お母さんは魔王さまっ~朝薙紗凪が恋人になりたそうにこちらを見ている~

詩一

第46話 メロンは夢を見ない

メロンに、俺の前世の醜態をばっちり晒されたところで、時計を見ると、もう0時を回っていた。
「そろそろ寝ないとな。紗凪さなぎはここで寝ろ。新しい布団持って来るから」
「えっと、その、私、初めてなので、優しくしてほしい」
「あのな」
俺は頭を掻いた。
「俺は母さんの部屋で寝るから」
「そんな」
「駄目ですよ! 勇者様! 魔王と共に就寝など言語道断です!」
「ほら、メロンさんもこう言っているし」
「掻き回すなよな。じゃあ、紗凪が母さんと寝るか?」
「無理。あんなに良い匂いの人と寝たら、明日の朝には蒸発してしまうと思うから」
「そうですよ! 仲間を売るなんて最低ですよ!」
謎のシンクロを始めるなよ。
「じゃあどうするんだよ。いくらなんでも高校生の男女が同じ部屋で寝るのは不味いだろ」
「勇者様。男女が二人で寝るイコール夜の営みと考えていらっしゃいませんか?」
――う。まあ確かに、そう言う想像をしてしまっているのは事実だよな。
「すぐにそう言う事を考えるのは、男性の悪い癖ですよ。女性の方からしてみれば、単に仲の良い人と夜更かしをしながらおしゃべりをする程度にしか考えてないのですよ。ですから先程の優しくして欲しいと言う紗凪様の発言も決してエロスから来るものではないはずです」
「そうなのか? 紗凪」
青痣までも赤くなるのではないかと言う程顔を赤らめている。まるでお風呂でのぼせた様に、とろんとした瞳で俺を見ている。
「絶対エロい事考えてるじゃないか!」
紗凪はふるふると首を横に振る。
「まあまあ勇者様。冷静に考えても見てください。この部屋には私が居るのですよ? 私は真っ暗闇の中でも猛禽もうきん類の如き視力と視野でお二人を見続けますし、お二人のお話に介入していれば、夜の営みを始める気も起きませんよ」
「なるほどな。確かにお前が居る前で事を起こそうとは思わないよな」
俺はドアノブに手を掛ける。
「どこに行くの?」
「だから新しい布団持って、っておい! 何で既に俺の布団に入ってるんだ!」
「だって眠いし」
「ほんの数分待つだけでいいから起きてろ」
「新しい布団を持ってきても私はこの布団で寝る」
「どうして!?」
燈瓏ひいろう君の匂いがするから。ほら、枕なんてすっごく濃い匂いがする」
「やめろおおお!」
そんなやり取りの後、布団を持って帰ってきたが、紗凪は俺の布団から出ようとしなかった。
暫くすると寝息が聞こえたので、本当に疲れて眠ってしまったのだろう。
昨日から今日に掛けて、いろいろ大変だっただろうからな。仕方ない。
電気を消して自分も布団に入る。
ふと、この前の風呂場での一件を思い出す。
見てはいなかったが、あの時触れたのは一体なんだったのだろう。手だ。と思ったが、実際は。いやいや無いだろう。いきなり胸を当てて来るなんて。……でも存外紗凪は無秩序だ。特に恋愛に対しての順番と段階が滅茶苦茶な気がする。じゃああれは。いや無いって。ははは。って、全然寝れねえ! 近くに女子が居ると言うだけでこんなに寝つきが悪くなるものなのか。そう言えば今の紗凪ってノーブラノーパンなんだよな。いっそ触って確かめてやろうか。そしたら一件落着して眠れるんじゃあないか。いやいや待て待て。前世の自分みたいなことをする気か? ゲス野郎め!
果てし無く悶々もんもんとしながら、それでも眠れたのは、前日の寝不足の所為か。あるいは、メロンがそばで見ていてくれているから間違いは起こさないと言う安心感からか。

アラームで目を覚ます。
何事もなく朝が来た。
良かった。
メロンの方を見る。
「昨晩はお楽しみでしたね」
「お前はそれ言いたかっただけだろ!」
メロンを机の上で独楽の様に回転させる。

朝ご飯を食べた後、紗凪の痣をどう隠すか悩んだが、ガーゼを当ててテープで抑えるしかなかったので、そうする事にした。
家を出る時、俺だけが呼び止められた。
「昨日、紗凪ちゃんと一緒にお風呂入ったんだけど」
「ああ、聞いたよ。あいつも疲れてるんだから、ダメだよ。余計に疲れるだろ」
「それは今度から気を付けるわ。それより紗凪ちゃんの体、至る所に青痣があったの」
俺は驚いて母の顔を見る。とても真剣で悲しげな眼をしていた。
「紗凪ちゃんは平気な顔をしているけれど、きっと想像以上に辛い思いをしているはずだから、助けになってあげて。お母さんにもできる事が有ったら手伝うから」
神妙に頷く。
「あと」
母さんは笑顔に切り替わった。
「無理矢理にでも紗凪ちゃんを連れてきて正解だったと思うわ。流石燈瓏ちゃん。私の息子」
俺も笑顔になって、いってきますと挨拶をした。

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