勇者が世界を滅ぼす日

みくりや

初等部の授業





 まずはミルが通うことになる、初等部へ行くことにした。どういうわけか、ミルは学園に来てから大人しい。
 ミルは人見知りをしない子だとおもっていたけれど、こういう仰々しい場所は少し苦手なのかもしれない。
 ちょっとおじけづいちゃったのかもしれない。ボクはそんなミルの手を握っていっしょにオロバスの後に続いた。手を繋いだミルは嬉しそうに腕を絡める。


「んふふ。アーシュすき~」






 案内もオロバス自らしてくれると言う。
 通常のだったら空いている講師などに任せるはずだけれど、これでも魔王代理とそれにかかわるものだから、特別な待遇なのだと認識した。
 オロバスは学園内でも人気者だから、間に入ってもらえればミルも親しみやすいかもしれない。




 今の時間は、生徒たちは魔法の講義を受けているようだ。
 ミルはアミといっしょにシルフィに習っていたはずだから、基礎は大丈夫だろう。




「ミルの魔法はどのくらいできるの?」
「あまり才能はないのだわ」
「ええぇ?」
「基礎や初級魔法はできるから学校では問題ないはずなのだわ。かわりにミルは、親から受けついた爪を用いた肉弾戦が幹部並みに強いのだわ」
「すごいじゃないか!ミル!」
「んふふ。美少女戦士(物理)はだてじゃないよ!」
「ミルは調子にのったらダメなのだわ?初等部の子の頭がスイカのように破裂するのだわ」
「「言い方がグ、グロい……」」






 何日かお城を開けているうちに、そんなことになっているとは……。ボクは無意識にまたミルを撫でていた。目を細めてボクの手にしがみついて離れない。これじゃあ親離れできない子……いや、ボクが子離れできない親だ。








 教室に入って行くと、オロバスと講師が話して、ミルを紹介することになった。


「みんな~こんど仲間になる、ミルちゃんだよ!」
「さぁ仲良くするがよい!!彼女の良い子さはオレが保証しよう!!!」


あつくるしっ!




 ボクは手にしがみついているミルの背中をそっと押してやる。ボクが目を合わせてうなずくと、勇気がでたようだ。




「ミ、ミルです!魔法は苦手だけど、な、仲良くして!……ください」


「わ~かわいい!!こっちおいで~」
「ヘっ!オ、オレが色々教えてやるぜ!」
「ミルちゃんのお父さんかっこいいね!」




 お、お父さん?ボクのこと?ここにいる家族らしき男性は僕だけだ……。




「う、うん!カッコいいでしょ?すごく優しくておもしろくて、それにすっごく強いの!」
「わ~いいなぁ!」




 すると、一人の男の子がボクに近づいてきた。




「オレ、カイン!学校ではオレがミ、ミルを守ってやるからな!安心してくれよ!お義父さん!」




 あはははは……!お義父さん呼ばわりはないんじゃないかなぁ!




(おいアーシュ!右手に魔力が集まっているのだわ!!!)
(あ、つい……)




「カ、カインくん。仲良くしてやってくれ」




 なんとか普通の対応ができた。シルフィが止めてくれなければ、思わず消し炭にしてしまいそうだった。オロバスと教師が合図してくる。ミルに体験させたいみたいだ。




「ミル、みんなといっしょに授業をうけてみるか?」
「ア、アーシュ……。う、うーんいいけど、行く前にちょっとかがんで」
「ん?」




ぎゅ~。




「…………んちゅ!あははっ勇気でた。いってくるね」




 ミルはボクをぎゅっと抱き寄せて、ほっぺにキスをした。
 そうしてみんなの輪に入って行った。ミルをお城に置いてから、あんまりかまってやれなかった分も、甘えたいのかもしれないな。




「わ~ミルちゃん大人だよぉ!」
「お父さんかっこいいもん。あたちもぎゅってしたい!」
「オ、オレも守ってやるぞ!」




 そうしてミルは教室のみんなと講師にまかせて、オロバスとボクたちはしばらく授業の様子をみている。




「魔法は便利ですが、強すぎると仲間を気づ付けてしまいます。だから使う時は注意と、敬意をはらってくださいね」


「「は~い」」


「じゃあ、最初は水を出してみましょう!火は危ないから慣れてからね」


 魔法陣と詠唱をつかった実演を見せている。講師は若い男性で、とてもやさしそうだ。
 水を器に出すだけだ。でも成功している生徒は二人だけみたいだ。
さっきミルを守ると大見えを切ったカインくん、それとミルだ。


