勇者が世界を滅ぼす日
シルフィ VS ベルチームその2
「前衛隊、牽制で攻撃をひきうけよ!」
「ふふん。その調子なのだわ」
シルフィは待ちをやめて、攻撃を始める。すこし飛び上がって、前衛の最前列の手前に、蹴りを落とす。
ドゴォオオオオン!!!
そこには巨大なクレーターができ、爆風が前衛隊に襲い掛かった。
「うわっ!!なにこれ!!」
「こ、堪えろ!!!すぐ後衛の準備が整う!」
「中隊は攻撃をはじめ!!」
「ケ~ケケケケケッ!!、早く主力攻撃しないとつぶしちゃうなのだわ~?」
本当に巨大な怪物を討伐するような絵面だ。
けれど対峙しているシルフィは誰よりも小さい女の子。それにシルフィが簡単にいなして、いたぶっているように見える。たぶんあれでもかなり手を抜いてる。
シルフィの魔力はルシェと同じぐらいなのに、強さはボクと同等かそれ以上ある。それはシルフィの長い年月の鍛錬や研究のたまものなのだろう。そう考えるとシルフィっていったい何歳だろうか……。
そんなくだらない事を考えているうちにもシルフィの重い全体攻撃は続く。まるで小さな怪物だ。
ズドゥウウン!ガキイイイン!ドォオオン!!
「くっ!行きますわよ!」
「おうシャロルッテ!」
「任せたぞ!シャルロッテ!!」
主力3人で何か仕掛けるようだ。オロバスとベルフェゴールの魔力をシャルロッテに集中させている。
ギュリリリリイリリリ!
「暗き闇の眷属よ!我の剣に宿いて敵を蹂躙せよ!ダーククリムゾン!」
ギヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
3人渾身の合体技だ。とにかく派手で禍々しい。タメと詠唱が長すぎて実践で使うにはやや問題がある。シルフィが待ってくれたから発動できたというところだ。
「ケケケッ!がんばったのだわ?でもあぶないのだわ。アビス!!」
ヴゥン!
「「「はっ!!!!???」」」
ボクははっきりいって魔法の種類はあまり詳しくない。勇者の技と勇者パーティーのメンバーが使っていたものしかしらない。
だからダーククリムゾンもアビスもどういう効果か知らない。見ると、アビスはエネルギーを喰う魔法のようだ。
強大化した禍々しい闇の光をすべて飲み込んだ。
それに意表を突かれたように、全員が驚いてしまっている。はっきりいってこれはダメだ。シルフィに攻撃を当てられるとしたら、今しかなかった。あの浅黒い子だけは、攻撃態勢にはいっていたが勇気がないようだ。
「ばかたれ!!!!いまがチャンスだったのだわ!」
ぎゃう!!!
あっ!!
つぅうう!!
シルフィがそう言って怒ると、一瞬で全員がげんこつで軽いダメージを受けて、涙目になって倒れていた。
「いってえな!!」
「ぐぅ……なぜだっ!?ちびっこにこんな力あるわけが!!」
ベルフェゴールもオロバスもしりもちをついている。
「シルフィちゃんすごいね!アーシュに勝ったなんて、アーシュが謙遜してるだけかとおもったけれど、これなら納得だ」
「そうだろ?シルフィはほんとうにすごいんだ」
「ふふふ……うれしそうだねアーシュ」
これにはルシェも納得せざるをえない。魔法の知識や腕も格闘技の腕もボクのはるか上にいっていると思う。
しかしそれではシルフィの気が治まらなかったようで、少し怒っている。
「おいおまえ。シャロロッテ?指揮官なのだわ?」
「シャルロッテですわ!!そうですわ。先生方に譲っていただきましたわ」
ゴツン!
