勇者が世界を滅ぼす日

みくりや

女王と将軍の会合





 明日の午後に王国と帝国の緩衝地帯にある砦で会合が開かれるという。その結果次第では、開戦の可能性すらある。


 魔王領としては戦争には付き合っていられない。メリットもなにもないし、魔王代理として魔王領のみんなの命を預かっている。そうやすやすと戦争にかかわることなどできない。
 仮に開戦してしまった場合には、交易をいったん諦めて退却だ。










 ボクたちは夜になって移動し、会合場所の砦に着いたのは午前中だ。


 少し離れた場所で様子をうかがう。
 一定距離を保って、両軍が陣営を構えている。その中央に砦。
 砦には両国の最低限の使用人が常駐している。使用人は場を整えたりするだけで、戦闘員は配置しない事になっている。


 ここからはナナにお願いして『隠匿』を使用した行動だ。移動速度もおそくなるし余計な事をすればバレるから、こっそりと移動する。






 使ってない使用人の部屋に忍び込むことが出来た。
 両陣営の兵士のほとんどは近辺で対峙しているから、中のほうが手薄だった。使用人の部屋に着くとシルフィに結界を張ってもらった。これでゆっくり待つことが出来る。




「中は警戒心が薄いようですね」
「うむ。この部屋に結界を張ったから寛いでいても大丈夫なのだわ」
「シルフィはそんなことまでできるのか」
「ケケケ。もっとあちを崇めるのだわばばばあばばば!」




 いつものように、じゃれあっても大丈夫だ。






普段は全く活用されていない砦のため、本当に使用人しかいない。王国側4名と帝国側4名の使用人。外の門に2名ずつの門番。
 会合に使う客室は広い。あらかじめ隠匿をつかって入っておけば、問題ないだろう。








 砦の外をみると、両国の馬車と護衛の騎士団が近づいてきているのがわかる。どちらも同数程度だ。
 その姿が確認できると両陣営の空気に緊張がはしった。ざわざわとした雰囲気は無くなり、静寂の中で整列している。
 西側、王国軍。約2千。東側、帝国軍。約2千5百。かなりの兵を配置させたようだ。開戦しないことを祈りたい。
 ボクたちも会合の部屋へ移動して待機だ。










 少し待っていると、両国の代表が入って来た。
 帝国軍は将軍と、それから役人4名と護衛5名。対する王国側は……。




(アイリス!?うそだ!!なんで王国側として参加している!!??)




……悪魔らしい角や尻尾は隠している。ボクは今の会合ことなんて忘れて涙がこぼれていた。声を出すとバレるから、必死でこらえる。




(わぉ。まさかここに来てるとは思わなかったなのだわ)
(アイリス……やっと……会いたかった……)
(……アーシュ。声を出すなよ)
(……あ、ああ)




 王国側はエルランティーヌ女王、アイリス、それから宰相の男と2名の貴族。同じく護衛5名だ。


 なぜアイリスがここで王国側として参加しているのか不明だ。悪魔と知られていて参加しているなら、ボクたちも無関係ではいられない。
 確実に魔王領が巻き込まれる。そんな軽率な行動をアイリスがするわけがないと思うが。




「機会をいただきありがとうございます。エルランティーヌ女王陛下」
「こちらこそ、エルダート将軍閣下。早速ではございますが、わが王国の王宮魔導師はどちらに?」
「まぁ、焦らずに。彼女は自らわが帝国へと足を運び、亡命を希望されました」
「……っ!ありえません!」


 エルランティーヌ女王は交渉事が得意ではないようだ。早速激高してしまっている。アイリスは黙ってみているようだ。


「なんでも王国では、騙されて子を孕まされて、挙句の果てに投獄されたというのが彼女の言い分でございます」
「そ、それは……ですが彼女とは和解いたしました!」
「おぉ……やはり本当のことでございましたか!」


 女王は若すぎた。この老練な将軍に完全に手玉に取られている。


「しかし、わが帝国でも彼女には、そこまで価値を見出してはおりませぬ。亡命を希望されているから仕方なくと言ったところでございます」
「……っ」
「王宮魔導師殿といえば、王国の中枢にいる存在。さぞ王国の極秘事項をごぞんじでしょうな」
「……ぐっ」
「しかし隣国としては、あまり王国を追い詰めすぎるのは良しとしません。ですので、先ぶれにも出したように『福音の勇者』と交換はいかがでしょうか?」
「……それは……できかねます」
「ふーむ。それでは話になりませぬな。では王宮魔導師殿はわが帝国で引き受ける形で文句はございませぬな?」


 それはそうだ。ボクは王国から追い出された身で、今や魔王代理だ。女王は何も交渉カードを持ってきていないのだろうか。


「おまちください!ぜひ一目会わせていただけませんか?」
「いいでしょう。帝国が無理やり連れ去ったというような誤解があってはなりません。ご自身で確認なされよ。これ」


パンパン


 将軍が手を叩くと大きな扉が開き、別室に待機させていた王宮魔導師が入って来る。


(な!?あれは!)











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