてさえいれば、途中で、いくつか、困難に見舞われても、どうにか前に進んでいけるが、立ち止まってしまうと、すぐに、歩き方すら忘れてしまう。
「……はぁ……はぁ……無理だ……50で……もう限界……」
センエースは、今、その分岐点に立っていた。
オメガレベルの爆発的向上によって、
無駄に膨れ上がった自尊心と全能感が、
『自制心という名の駆動機関』の邪魔をしている。
『人を壊すには、5万ほどつかませてパチスロに連れていけばいい』という名言があるが、オメガレベルの爆発的上昇には、そういう意味合いでも落とし穴もある。
壊れる。
歪む。
腐る。
安い言葉だが、その毒性は恐ろしく強い。
生命をすり減らす穢れ。
骨肉を溶かす悪意。
魂魄に潜む、弱さの象徴。
一つ一つの猛毒が、センの全てを蝕んでいく。
「……もういい……もういい……もういい……ほんとうに、休みたい……もう、動けない……全部、どうでもいい……もう、ほんと、勘弁してくれ……」
弱い言葉で、自分を守ろうとする。
そんなセンを横目に、
オメガシャドーは、
「そう……それが普通。『勢いだけ』ではどうにもならない『地味』な地獄を前にした時、たいていの者は、そうして、天に『許し』をこうのだ……」
淡々と、まるで『濃密な真理』でも並べたてるように、
「センエース。たまに誤解する者もいるが……君の『中』には、普通に『弱さ』も潜んでいる。人間としての当たり前の弱さ。君は、ただの脆い人間だ」
つらつらと、紙に描かれた現実でも読み上げるように、
「そんな君が、これまで、ずっと、『それでも』と叫び続けてこられたのは、なぜだ?」
その問いかけは、答えを求めてのモノではない。
ただの純粋無垢な疑問。
運命に対するまっすぐな懐疑。
「君は脆い。君は弱い。それなのに、なぜ、君は、誰よりも強い?」
オメガシャドーの視線の先で、
センは、ふらふらしながら、
しかし、ゆっくりと立ち上がった。
ブチブチと、己の運命に対して、終わらない文句を垂れながらも、
しかし、当たり前のように、51回目の復活に備えているセン。
その背中を見て、
オメガシャドーは、ポツリとつぶやく。
「力も、記憶も、繋がりも……ほとんど全部を失って……ついには、『君という人格の中心』である『自制心』さえもマヒして……」
外殻も中心も毒でボロボロ。
「無意味な全能感やクソ以下のプライドという邪魔な贅肉にまみれて、純粋な疲労と絶望の前に立ち尽くして、一寸先の未来さえ見失って……それでも、君が、前を見続ける理由はなんだ……」
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