カインくんはうつわにじょぼぼと水をだす。けれどミルは……


ちゅぽん! ふよふよ……


 ミルがだした水はその場で水球になって浮いている。




「ミルちゃんすご~い!」
「本当に苦手なの~?」
「あはは……先生が良かったみたい」




 うん。うちの子が一番すごい!いちばん可愛い!ってお父さんはきっとみんなこんな気持ちなのかもしれない。




「とうぜんなのだわ。あちが教えたんだからミルは無詠唱で基本魔法は全部つかえるのだわ」
「それは才能がないとはいわないんじゃないの?」
「基本だけなのだわ。残念ながら上級を覚える才能がないのだわ」
「そうか。でも基礎だけでも練り込めば戦えるだろ?」
「そんなのアーシュかあちだけなのだわ」
「そ、そうか」


「やや!これは面白い話をしている!その戦える基本魔法を見せてくれぬだろうか!」




オロバスの顔が近い!!




「わかった!わかったから、ちかいから」




「みんな!ちょっと注目だ!ゲストのアシュインくんが、戦える基本魔法を見せてくれるそうだ!魔法の才能がなくて上級が覚えられない子でも、希望を捨てないでほしい!」


「わ~ミルちゃんのお父さんだ!」
「かっこいい~!」
「あたちもミルちゃんのうちの子になる!」
「オ、オレだっていつかきっと!!」


 生徒たちはボクに大分関心をもってくれている。ボクが良いところを見せればミルが人気者になれるから張り切りたい。やっぱり父親ってこんな気持ちだろう。


 相手をシルフィにお願いした。あたりまえだけれど、シルフィかルシェぐらいしか、この場で受けられる人がいない。




「みんなが出した水の魔法も極めると、極悪な武器になるんだよ。シルフィとりあえず50本いくからよろしく」


「準備いいのだわ」




 基本魔法で出した水をさらに魔力で高圧縮にして、それを五十粒ほど作る。そして徐々に圧縮率をあげていく。




「なにあれ~きらきら奇麗~」
「すごくちっさいぞ?あんなんで極悪な武器になるの?」
「ミルが水の玉をだしただろ?あれを魔力でぎゅと縮めたやつだよ。触れたら死ぬからね?」
「「え!!??」」




 シルフィはかなりの分厚い鋼鉄板を大量に出現させた。
 空間書庫から出したものだと思うが、いきなり何にもない空間に出現させたからそれだけでも皆は驚いている。
 その上でさらに警戒したように防御結界を張っていた。


 一方水の圧縮弾は限界まで小さくなった。もう圧縮できないところまで来て、前方側の圧縮率をゼロにすることで、高圧縮で打ち出す。




 ――それは一瞬にして粒が線となった。








 シュバッ!!ガギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ!!!!








「うわすごい音!」
「あわわわあ!!なにすごい!!」






「ア、アシュインくん!!!これはいくらなんでもやりすぎだ!!」
「あちはまだ平気なのだわ?」
「いや、子供たちがびっくりしている」




 ガランガランガラン!!






 鋼鉄板が床に落ちると、シルフィの近くへ生徒達が駆け寄っていく。




「わ~穴が開いてる!!」
「かっけ~~!!」
「あたち!ミルちゃんのお父さんと結婚ちゅる!!」




 そうすると一人の女の子がボクに駆け寄って来た。なにか言いたそうにしている。けれど、引っ込み思案のようだ。




「あ……あの……あたし魔法へた……あたしにも……いつかできる?」
「どこまでかは人によるけど、続ければ続けるほど出来るようになるよ!躓いたらボクのところへ来るといい」




 そういって頭を撫でてやると、すごく気持ちよさそうにして目を輝かせていた。ボクは出来る子より出来ない子を支持する派だ。もともとボクがそうだから。
 この子が将来躓いたら教えてあげよう。




 鋼鉄を出したシルフィに沢山人が集まって、生徒達は憧れのまなざしを向けている。
 やっぱり地味なボクに教えてもらうより、華のあるシルフィに教えてもらいたいのは、あたりまえだ。




「ケケケケ!あちを崇めるのだわばばばばばばばば」
「シルフィ。調子に乗りすぎ。みんな先生に教えてもらって、ちゃんと勉強するんだよ。そうしたらきっと強くなれる!」


「「は~~い!」」




 これ以上授業の邪魔をしてはいけない。ミルには後で校長室に来るように伝えおく。去り際に拳をだすポーズで、健闘を祈った。


 次は高等部が授業をしている競技場へ向かう。









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