悪役令嬢をすくい散らかす、日本の高校生に転生した最強神!
85話 単純な話だよ、トコ。
85話 単純な話だよ、トコ。
「……トコ……」
多くの言葉を使わず、トコの猛抗議を黙らせる。
そんな二人のやりとりを横目に、
センは、
「ぁあ……えっと……なんか、歩いて帰りたい気分なんで、車とかは結構です……では、失礼しまぁす……」
そう言い残して、
そそくさとその場を後にした。
その背中を、口惜しそうに見送りつつ、
トコは、
「オジキ……なんで、センを帰したんや……オジキも、あたしらの話、信じてないんか?」
「私はお前たちの言葉を疑わない」
そう前を置いてから、
「……あの少年は押しても無駄だ。柳(やなぎ)のように、全てを受け流すだろう。かといって、引いてもダメだが」
「いや、ほな、どないしたらエエねん」
そこで、正義は、
アゴヒゲをしゃくりつつ、
たっぷりと、間をとってから、
「……さぁなぁ」
「うぉいっっ?!」
つい、声が大きくなってしまうトコ。
「ものごっつ『深い言葉』でも聞けそうな雰囲気やったのに、何もないんかい!」
「私は、今まで、たくさんの人間と言葉を交わしてきた。ビジネスや政治という地獄の戦場で、世界中に巣食う海千山千の超人たちと真っ向から向き合ってきた」
「……いや、知っとるけど、それがなんやねん」
「――勝てる気がしない」
「はい?」
「彼の目を見た時、『私の奥にいる私』が、即座に敗北を宣言した。こんなことは初めてだ。今までは、相手が石油王だろうと、大統領だろうと、教皇だろうと、テロ組織のリーダーであろうと、『対面』にまで持っていければ、『受け攻め』いくつか頭に浮かんだものだが……彼を前にした瞬間、『これはダメだ』と、私の奥にいる私がサジを投げた」
「……」
「非常に興味深い男だ。……トコ、お前は、彼を『王の器』と評したが……」
そこで、スっと目を閉じて、
未来を夢想しながら、
「彼が人類の頂点に立った世界……あるいは、その未来こそが、真なる理想郷なのやもしれん……」
「えっと、つまり、どういうこと? 何が言いたいか、イマイチわからへんのやけど?」
「一言で言えば、私も彼に賭けたくなった……という感じかな」
「……ほな、なんで帰したん?」
「単純な話だよ、トコ」
そう言うと、
正義は、ニっとイタズラに微笑んで、
「彼は、地位と富と名誉こそ拒絶したが……お前の『助けてほしい』という願いに対してだけは、一度も拒絶の意を示していない」
「……」
「どうでもいい言葉で濁そうとはしていたが……しかし、彼の瞳には、確かな覚悟が宿っているように見えた。少なくとも、私の目には」
正義は、この部屋での様子を、別室でずっと見ていた。
この部屋には、現在、エグい量と質の盗聴器と監視カメラが設置されており、
血圧や心拍数を測定できるカメラや、サーモグラフィなども完備されている。
ちなみに、監視していたのは、正義だけではなく、
300人委員会の上層部にいる大半が、
トコとセンの会話を見守っていた。
「トコ。試しに、また、ピンチになってみるといい。そうすれば、彼は、どこからともなく飛んできて、きっと、こう叫ぶだろう。――『ヒーロー見参』と」
          
「……トコ……」
多くの言葉を使わず、トコの猛抗議を黙らせる。
そんな二人のやりとりを横目に、
センは、
「ぁあ……えっと……なんか、歩いて帰りたい気分なんで、車とかは結構です……では、失礼しまぁす……」
そう言い残して、
そそくさとその場を後にした。
その背中を、口惜しそうに見送りつつ、
トコは、
「オジキ……なんで、センを帰したんや……オジキも、あたしらの話、信じてないんか?」
「私はお前たちの言葉を疑わない」
そう前を置いてから、
「……あの少年は押しても無駄だ。柳(やなぎ)のように、全てを受け流すだろう。かといって、引いてもダメだが」
「いや、ほな、どないしたらエエねん」
そこで、正義は、
アゴヒゲをしゃくりつつ、
たっぷりと、間をとってから、
「……さぁなぁ」
「うぉいっっ?!」
つい、声が大きくなってしまうトコ。
「ものごっつ『深い言葉』でも聞けそうな雰囲気やったのに、何もないんかい!」
「私は、今まで、たくさんの人間と言葉を交わしてきた。ビジネスや政治という地獄の戦場で、世界中に巣食う海千山千の超人たちと真っ向から向き合ってきた」
「……いや、知っとるけど、それがなんやねん」
「――勝てる気がしない」
「はい?」
「彼の目を見た時、『私の奥にいる私』が、即座に敗北を宣言した。こんなことは初めてだ。今までは、相手が石油王だろうと、大統領だろうと、教皇だろうと、テロ組織のリーダーであろうと、『対面』にまで持っていければ、『受け攻め』いくつか頭に浮かんだものだが……彼を前にした瞬間、『これはダメだ』と、私の奥にいる私がサジを投げた」
「……」
「非常に興味深い男だ。……トコ、お前は、彼を『王の器』と評したが……」
そこで、スっと目を閉じて、
未来を夢想しながら、
「彼が人類の頂点に立った世界……あるいは、その未来こそが、真なる理想郷なのやもしれん……」
「えっと、つまり、どういうこと? 何が言いたいか、イマイチわからへんのやけど?」
「一言で言えば、私も彼に賭けたくなった……という感じかな」
「……ほな、なんで帰したん?」
「単純な話だよ、トコ」
そう言うと、
正義は、ニっとイタズラに微笑んで、
「彼は、地位と富と名誉こそ拒絶したが……お前の『助けてほしい』という願いに対してだけは、一度も拒絶の意を示していない」
「……」
「どうでもいい言葉で濁そうとはしていたが……しかし、彼の瞳には、確かな覚悟が宿っているように見えた。少なくとも、私の目には」
正義は、この部屋での様子を、別室でずっと見ていた。
この部屋には、現在、エグい量と質の盗聴器と監視カメラが設置されており、
血圧や心拍数を測定できるカメラや、サーモグラフィなども完備されている。
ちなみに、監視していたのは、正義だけではなく、
300人委員会の上層部にいる大半が、
トコとセンの会話を見守っていた。
「トコ。試しに、また、ピンチになってみるといい。そうすれば、彼は、どこからともなく飛んできて、きっと、こう叫ぶだろう。――『ヒーロー見参』と」
          
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