勇者が世界を滅ぼす日

みくりや

学園にいこう!





 アイリスの捜索はやはり時間がかかるそうだ。北の高山だけでは手がかりが少なすぎる。軍の精鋭部隊を出して対応しているが、あまり進んでいない。


 ボクはボクでアイリスがいない魔王領をしっかり維持しなければいけない。
 ある程度、魔王案件をこなしたら数日は離れても大丈夫だとルシェが言っていた。そこまでは我慢するしかない。




 日常的な業務に加えて、魔王案件はオロバスからの相談。
 オロバスは交易のある王国領のトムブ村から大人気になり、見世物小屋の演劇の題材にしたいという話が持ち上がっている。内容の相談もあるけれど、王国でも広く公演したい意向であるので、王国の支援が必要だそうだ。
 これからの魔王領として、王国の付き合い方に利用できるのではないだろうか?


 女王も一時は魔王や悪魔族を人間共通の敵として、布教活動を行ってしまっていた。その意識改革中と言っていたはずだ。
 この演劇を通じて、偏見や差別という問題に訴えかけるのはどうだろう。子供たちに人気があるのなら、教育として印象を植え付けることもできる。
 さらには女王の協力を得てマインドブレイクができれば尚よい。






 ボクはその総合指揮を行ってくれればよいという。
 物語なんて経験は全くないしあまり得意ではないから、娯楽が発達している世界からきたアミやナナの手を借りるのが良いだろう。


「物語を考えるのは得意だよ!演劇部をやっていたからね!」
「あの……わたしは本が好きなので物語を良く知っています」


 アミとナナはこういう分野に聡いようだ。彼女たちを中心に物語づくりを進めてもらうことにした。


「魔王が悪者にならないようにして、悪魔族への偏見をなくしたいんだよね?」
「そ、それは難しそう。でもやりがいあるね」
「悪くいえば、人間の印象操作して交易の道具にしたい」
「あの……わ、悪く言わないでね。悪魔族が悪いなんてただの風評だもん」




 アミとナナはよく理解してくれている。異世界の文献にはそういったものに切り込んだものもあるそうだ。




「ケケケ、面白そうなことをするのだわ!あちも混ぜるのだわ」
「あたしもやる!オロバスがヒーローで推すなら、あたしは美少女戦士ミルちゃんなのだ!」
「な、なにそれ?」


 魔王領ではあまり娯楽が普及していない。A地区の町にあるだけだ。それで『美少女戦士ミルちゃん』なんていうミルの発想力には驚かされる。


 ミルのコミュニケーション能力はすごく高いし、感受性もある。ボクにないものばかり持っていて羨ましい。ミルが大きくなったら交易で大きく役に立ってもらいたい。




「みんなで面白い話をつくろう!」


「「おお~!」」
















 まずは視察を兼ねて、みんなで話を聞きに学園へ行く。
 ミルもそろそろ学園へ通う年齢のはずだから丁度良い。




 学園はオロバスが魔王領の学問担当として設立したものだ。それまでは文献もあるのに生活の中で学ぶだけで、組織だっていなかった。
 悪魔の子は10歳になると初等部へ入学し、13歳になると高等部へと進学する。そして15歳で卒業だ。
 そこにはメフィストフェレスとベルフェゴールも講師として滞在して、人材育成と技術研究を行っている。


 場所は魔王領の森の中の一角にある。かなりの敷地を整地して立派な校舎が建てられていた。魔王軍の予備候補生を育成する意味で、戦闘訓練もカリキュラムに入っている。だから校庭は広い場所を確保してあるそうだ。
 生徒の人数は多くないので、校舎の建物は一つだけ。それでも立派な校舎と外観だ。人間の貴族が通う学校に引けを取らない。建築技術も人間のそれから取り入れているようだ。ここまで出来るのならボクの役目は本当に少ないだろう。










 ボクたちは校舎に入り、3階フロアの奥にある学園長室へと入って行った。


「オオ!よくぞ来た!魔王代理殿!!」
「やぁオロバス。話を聞きに来たよ」
「それは助かる!これで勝つる!!!オレの時代――


ドカッ!


ブヘッ!」




「ええい。うるさいのだわ!早く話をすすめるのだわ」
「シルフィ抑えて抑えて」




 以前交流会で顔を合わせたときも、シルフィはこの暑苦しさにイライラしていた気がする。なぜついてきたんだろう。




「そ、それで引き受けてくれるのか!?」
「うん。王国との交易とも絡むからね。準備はここに来ているみんなが協力してくれるよ」


「やります~!」
「が、がんばります!」


 アミとナナが中心となって話を進めている。この話を交易と、マインドブレイクに使うことも話しておく。オロバスは正義感の強い男だ。ややグレーなこの話を知っておかないと、ややこしいことになってしまう。




「演劇である程度意識を変えて、偏見をなくす政治に利用するということか」
「そういこと。人間の村で感じなかったか?」
「うむ……悪魔の子がイジメられてたのを止めたことがあるぞ!」




 オロバスはしばらく考えた後、了承してくれたようだ。




「わかった!!よしそのやり方に乗ろうじゃないか!」
「よろしくな英雄!」
「まかせとけ!!!兄弟!!」


 ボクとオロバスは、お互いに拳を突き出して、拳と拳を交わした。
 ほんとうに暑苦しい男だけれど、頼もしい。これは子供たちに人気が出るのもうなずける。




「それから、ミルはせっかくだから学園に通わせた方がいいと思う。見学させてくれるか?」
「自由に見て行ってくれて構わないぞ!ミルちゃんが来てくれることを期待する!!!」
「……この先生あつっくるしいんだけど、大丈夫かな?」
「みんながそうじゃないだろ?……たぶん」




 教師全員がこの暑苦しさだったら、ボクだって、さすがに通うのを躊躇する。今日はちゃんと見ていかないと。
 それに魔王代理としてもどんなことを学んでいるのか、しっかり見てておきたい。




「ケケケ……おもしろそうなのだわ」




 なぜかシルフィがうきうきしている。シルフィは学園に行く必要がないだろう……。







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