悪役令嬢をすくい散らかす、日本の高校生に転生した最強神!

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99話 命の雫。

 99話 命の雫。

(……俺、泣いているのか……なんでだよ、アホか……この状況で泣くって、どういうことだよ……意味がわからん……あまりにも、バカバカしい……みっともない……つぅか、キモすぎる……)

 いくつかの言葉で、自分を罵倒してみたが、
 だからといって、涙が止まるわけではなく、
 そして、この涙は、しばらくの間、
 絶対に止められないであろう、
 ということを、センは、どこかで理解していた。

 ――ゆえに、センは、抵抗をやめた。
 ただただ『自分の感情』にゆだねた。
 あえて逆説的に『放棄した』と表現してもいい。

 みっともなくて仕方がないが、
 しかし、どうしても、あらがいきれなかったのだ。

 『絶望』が相手なら、最後の最後まで向き合えるが、
 この『暖かさ』を捨てることは、
 どうしても、出来そうになかった。

 ――そんなセンの状態に気づいたトコは、

「ん、ちょっ……なんや、なんや。世界一の美少女に肩を守られるというんは、そんな、泣くほど嬉しいことなんか?」

 と、テレ隠し全開で『チョケ散らかした発言』を口にする。
 トコ的には、軽くツッコんでほしかったところだが、
 しかし、

「……ああ……たぶんな……」

 考えることをやめたセンに、
 『小粋な返し』など出来るはずもなく、
 だから、『ただただ受け入れる』という、
 トコ的には一番反応に困る対応をしてしまう。

「……」
「……」

 ゆっくりと、
 優しいだけの時間が流れていく。

 脳がしびれる。
 たがいに。

 気血が充実していく。
 心が満たされていく。
 ――二人とも。

「……ありがとう……」

 ふいに、トコが、あらためて、感謝の言葉を口にした。
 気づけば、彼女の目からも、涙があふれていた。

 彼女もまた、センと同じで、
 『自分の涙』の理由を知らない。

 ただ、気付けば、零れ落ちていた。
 けっして我慢できない、命の雫(しずく)。

「……ありがとう……ありがとう……」

 声をふるわしながら、
 照れ隠しに、ちょっと強く肩を揉みながら、
 トコは『自分の中の想い』をセンに押し付けた。

「ずっと、ずっと、ずっと……ありがとう」

 『届いてほしい』と願いながら、
 けれど、『きっと、半分も届かないんだろう』なんて、
 そんなことを想いながら、
 それでも、口にするのをやめられなかった言葉。

 あふれて、
 こぼれて、

 だからこそ、
 ほんの少しだけ、



 ――自由になるの。



 ★


 言葉と想いを交わし合ったセンとトコ。

 むずがゆくて、おもはゆい。

 あまりにも繊細な感情が、
 両者の自意識をしめつける。

「……ほぐれたから……もう……ありがとう」

 センは、そう言いながら、
 自分の肩を揉んでいるトコの腕を優しくつかむ。

 そのままセンは、
 『名残惜しそうにしているトコ』を残して、
 最後に、

「ありがとう、本当に」

 そう言い残すと、
 風呂から出て、
 サウナへと向かった。

 別に、『ととのいたかった』というワケではないが、
 とにかく、今は、全力で『独り』になりたい気分だった。


 ――二つの扉を超えて、
 サウナルームに入ったセンの体を、
 重たい熱が包み込む。

 さっそく噴き出した汗は過剰な量で、
 あきらかに、自律神経の乱れが原因だった。

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