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お母さんは魔王さまっ~朝薙紗凪が恋人になりたそうにこちらを見ている~

詩一

第3話 チートスキル

とりあえずメロンは自室の机の上に置いて夕食を食べる事にした。
先程母さんが言っていた通り、ピーマンの肉詰めをメインに、大根サラダ、味噌汁、鯖の塩こうじ焼き、卵焼きと錚々そうそうたる顔ぶれがテーブルの上に並んで、俺に食されるのを待っていた。
特別な日にと言うなら解るが、二人暮らしの一食の為に毎回これだけ用意するのだから凄い。
卵焼きを食べようと間近で見た時、ピンク色の粒々が見えた。タラコが入っているのか。ふと先のメロンの下ネタが過り、具合が悪くなった。
「あら? どうしたのかしら。燈瓏ひいろうちゃん具合悪いの?」
不安げな表情で見つめられる。
「あ、いや。この卵焼きタラコが入ってるなって思っただけ」
「あれ? 嫌いだったかしら?」
「ううん。好きだし、美味しいよ。ただ気になって見ていただけだから」
「そう」
得心し、笑顔になって食事に戻る。
夕食を食べ終え、食器を流し台に持っていく。
皿洗いをしていた母さんが俺を見て言った。
「燈瓏ちゃん、そろそろ耳垢溜まったんじゃない? 後で掃除してあげるね」
「いいよそんなの自分でやれるから。もう俺高校生だぜ?」
「えー、ケチー」
口を尖らせていじける。
母さんは、本当に完璧な主婦だと思うし、母親だと思う。おまけに美人で若々しい。20も歳が離れているとは思えない。実際この前買い物をしている時など、店員に姉弟に間違えられたくらいだ。息子の俺が言うのもはばかれるが胸も大きい。女性としてもパーフェクトだ。しかしながら如何いかんせん俺に甘すぎる。というか、甘えさそうとして来る。
母としてはいつまでも息子に甘えて欲しいのだろうが、こちらとしてはそうはいかない。母の愛情に甘んじているようでは、良い人間にはなれないような気がするのだ。漠然とだが、そう思うのだ。
だから耳掃除は自分でする。ああでもその前にメロン。

自室に戻って声を掛ける。
「お待たせ」
「いえ。人間はエネルギーを取らなければ生きていけませんからね。それで、勇者様は我がしゅからどれほどの事を聞いていますか?」
「俺が異世界転生者で魔王を倒す使命を帯びた勇者である事を聞いた。でも俺にはそんな記憶が無いと言ったら、前世の記憶が消えているんだろうなって。それで詳しくは天界から使いをよこすからって言って、そこまでだな」
「では詳しく説明させて頂きますね。あ、長くなると思うので楽な姿勢でどうぞ」
「……今更なんだけど、見えているんだな」
「はい。見えていますし聞こえていますよ」
「あ、うん、そうか、そうだよな」
目の前にあるメロンは全く動いていないのに、声は聞こえるし気も遣われるしで、違和感が仕事をしっぱなしで落ち着かない。
「では、我が主が仰っていた事と重複してしまう部分もありますが、順を追ってご説明致しますね。まず勇者様は前世では異世界に住んでいました。そしてその世界で死に、我が主の好意によってこの世界に転生させられました。ちなみに主の好意とは言いましたが、転生させて欲しいと願ったのは勇者様本人です。そして勇者様はこの世界に居る魔王を倒すと言う使命を帯びて生まれでました」
「なんか最近読んだラノベみたいだな」
「ラノベ? ライトノベルの事ですか」
「そうそう、若者向けの娯楽小説。最近そういうの多いんだよね。現世で死んで、異世界に転生して魔王を倒すって流れのやつ」
「左様でございますか。これはもしからしたら、世界が勇者様に魔王を倒せと言うメッセージを送っているのかも知れませんね。勇者様が興味を持ちそうな媒体に、勇者様が前世の記憶ないし我が主との約束を思い出させるようなエピソードを入れ込んでいるのです」
「もしそうだとしたら、すげえな。あ、ならさ、チートスキルとかある? ラノベとか見てるとだいたい勇者は持ってるんだよ」
「ありますよ」
「え! マジで!」
「大変強力なスキルです」
「どんなのなんだ」
「神様、お願いします。と言う文言もんごんの後に実際に起こって欲しい事象を言うとそれが叶うというものです」
「それって、例えば魔王の上に隕石落としてくださいって言ったら魔王の上に隕石落ちて来るのか?」
「はい」
「俺TUEEE!」
「しかしながら一度しか使えません」
「いやでも強力だからいいよ」
「そしてその一度を、実は勇者様は使ってしまっています」
オワタ。
だが、そんなスキルを使った覚えもないし、神様お願いしますなどという文言を言う機会なぞそうそうないはずだが。
「俺が、いつそのスキルを使ったんだ」
「勇者様が5歳の頃です。あ、映像ご覧になられますか?」
「映像? まあ、有るんなら」
そう言うと、メロンから突然光線が伸び、壁に映像を映し出した。このメロンはプロジェクターにもなるらしい。俺は電気を消した。
映像の中には5歳の頃の俺と思われる少年が映っていた。
「燈瓏ちゃん、七夕のお願い決まった?」
そこに出てきた母を見てびっくりした。今と全然変わってない。つまりこの頃から全く老けてないのだ。
「うん」
「なあに? 見せて見せて」
短冊に汚い文字で書かれたそれを少年は読み上げる。
「神様、お願いします。どうかお母さんがずっとずっと今のまま綺麗で健康でいられますように」
「きゃー! なんてお母さん思いの子なの! 大好き! 燈瓏ちゃん大好き!」
「えへへへへ」
映像はそこで切れた。
俺は電気をつける。
座る。
「えへへへへ、じゃ、ねええええええ!!!」
「母親思いの良いお子さんでしたね」
「うわあああ、折角のチートスキルが……ああああ! だから母さんずっと老けないのか!」
「スキルの効果が本物であることが立証されているようで何よりです」
「何よりですじゃなくて、なんでそんな物心つく前の言葉まで律儀りちぎに有効判定するんだよ。そこの判定はザルでいいだろ!」
「そんな事を言われましても、まさか勇者様の前世の記憶が消えているとは知りませんから、基本的にスキルは発動してしまいますよ」
項垂れる俺に透き通った声で理路整然りろせいぜんと語る夕張メロン。
発動してしまったものは仕方ないにせよ、その便利なチートスキル無しで、俺は果たして魔王を倒せるのだろうか。

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