「こおんの馬鹿垂れ!ダーククリムゾンを打った後に、3人で突っ込めば1発ぐらいあちに当てられたなのだわ?」
「っつぅううう!」
「くっ!たしかにちびの言う通りだ。くそがっ!」
「むぅ……ほんとうに信じられんほど強いな!シルフィ殿!」
3人はシルフィと握手をしている。たのしかったのか、満足気な顔をしている。
「勝者シルフィ!おつかれさま!!あっちでジュースをどうぞ~」
ルシェがみんなに声をかけて、準備しておいたジュースを指す。高等部とはいえ、みんなまだ成人前の子供だ。ジュースにむかってわーっと走り出した。
子供たちを見ると、さっきの才能が有りそうな浅黒い肌の子は、ちょっと物怖じしているようだ。ジュースをとりにいくみんなの輪に入れなくて孤立している。
ボクはそんな彼女にジュースを渡しに行くことにした。
「おつかれさま。ジュースどうぞ?」
「……ぁ……ぁ……ぁ」
「大丈夫。ゆっくりでいいよ」
「…………あり、が……と」
なんとか受け取ってくれた。まるで警戒している猫のようだ。でも頭を撫でてやると、嬉しそうになすがままにされている。
「名前はなんていうの?」
「……マニ」
「マニちゃん。かわいいね!ぼくはアシュイン。よろしくね」
「……うそ……あたし……みにくい……いつもいわれう」
そういって、ぷいって向いてしまう。舌っ足らずなところもかわいいとおもうのだけれど、いつも言われてしまうのか。もしかして、肌の色のことを言っているのだろうか?
「そんなことはない。少なくてもボクはマニのこと、かわいいって思ったよ」
「……ほん……と?」
「うん。奇麗な髪も、肌の色も、顔立ちもみんな可愛い。それからシルフィの強さを見抜いていただろ?」
「……あの……おねぇ……ちゃん。精霊の……ハーフでしょ」
「なっ?そこまで?」
本当に見抜く力があるようだ。ボクはマニのことをもっと知りたくなった。この子は伸びる。
「あたし……も……ハーフ……人間と……悪魔……だからきらわれもの」
「そうだったのか……でももうボクが友達だ」
「……うひ……うれしい」
ボクたちは握手をして、友達であることを示した。きっと初めてだったんだろう。涙目になって喜んでいる。でもボクはずっといてやれないから、ちょっと細工をしてやろう。
この子の強さをボクは見た。これならいけると思う。
「いいかい?ごにょごにょ――
そうして休んでいるみんなに声をかけた。
「おいベルフェゴール。みんなの強さをちゃんと把握しているのか?」
「おう!ったりめーだろ?その上でシャルロッテを推したんだ」
「じゃあボクはこのマニを推すよ!」
「「「え~~~~!?」」」
オロバスまでも驚いている。マニの強さがわかっていなかったようだ。
「まじかよ!?じゃあ勝負しようぜ!」
「いいぞ、ベルフェゴールの推すシャルロッテとボクの推すマニで勝負しよう!」
「……うひ!」
よし!乗って来た。シルフィは嬉しそうにニヨニヨしている。人が悪い。
「なんですってぇ!なめるのもいい加減になさい!マニのような半端者に、わたくしが負けるわけがございませんことよ!?」
「ケケケ!アーシュ!考えたのだわ?でもさっきあちがシャロロットに手ほどきしたから、簡単にはいかないのだわ?」
「そそそ~~~うですわ!お姉さまの指導していただいたのですから、この数十分でわたくしも成長いたしました!ちなみにシャルロッテですわ!」
「お、お姉さま?」
「シルフィお姉さまはわたくしの大切なお人なのですわ!!!」
……なんだろう。
彼女は何かおかしな嗜好に目覚めてしまった気がする。シルフィがすこし引いているのが面白い。
シャルロッテはベルフェゴールを慕っていたはずだけれど、この短い間にすっかりシルフィに鞍替えしてしまったようだ。
マニにはボクが少しアドバイスをした。きっと勝てる。もともと能力があるのに、嫌われている劣等感で力を出せていないようだったから。
ボクはマニの手を握って、うなずいた。がんばってね。
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