勇者が世界を滅ぼす日
演劇会議
校長室にもどると、例のお芝居の打ち合わせだ。
本人了承は必要だが、マニの身の上話や感じたことを参考に物語を構成するのはありだと思う。人間と悪魔のハーフで、両方の立場で両方の迫害を受けているはずだ。どう乗り越えていくかの参考になると思う。
アミとナナも視察中は真剣に彼女たちの様子やオロバス、ベルフェゴールを取材していた。
「どう?もう少し練る必要はあるけれど」
「あちは面白そうだと思うのだわ!」
「マニは知名度がないから、オロバスを絡める感じの物語がいいね」
「あとマニ本人はちょっと無理だから、たとえばミルにマニ役をやってもらうなんてどうかな?」
「おーいいね!」
「ライバルにシャルロッテなんてどう?」
「ケーッケケ!よきよき!」
本人たちがいないのに勝手に話が進んでいる。でも人間と悪魔が同時に見て楽しめるもの、興味があるものにはなるだろう。
全員が揃うまでは、くつろいで雑談をしている。
「しっかしマニのやつ、すごかったなぁ」
「ウム……しかし肌の色というのはハンデなのか?オレは全然きにしていなかったが……」
「いんや、肌の色より『自分たちと違う知らないもの』には、誰しも距離を置きたがるものなのだわ」
「シルフィ殿は、思い当たるふしがありそうだな!」
シルフィは過去に関連する何かがあったのかもしれない。出会った頃は封印されて、孤児のような格好をしていたのだから。
「ケケケ。あちは長い事を生きておるだわ。でも人間も悪魔も同じなのだわ。」
「そうか……」
自分を語るときのシルフィはいつもちょっと悲しそうだ。ボクは頭をなでて、手を差し伸べるとシルフィはきゅっと手をつかんできた。
「ハーフという立場は、つねどちらの陣営からも虐げられるものなのだわ。あちが選んだのは『力を示す』こと。『白銀の妖精魔女』なんて二つ名をつけられて、さげすむ目は減ったが、逆に好奇な目に変わって利用されたり妬まれたのだわ」
白銀の妖精魔女の名前は悪魔でも人間でもしる伝説級の通り名だ。利用したがらない権力者はいないだろう。その度に利用されて来たのか。
「……結局、変わらなかった?」
「どの目でみられるか、本人が好むほうを選択するしかないのだわ」
「ほうほう。それもいい考えだ!」
シルフィーが椅子の上に立ち上がって、可愛らしいく指をたててポーズを取る。
「……でもお。アーシュとあって考えがかわったのだわ」
「おお!そいつぁ聞きてえな!」
ボクと会ってから変わったのか。シルフィは長い間を生きていたのに、ボクと触れ合った短い時間で、変化を獲得したということだ。ボクはなんだか誇らしいきもちになった。
「そう!よくぞ聞いてくれたのだわ!!!!」
シルフィは、だんっと机に片足を置いてポーズをとった。はしたない。
「好きな人に見てもらえたら、あとはどうでもいい!ということなのだわ!!!……なのだわ……なのだわ」
彼女の名言がやまびこのように響く。みんながあぜんとなって校長室が静まり返った。
「名言だね!!!!ボクも完全同意!」
ルシェがシルフィに同意している。なんとなく気持ちはわからないけど、空気は読んでいないと思う。それにボクはちょっと、いや、かなり気恥ずかしくなってしまった。
「うお~い!ここまで言ってノロケかよ!」
「いや!それも一つの真理だぞ!ベルフェゴール!オレだって妻と子に見ていてくれれば、蔑まれてもかまわないとおもっているしな!」
オロバスは妻子持ちか。暑っ苦しい旦那を受け入れる奥さんならば、相当心に広い人なのだろう。今度会ってみたい。
「つまり、早いところ所帯をもてつーことかよ」
「ベルフェゴールの場合はそうだな。好きな奴とかいないの?」
「ボークはしってるよ!」
「てめぇルシファー!言ったらぶっ殺すからなぁ!!」
「おーこわ!」
そんな話をしていたら、ミルの授業が終わったようだ。校長室にノックが響く。扉が開くと、そこにはミル、シャルロッテ、マニも一緒だ。
「ミルどうだった?」
「うん!たのしかったよ!友達もたくさんできた!けど、アーシュを狙ってる子が結構いたよ」
「そ、そうか。あははは……うん!よかったな!」
さすがに子供たちにそういう目で見られても困る。でもミルが入って行きやすいネタになるぐらいならいつでもいいさ。
ミルのコミュニケーション能力に感服しながら、褒めてあげた。
「へへ~アーシュすき~」
ボクは、さっき別れたばかりのシャルロッテとマニもいたことに疑問を持った。題材として彼女たちも参加してもらいたいから丁度いい。
「シャルロッテにマニも参加してくれるの?」
「さ、参加?何のことでございますか?わたくしとマニはそこの男、アシュイン様に用がって来たのですわ!」
シャルロッテがズバっとボクを指差して、声を張り上げている。マニも同意してうなずいている。二人とも仲良くなったみたいだ。
「アーシュが、アシュイン様だって~ぷ~くすくす!」
「ボ、ボクも様を付けられたらちょっと話しにくいよ」
シルフィが笑いすぎてて、話がすすまない。
「ではアーシュ!わたくしとマニを弟子になさい!」
シャルロッテは腰に手をあてて胸を張る。なぜ教えを乞う立場の人間が上になってるのか聞きたい。
「へ!?」
「なっ!!な~にっているのかな?」
「……うひ!ごごご、ごめんあさい……」
マニはかわいいけれど、謝り癖はよくない。ちゃんと治しておかないとあとで苦労してしまう。
「マニ。簡単にあやまっちゃだめだよ」
「あ……あり……がとアーシュ」
「ケーッケケケ!!二人ともアーシュ呼びになって、すーっかりハーレム入りの奥様きぶんなのだわ!」
「はははっ!ハーレムって!勇者じゃあるまいに!」
ギクゥ!ボクは勇者です。ごめんなさい。
ここで知ってるのはルシェとシルフィだけだから、ボクがボロを出さなければ平気だろう。
「はははっ!そうだよ!ボクは魔王代理だよ?」
すこし棒読みのようなセリフになってしまった。ルシェとシルフィは少しジト目になってこちらを見ている。そんなにへたくそだったのだろうか。
結局、ボクとシルフィが暇なときに、二人の訓練を見えてあげることになった。
それから大人数になったけれど、シャルロッテとマニも一緒に演劇の会議する。はじめは案を出し切るところからだ。
初公演はこちらが役者を用意してやることになる。実在の人物をモデルにするのだから、本人によほど演技ができないわけじゃなければ、本人にやってもらう方が良い。
脚本はアミとナナ、それからミルを中心として書くことになった。案があれば受け付けるという。
初公演の場所や日時は王国側との折衝が必要になる。ボクの役目だ。二ヶ月後、人間の町での公演を目指す。
楽しみにしている子供たちのために、そして悪魔と人間の交易、共存のために。
――企画は始動した。
「おーし!やってやろうぜぇ!!」
「「おお~!!!」」
なぜかベルフェゴールが音頭をとっていた。ベルフェゴールはやる事がない気がするが、その場のノリも大事。仲間との交流がへたくそなボクでも空気をよんだ。
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